死闘のリザルト

 おたからの分け前をぶんどるべく、俺たちは教会を強襲した!


 礼拝堂の床に広げた品々を前に、威圧のサムさんと憐憫れんびんのリーズという布陣でエリナさんたちに迫る座長!


「それで、割合としては契約にのっとり、私ども一座が9割、教会様が1割というのが正しいと思うのですが」


「「「ええーっ!」」」


 俺と教会側の全員が驚きの声をあげた。座長は俺をジロリとにらむと、こうつけ加えた。


「そうか、クラインはこれじゃ不足だと言うんだな」


 言ってない、言ってないよ!

 それに、いつのまにか俺の権利じゃなくて一座の権利になってるよ!


「オニイチャン、カワイソウ」


 リーズ! 棒読みだぞ!

 それに変なこと言うな! 顔が赤くなるだろ!


「そ、それはいったい、どういう契約で……?」


 さすがのエレナさんも震えながら、座長に問いかけた。


「もともと私ども教会寄りの旅芸人は、教会の敷地でショウをして、9割の利益をいただき、1割を教会に収めるという取り決めをしております。このたびの収益は、このクラインがネズミとフェアリーのショウにて稼いだもの。そう考えれば9割は妥当でしょう」


 座長のその言葉を聞いて、その場の全員がうっかりうなずいた。ダマされてる、ダマされてるよ! エレナさんはバスケットに覚えがないし記録にもないって断言してたけど、これがもしお偉いさんの忘れモノとかだったらどうすんの⁉


 そんな様子を見た座長は、ニヤリと笑うと、さらに言った。


「と、言いたいところですが……輝きと教会様への日頃の感謝として、私どもは半分、すなわち5割にて、教会の教えにある、足るを知りたいと思います」




「……いいえ。貴方の言われることはもっともです。輝きとヒトとの契約を重んじる私たちこそ、契約に従い1割で足るを知りたく思います。そう言えば、感謝の言葉すらまだでした。クラインさん、命がけで神敵と戦っていただき、ありがとうございました」


 えっ、エレナさん、何言ってんの。この言葉には座長も驚いたらしく、あわててマジメづらを投げ捨てて台詞を継いだ。


「いやいや! そりゃダメだよ。だって、これだけの事件、上に報告しないワケに行かないでしょう? きな臭いブツだってある。放っておいたら貴方がた下っ端だけの責任問題になると思いますよ。教会に怪しげなモノの侵入を許した、って。そうならないためにも、教会地区長や郡長に渡す賄賂のぶんが必要でしょうが!」


「ええーっ」


 驚きの声をあげたのは、今度は俺だけだった。賄賂、って教会で堂々言ってしまっていいの、と思ったのだが……


 見ると、イケメン聖官と清楚なシスターは、少し顔を赤らめて、うつむいている。熟女シスターズは目が泳いでいる。サムさんはやや不機嫌そうだが命令されたとおり何も言わない。リーズはぼーっとした顔で、お宝を見つめていた。


「……オルゲンさん、過分にご配慮いただき、感謝します。では、ご厚意に甘えさせてください」


 エレナさんは、うるんだ瞳で頭を下げた。


 ああ……大人って汚い!


 賄賂が当たり前なところもそうだけど(喜んでやってるようには見えないけど)座長の考えも汚い。もし、半分寄こせ、って先に言ってたら、たぶん揉めてたと思う。だから、落としどころを最初から狙ってたんだな。


 ……うん。汚い、とは思ったが、このやり取りは覚えておこう。勉強になった。いつか俺にも必要になる考えかたのような気がする。


 今までの俺だってボッタクリ容認してたし!


 座長はサムさんに命じて、用意させておいた三枚のシーツを広げた。二枚は二つに折ってそれぞれ壇上へ、一枚は中央の通路の真ん中に。真ん中に広げたシーツの上に、いったん全部の品々を置いた。それから、あまり価値のない日用品と、お宝と言えるモノ、その二種類を大小の山に分けた。その小さい山のそばに、俺が入ったカゴが置かれる。



 まずは、日用品。

 どれも中古品の、旅行用トラベルアイテムだ。


 折り畳みテント。一人用で、少し壊れているが、直せば使えるかも。

 厚手のコート。旅マント。毛皮でできた防寒帽。水筒。火おこし。行商人とかなら結構欲しがるよな。

 魔灯ランタン。割と安物だ。こういうのはバッテリーにあたる人造魔石のほうが高いんだよな。

 ハッカイなた。サバイバルグッズだ。ドワーフ製には見えないフツーの数打ちってヤツだが、買えば高い。さっきから刃物マニアのサムさんがチラチラ見てる。

 これ以外に、保存食とか下着とか、ケースや壺の欠片とか、明らかなゴミがある。ていうか、壺の欠片は捨てろよ~



 そして、お宝とは。



 壊れたバスケットの蓋についていた、3つの魔付ボタン。魔法使いなんかから見れば、途方もない価値がある、かも知れない。


 リュックぐらいの容量の魔包ポーチ。おなじみの高級品だ。


 そのポーチの中に入っていた金貨と銀貨の山。小さい屋敷なら買えるぐらいの額じゃないか? でも、こんなコインを両替するのはロクな両替商のいない田舎じゃ大変だ。現代日本でも金の延べ棒はコンビニじゃ使えないもんな。


 魔付ボタンのついた、ラグジュアリー感あふれるあやしい小箱。殺してでも奪い取る、と思うヒトがいるかも知れないほどレアなアイテムな感じがして怖い。前に見たときより、なんかキラキラしてる。



「クライン、まずお前に権利がある。これは言わば、お前の初めての独演会で稼いだ報酬みたいなもんだ。どれが欲しい?」


 いかにも俺を尊重しているかのような座長の物言いに、正直言ってちょっとモヤモヤした。ショウなんかした覚えはないよ! でも、もともと何も貰えなかった可能性が高かったことを思い出して、気を取り直した。そうだな……


 そのとき。


 俺の脳裏に、あの、ゴブリン族の夫婦の顔が浮かんだ。今まで、あの人たちは、俺に何をしろ、とか、どうなってほしい、とは一度も言わなかった。それでも。俺が一座の花形になったことを、誰よりも喜んだのは、あの人たちだった。


 そうだ。芸人が初めての独演会で稼いだ報酬ギャラ。これは会社員に例えれば初ボーナスみたいなモノじゃないか……


 だったら。


 俺が欲しいモノより、あの人たちに贈って喜ばれるモノを。魔包ポーチとか……そうしたら、そのときから、また前みたいに、とおかあと呼んでも恥ずかしくならないかも……


 そんな俺の思いを見透かしたように、口ヒゲを撫でながら座長が言った。


「他の仲間への報酬なら、もちろん一座から出すぞ」


 その言葉を聞いて、俺はあっさり考えを変えた。俺の親孝行マインドなんてこんなもんだ。いや、変えたんじゃない。情けなく逃げ回ったショウ?よりも、もっと誇れる独演会をやる時まで、楽しみを先延ばしにするだけのことさ。



 それじゃあ、俺が選ぶのは……

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