ひかり輝く贈り物

 俺が見つけた、誰のモノかは判らないおたから

 オルゲン座長は、こう言った。


「クライン、まずお前に権利がある。これは言わば、お前の初めての独演会で稼いだ報酬みたいなもんだ。どれが欲しい?」


 どれが欲しい、と言われれば、そりゃあ……


 まず、小箱は論外。地雷臭がムンムンだ。

 魔包ポーチはサイズ差を考えて涙を飲んで諦める。

 カネも欲しいが……


 俺は、どうしても3つの魔付ボタンが気になる。


 そのうちのひとつは、普通のバスケット・ケースを魔包に仕立て上げたモノだろう。これがあれば、魔術師マジシャンのトマタさんとかに頼んで俺専用の魔包グッズが作れるかも知れない。これは確実に俺の役に立つ。


 ふたつ目は、たぶんネズミ除けの結界のようなモノだろう。この効果は、俺が身を持って知っている。これがあれば、俺がこの先も鼠の形態ラット・モードを使い続けるとしたら、とても有用になる。なにしろ、ネズミ相手になら透明人間になれるんだからな。カッコ良く言うなら、ネズミの認識やら魔法を妨害ジャミングするんだから、ラット・ジャマーとでも呼ぶか。


 そして、三つ目の魔付ボタン。


 フェアリーのときには、他のふたつのボタンよりはるかに高い魔力を感じた。これが何の役に立つのか、まったく俺には判らない。でも、何か、後で、必ず必要になる。そんな気がする。小箱みたいに嫌な感じはしない。詳細不明だが、それなりの魔術師に鑑定魔法アプレイズをかけてもらえる機会もあるだろう。ドロシィさんやトマタさん程度の使い手にはムリだろうけど。そうでなくても、持っていれば効果が判る日が来るかも知れない。


 もし、今これを手放せば、もう二度と手に入る機会はない。

 何の根拠もないが、そんな感じがする。


 迷いに迷って、俺は結論を出した。

 欲張りと思われるのははじぃし。


「俺は、この魔付ボタンが……」


 俺はその、3つ目のボタンを指差した。


「そうかそうか。欲がないな」


 オルゲン座長はそう言って、3つのボタンを無造作に握りしめた。


 えっ?


 そしてそのまま、リーズに渡して頼んだ。


「リーズ、このボタンを、壇上の右側のシーツの上に、置いてくれ」


「はーい」


 えっ、3つとも俺のもんにしてもいいの?

 後で返せとか言わないよね?


「あっ」


 駆けていこうとした幼女を見て、シスターズのひとりが声をあげた。


「なーに?」


「いえ、何も……」


 座長の小ワザが光るなあ。ふてぶてしいオッサンに抗議は言えても、いたいけな幼女には言えないもんな。でも俺には、文句は、ない。ふひひっ。いつのまにか俺自身もオルゲンさんにダマされてるような気がしないでもないが。


「と言うことは、これで残りは決まったようなもんだな。まず、日用品は全部どうぞ。バザーにでも出してください。これが教会のぶんのひとつめ」


 えっ、こんな中古品まで勘定に入れるの?  そりゃ買えば結構な額になるけど。しかも太っ腹ムーブまでしてない?


「それから、この小箱は報告に必要でしょうから、そちらに。魔包ポーチもそう。リーズ、この2つは左のシーツの上に置け。これで双方、公平に3つずつ」


 おいおい、公平だって⁉


「後はカネですね」


 座長は現金をキッチリ二つの山に分けた。ひとつのカネの山を、自分のポーチにざらざらと入れ(おいおいおい)、そこから小さめの金貨を何枚か取り出すと、


「これは輝きからの贈り物、ということで」


 教会の全員に一枚ずつ渡した。エレナさんとコテコテさんは神妙な顔で受け取ったが、シスターズはニコニコ顔だ。


 はっきり言って口止め料だな~


「ぶひっ、おれ、おれ、それ欲しい」


 ハッカイ族のサムさんが、日用品の中にあった、まだ汚れが残るハッカイなたを指さした。座長はかすかに舌打ちして(聞こえたぞ)、銀貨1枚をエリナさんに渡して引き換えに鉈を貰った。あれは銘みたいな印があるけど、ただの実用品だ。でも、サムさんは機嫌を直して嬉しそうだった。もともと1本持っているはずだけど、刃物マニアだもんな。


 俺も欲しいけど、あの鉈は普通の大きさだからな~


「あたし、これ欲しいーっ!」


 可愛い声に、全員が壇上を見た。リーズが長耳をゆらし、ぴょんぴょん跳びはねている。



あの、キラキラ輝く妖しい小箱を手に持って。



「それはダメっ!」



 エリナさんが叫び、壇上に駆け上がろうとしたとき、


 俺の目にはスローモーションのように、


 それは起きた。


 リーズが、ニコニコしながら、


 ふざけているのか、


 好奇心なのか、


 小箱の魔ボタンを押すと、



 誰が押しても、反応がなかった小箱は。



 ぱかっと開き、転げ落ちた。



 その中から、光の矢が 放 た れ、



 リ ー ズ に 当 た っ た。


 


 幼 女 の 瞳 か ら、




 光 が 消 え、




 そ の 目 が閉じられた。



 リーズは、ゆっくりと、後ろに倒れ


「リーズ!」


 俺の叫びが、鳥カゴの中に響く。エリナさんが間に合い、ぐったりとしたリーズを抱えた。俺はカゴを飛び出し、リーズを囲む大人たちの輪の足元を駆け抜け、サイズ差はともかく妹ポジションの幼女の姿を。


 見た。


 だらんと下がった左手の薬指に、いつのまにか、ひかり輝く指輪がはまっているのを。


 そして。


 ふわふわの緑色の髪が、さらさらの輝くような金髪に、みるみる変わっていくのを。


「生きてるわ。でも、これは……」


 エレナさんが呟いた。


 俺はリーズの笹耳を引っ張り、しぼり出すように、言う。


「どうしたんだよ、リーズ。息してるじゃないか。寝たフリなんかするなよ。起きろよ、リーズ……」













「リーズ?」








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