第26話 戦いの序章
騒々しい音で目を覚ました。よほど疲れていたのだろう、朝を迎えるまでが一瞬の出来事だった。薄明かりの陽光が差し込み、鉄製の扉を叩く激しい音が部屋に響く。あまりにも対照的な目覚ましの音に、急いで飛び起きて扉へと向かった。
重い扉を開けると、そこには兵士二人と、その後ろにトゥルエイトが立っていた。
「すまないね。客人だからと止めたのだが遅かったようだね」
トゥルエイトは申し訳なさそうに微笑む。どうやら、兵士二人が独断で扉を叩き起こしたようだった。
「そちらの女の子はまだ本調子じゃないんだろうね。そう言えば、君たちの名前も聞いてなかったね」
「僕はクオトラ。こっちはフレーリア」
「なるほど、クオトラにフレーリアか。さて、君は朝食を摂って、その後は少し体を動かした方がいい。ほら、二日も寝っぱなしだと体がなまってしまうだろう?」
トゥルエイトはそう言うと、クオトラの手をぐっと掴んで引っ張った。意外なほど強引だなと思いながらも、その手に引かれるまま歩き始める。フレーリアの体調もそろそろ良くなってくれるはずだ、とそう信じながら。
「この先に食堂がある。他の兵士たちの中には、君のことをよく思っていない者もいるかもしれない。だが、気にしなくていい。今日、彼らに認めさせればいい」
トゥルエイトの表情は笑っていた。だが、彼が何を考えているのか、クオトラには全く見当がつかなかった。なぜ彼がこんなに親切に振る舞っているのかも分からない。
考えながら歩いてる間に、城の門をくぐり右へ曲がると大きな二枚開きの扉があった。
「兵士用の食堂が、城の中にあるのか」
クオトラは少し驚いた。城と言えば、王族や貴族が使う場所だと思っていたからだ。だが、トゥルエイトは笑顔で説明を続けた。
「もちろん、使えるのは上級兵士以上だけだよ。だから、君のような一般人が特別扱いされることを、快く思わない者がいるんだ」
なるほどと思いつつも、クオトラは不安を覚えた。できることなら、別の場所で食事を取りたかった。
「わざとだよ」
トゥルエイトがぼそりと呟いた。扉が開かれると、規則正しく並んだ兵士たちが静かに食事をしていたが、扉が開くと全員の視線がこちらに向いたような気がした。
「そんなに警戒しなくても、大丈夫だよ。彼らも急に襲いかかってくるほど気性は荒くないからさ」
そうは言われたものの、彼らの殺気だった視線は嫌でも理解出来てしまう。トゥルエイトは笑いながら入口そばの席に座り、着席を促してくる。仕方ないと、トゥルエイトの前に座ると二人分の食事が運ばれてきた。
トゥルエイトは笑いながら入口近くの席に座るよう促してきた。仕方なくクオトラはその前に腰掛け、運ばれてきた食事に目を向ける。銀の皿に大きな肉の塊が載っており、その傍らには芋か米らしきものが添えられていた。試しに肉にかぶりつくと、香ばしい香辛料と脂の旨みが口いっぱいに広がった。これまでのどんな食事よりも美味しい。
「朝から肉ってのも悪くは無いだろう」
トゥルエイトはすでに食べ終わっていたらしく、クオトラの反応を楽しむように見ていた。
「もう食べ終わったのか……」
思わず驚きの声が漏れる。
「食事も才能だよ。一日は限られた時間しかないんだから、削れる時間は削るべきだろう?」
そう言いながらトゥルエイトは周りを見渡すよう促した。クオトラも見渡すと、他の兵士たちはすでに食事を終え、立ち去ろうとしていた。
「効率重視か……」
クオトラは納得しつつも、あまりにも美味しいこの料理をただの栄養補給として終わらせるのがもったいなく感じた。しかし、そんなことを言っている場合ではないと気を取り直し、急いで肉を食べた。
「さあ、食べ終わったなら、君の部屋に新しい服を届けさせたから着替えなよ。それから、修練場に来るんだ」
そう言うと、トゥルエイトは修練場へ向かうらしい扉の方へ消えていった。
「そうそう、その武器も今日は使わないから置いてきなよ」
声だけが廊下に響くが、振り返ったときにはもう彼の姿はなかった。急いで食事を終え、クオトラは部屋へと駆け出した。
部屋に飛び込むと同時に悲鳴が聞こえた。
「びっくりした。そんな急いでどうしたの? 」
「詳しく話している時間はないんだ。帝国軍の副団長と模擬戦をやることになった。もしかしたら、帝国軍に入ることになるかもしれない」
「そう……ごめんなさい、ここ数日の記憶がほとんど無いの。まるで誰かに体を乗っ取られたみたいな感覚で……。でも、きっとクオトラには何か考えがあるんでしょう? わたし、どこまでもついていくから」
フレーリアは驚いたようだったが、それを払うような身振り手振りを見せていた。
「分かった。後で僕の考えは話すから、少し休んでいて」
クオトラはフレーリアの笑顔に頷き、白い軍服に着替えた。それは帝国軍の兵士が着ているものと似たデザインで、所々に金属が使われているが、動きやすさは損なわれていない。手袋もはめ直し、再び部屋を飛び出した。
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