〜第3話〜

まるで王宮のように大きい学園。正門の前で馬車が止まると御者であるフィルが扉を開け、胸へ手を当てると軽く一礼。ミナが先に降り、シャルロッテへと手を伸ばすと、それに手を乗せ優雅に馬車から降りる。シャルロッテの足が地へ着くのと同時にミナも頭を下げると「ありがとう。」と一言呟く。

貴族の中でも有名なシャルロッテ。彼女の姿を目撃する生徒はヒソヒソと噂を始める。


「ほら、あの方竜巫女の…」


「あの、傲慢と噂の……」


冷ややかな視線。貴族であるプライドから行った行動で噂される有りもしない事。そんな話に耳を傾けることなく、毅然とした態度で校舎までの長い道のりを歩き出す。

校舎が近付いてきた所で見た事の有る、王家を継ぐものにのみ現れるくすむ事を知らない白髪の後ろ姿。───婚約者である皇太子殿下、イグニス・ルノア・クレイトスだ。

彼とは生まれた時からの婚約者で有り、彼もまたミナと同じく親友の様な存在だ。然し、彼は紛れもない皇太子殿下。少し早歩きで彼の前へ歩を進めると、目前で右手を左胸に当て片膝を付き深く敬礼を見せる。


「イグニス殿下。お久しぶりでございます。シャルロッテ・アレキサンドルでございます。」


するとイグニスはクスクス、と楽しげに笑みを見せながらシャルロッテへと左手を差し出す。


「良いよ、シャル。僕と君の仲だろ?今更そんなの要らないよ。」


差し出された左手を取りゆっくりと立ち上がると笑みに返すように目を伏せる口元を緩め柔和な笑みを向ける。


(こんな私にも優しいイグニス殿下。このお方がまさか、あんな風にお代わりになるなんて…)



[…ロッテ……貴様を……とし、暗……の……とする]


不意にフラッシュバックする前世のゲームの記憶。それに頭を痛めると顬を押さえふらりと後ろへ倒れそうになる。危うく、というところでイグニスの腕がシャルロッテの背を支え、紅く輝く瞳を真っ直ぐに彼女へと向ける。


「…っ!シャルロッテ、大丈夫か!?」


「……え、ええ。…ありがとうございます、イグニス様」


(今のは……)


もう一度、そのシーンを思い出そうと思考を巡らせるも背後から慌ただしく走り、シャルロッテへと衝突する少女にその思考は遮られてしまった。


「…いっ、てて……。…!!だ…大丈夫ですか…!?すみません。すみません…。」


(このセリフ、まさか…!)


幸いにも転んでしまうと言う失態は防げたものの、何処かで聞いたことのあるセリフ、恐る恐る背後へ振り返るとそこにはまさに『らぶどき』のヒロインであるリュカがシャルロッテに対し何度も頭を深々と下げる姿があった───。


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悪役令嬢転生後、まさかのヒロイン潰し───!? 東雲 @Shinonome123

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