教会を強襲せよ!

 ネズミ系モンスターとの死闘後……


 なぜ、生きているモノは入らないはずの魔包グッズに、俺は入ることができたのか、という疑問の答えを求めて、占いオババのドロシィさんに声をかけてみた……



「はっ、クライン。見てごらん」


 ドロシィさんはそう言って、自分のオシャレなデザインの魔包ポーチを開いて、俺に見せてくれた。のぞきこむと中には、ごちゃごちゃと色々なモノが詰め込まれていた。


 1/10スケールのサイズの品々が!


「ほら、入れたものが小さくなっているだろう。魔包に入れたモノは、大きさが10分の1、重さや頑丈さはそれなりになる。……って、あんまりジロジロみるんじゃないよ! 男に見せたくない物も入ってるんだから」


 彼女は、ドクロの指輪をした右手を自分のポーチに入れ、煙草入れを取り出した。


「ね。もし絶対に生き物が魔包に入らないのなら、生きてる手を入れることなんかできない。つまり本当のところは、生き物は魔包に入らないんじゃなくて、小さくならないから、入れても意味がない、と言うことなんだよ。そして、生き物が身に着けているモノも小さくならない。もし違うとしたら、私の指は指輪に切断されたはずさ」


「あの~」


 俺はおずおずと、いちばん確かめたかったことを聞いた。


「それって、魔包を持っているヒトにとっては、常識なんですか」


「当たり前だろ。わざわざ他人に話すほどのことじゃないし。だいたい、あんたは私や座長とかが魔包を使っているところを見てるはずだよ。勉強しようって気持ちが足りないよ」


「はは……」


 恥ずかしいです。


 ……でも、やっぱり。


 そんなような気がしたんだ。前世でも、素人は〇〇だと思っているけど、玄人は△△だと判っている、なんて話、ありふれていた。要するにこれって、現代日本に置き換えると、高級時計あるある、ぐらいの感覚なんだろうな。そして、現代日本ならそんな情報を頼まれもしないのに拡散する人がいるけど、ナッハグルヘンにはいないもんな。ネットもないし。


 あと、魔意味ミームな存在である俺が、「魔包に生き物は入らない」という常識ミームに反してあっさり中に入れたのは、あれが魔包グッズだと思わなかったから、なんだろう。たぶん。もちろん「魔意味ミーム」と「常識」は最初から違うモノだけどな。カン違いするときもあるけど、魔意味ミームについての世界一の専門家(たぶん)であるんだから間違いない。


「あ、それからですね……」


 俺は、魔物の体内でハッカイなたが普通の大きさに戻ったことを話して、そんな都合のいい現象がなんで起きたのか見当つくか、と尋ねてみた。こんな凄い使い方……そう、アニメの怪しい中国拳法みたいに「敵を内部から破壊するワザ」が可能なら、将来きっと役に立ちそうな気がしたからだ。


 そうしたらドロシィさんは俺の体験談に食いついてきて、結局最初から話すことになってしまった。


「そりゃ大変な目に会ったねえ。よく頑張った」


 この人に褒められると照れちゃうね。


「ちょっと話を戻しますけど、あの魔物みたいなこと……たとえば、ポーチに入れといたナイフとかを出すとき、普通の大きさに戻ったそれが手に刺さった、なんてことはあるんですか?」


「聞いたことないね。中のものは念じるだけで正しく手に収まるし、口のあたりで元の姿に戻るように魔包具は作られてる。壊れてなければね。壊れた魔包がどう働くかなんて、作った魔法使いにも判らないんじゃないかね。ん……もし、ナイフが手に刺さったとしたら、そいつは酷く運が悪いと思うよ」


 あっ、そっか。俺の妖精魔法の不運ハード・ラックは、ちゃんと働いていたってことか。……でも、たぶん再現できないだろうな。狙ってやってないからなあ~


「それより、あんたはおたからを見つけたこと、座長に言ったのかい?」


「いやあ、あれは教会にあったんだから、教会のモノでしょ」


「馬鹿だね、あんたが見つけたんだろ。しかも教会のために働いている途中で。少しは貰う権利があるに決まってるよ。がめつい座長なら、きっと何かぶんどってくれるさ」



 少し、とか、何か、どころじゃなかった。



 その日の公演の終わり。

 もともと、ある程度は報告していたのだが、お宝のことを詳しく話したとたん、オルゲン座長を俺をひっつかんで鳥カゴに投げ入れ、ハッカイ族のサムさんとゴブリン娘のリーズを呼んだ。これから娼館に行くつもりだったサムさんは少し不機嫌だったが、埋め合わせすると言われてシブシブ従った。なんか面白そうなことが始まりそうだ、と感じたリーズはノリノリだ。座長は二人にいくつか命令した後、全員で教会にダッシュで駆け込んだ。


 人数が多いので、俺たちは礼拝堂に案内された。座長は開口一番、教会の安全管理不足で俺が傷ついたぶんの補償が必要なこと、発見した俺がお宝の権利を持っていること、対して教会側の損害は想定内であること、を、声も荒げず事務的に申し立てた。


 巨漢でスキンヘッドで刺青顔のサムさんは腕組みをして座長の後ろに立ち、美幼女のリーズは泣きそうな顔(わざとらしいぞ)で俺のいる鳥カゴを抱きしめるように持っている。


 同席していたコテコテさんが『でも研究の一環ですから~』と言うのを契約書を持ち出して論破している間に、熟女シスターズに勝手に頼んで、あのとき壁からあふれたアイテムをすべてここ礼拝堂まで運ばせた。


 そして、問題はお宝の分配の割合だ、という強引な結論に持っていった。


「それで、割合としては契約にのっとり、私ども一座が9割、教会様が1割というのが正しいと思うのですが」


「「「ええーっ!」」」


 俺と教会側の全員が驚きの声をあげた。座長は俺をジロリとにらむと、こうつけ加えた。


「そうか、クラインはこれじゃ不足だと言うんだな」


 言ってない、言ってないよ!

 それに、いつのまにか俺の権利じゃなくて一座の権利になってるよ!


「オニイチャン、カワイソウ」


 リーズ! 棒読みだぞ!

 それに変なこと言うな! 顔が赤くなるだろ!

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