反撃のぷれぜん
ハイエルフによって空のかなたに拉致された、「俺の妹」リーズ。
ゴブリン族の夫婦、俺の親がわり、ゴラズさんとブリナさんの遺言。それは身長18センチのこの俺に、彼らの娘リーズの救出を託した、としか思えなかった。
『クライン、妹を』か……
そんなとこだろう、と思ってた。
「じゃ、ちょろっと行ってきます」
「はあ?」
オルゲン座長は、呆れたような顔で言った。
「行ってきますってなんだお前、美しきハイエルフ様んとこへか。本気で言ってるのか? 屋台で串焼き買ってきます、みたいな調子で言いやがって!」
「やだなあ、座長……」
オルゲンさんに微笑んだ……つもりだったが、顔はバリバリ音を立ててるような気がするほど
「ははっ、はっ、自分がとんでもないこと、しようとしてるなんて、判ってますよお。どこに連れ去られたかも知らないのにリーズを取り戻そうだなんて。まあふたりはそんなつもりで言ったんじゃなくて妹を諦めろって伝えたかったのかも知れないけど仕方ないじゃないですかだって血がつながってなくてサイズ違うけどやっぱ親だしそれに俺をヒトにしてくれたし血がつながってなくてサイズ違うけどやっぱ妹だしそれに俺を兄にしてくれたし何よりこの俺がもうリーズをそう妹を助けたいって思っちゃったんだからだけど逆に殺されちゃうかも知れないしそんならせめて明るく軽く言うしかないでしょそれに俺だって悔しくて悲しくてこの……まま……何もしないで……諦め……俺は、俺は……そんなの、そんなの……」
ああ、喉に針が刺さったように痛む。
うつむいた顔から、ポタポタと鼻水やら何やらのしずくが垂れてる……
「そんなの、小さすぎる……」
ふと、顔を上げると、一座のみんなが俺を見ていた。ううっ、勢いにまかせて、なんかとんでもなく恥ずかしいこと言ったような気がする。あわてて手首で目元を
「そしてお前は、ついでに俺たちも殺すワケだ」
「えっ」
「だってそうだろう。お前が具体的に何をするのかは知らん。だがな、美しきハイエルフ様に歯向かう、ってのはそういうことだ。お前が何かをやらかして、俺たちがその関係者だと知られたら、俺たちも殺される」
オルゲン座長は、みっつの遺体を横目で見て、クイっと顎で指した。
「あんなふうに」
「そう、ならないようにします」
「どうやって? 言っとくが、一座を解散する程度のことは俺も決めていたぞ」
みんなの口から、ああ、とか、やっぱり、という声が漏れた。
「それは……」
「今すぐ、考えろ。その程度もできなきゃ止めろ。それに、お前は結局、何をどうするつもりだった? それを聞かせろ。俺たちの命も掛ける以上、お前は俺たちを納得させる義務がある」
座長は口ひげを撫でながら、大きな声を出した。
「クライン! 俺たちに『ぷれぜん』して見せろ!」
俺の
1.できるだけ安全に、ハイエルフと話し合う。
2.できるだけ確実に、リーズの居場所を聞く。
3.できるだけ素早く、リーズを救出に行く。
言ってしまえば、ただそれだけだ。
しかし。
俺は殺されるかも知れない。やりかたによっては、他のハイエルフから報復されるかも知れない。あやふやな情報しかゲットできないかも知れない。準備や救出にひどく時間がかかるかも知れない。
俺は
プレゼンしながらも考えて、座長の投げかけた問題にも答えを出した。いくつものグラグラする仮定の上に成り立っている、まるで曲芸のような俺の「作戦」の説明が終わると、一座のみんなが口々に言う。
「正直言って、聞いてるだけで頭が痛くなるニャ」
「まあな。だが、いちおう筋は通ってる、ように見える」
「ぶひ、殺さないの、腹立つ。でも、仕方ない」
「なんつーの、でたとこ勝負だなあと思うワケ」
無口な雑技チームたちは、ただ肯いた。ドロシィさんが真剣な顔で俺に詰め寄った。
「目の前に起きたことを察することができたのは、褒めてやるよ。でも、約束しとくれ。まず、教会でエレナさんに真実の
「……約束します」
「それなら、これをあげる」
ドロシィさんがくれたのは、ドクロのデザインの指輪だった。
「これって、占いの舞台で使っている魔道具ですよね。こんな貴重なモノは……」
確か、修行時代に師匠の師匠から貰った、とか聞いた覚えがある。
「遠慮しないで持っておゆき。この魔道具のちからは、手近なモノに頭で考えた文章を書き込むことができる。書き換えるのも消すのも簡単さ。美しきハイエルフ様と話し合いするとき、宿屋に筆記用具がなかったらどうしようもなくなるだろ?」
「なんつーの、遅くなったけど、アレできてるから」
トマタさんが寄こしたのは、俺が前に発注した魔包。例の魔付ボタンとシスターズのロウ引き小袋を素材にして、口の大きさはポーチ並みに広げ、俺サイズの魔包リュックに仕立てた逸品だ。優れたマジシャンは自分で小道具を作る。そのワザを見込んで頼んでおいた。
「お代はタダでいいよ。あと手品の小道具もいくつか入れといた」
トマタさんはウインクしてそう言った。ありがたい。
「ぶひ、俺、これやる」
ハッカイ族のサムさんは、俺サイズの槍のようなモノをくれた。いや、これは槍じゃない、刺青用の針だ! サムさんは前に自慢していた。先祖代々使っていたモノだと……
俺はもう、遠慮しない。ただ期待に応えよう。
そして、雑技チームやら裏方のヒトたちからも旅グッズを貰った。魔包リュックがある今、普通のリュックに入る程度の物は持ち歩ける。……どうしてみんな、こんなに優しいのかなあ。おっと、また目に水か溢れてきた。恥ずかしいぜ。
「それじゃ、俺からはカネだ」
座長が寄こしたのは……財布に入れた、高額金貨の山だった。
「えっ、さすがにこんなには……」
もう遠慮してるよ!
「持っていけ。実は、さっきからお前の言動に疑問を持っていた。美しきハイエルフ様と話し合いさえできればいい、その先のことを考えない、あまり考えたくない、って、そう思ってるんじゃないか? だから最初は、俺たちの安全にまでは気が回らなかったんだ」
「……そうかも知れません。でも、その先に、これほどのカネが必要になる事態って、何なんですか?」
「美しきハイエルフ様との話し合いを無事に過ごせても、リーズを救うのは何年もかかるかも、とお前は言った。その間、お前はどう過ごす? このカネで、お前は買わなければいけないモノがある」
オルゲン座長は口ヒゲを撫でて、言った。
「それが何か、お前に判るか?」
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