第61話
翌日。
この頃、彼女らのことばかりを考えている。小鳥遊さん、蝶番さん、金城さん。三人のことばかりを、ずーっとずーっと考えているような気がするのだ。こう、うまく説明できなくて難しいのだが、なんというか、女の子として意識しながら三人のことを考えている。
最近だと二人には会ったな。しかし小鳥遊さんには会っていない。ただたんに、そのような機会が巡ってこないだけだ。彼女も色々とあるだろうし、自分から『今から会おう』とか、誘うなんてことはしない方がいいだろう。
うん。嘘をついた。彼女に色々とあることはない。一日中遊んでそうだな。それならば僕の方から会う約束もできるのではないかと思う。それは確かに可能だと感じた。
「……」
なんと悲しいことに、僕は彼女の連絡先を知らない。それは他二人も同じことである。連絡先を交換するという話をしたことがないし、そもそも僕からそのような話をしたことがない。……友達いないし、この機能もほとんど使わない。
なんか悲しくなってきた。捨てようかな、スマホ。
馬鹿げたことを考えながら、一人で道を歩いていた。別に今日、塾があるわけでもない。バイトが入っているわけでもない。家にある食料の買い出しをするために、スーパーへ行こうとしているのだ。
道を歩く人は多かった。僕がよく通っているスーパーの辺りには住宅が並んでおり、それなりに人が住んでいる。まあ、当然といえば当然。なにせ、この辺りは結構土地が安いし、それに交通機関も充実している。さらには店が近くにあるという、なんとも便利な場所である。
……染みてきたな、この地域に。
こんな情報をどこから仕入れてきたのか、自分でも無意識に収集しているのかは知らないけれど、なんとなく住んでいると、そういう地域であることは分かってくる。
「僕の家からは結構歩くけど、ここが一番近いしなぁ……。そこから考えると、やっぱりこの土地は優良なのかな」
現在、僕が住んでいる家……マンションなのだが、そこは住宅地としてはかなり高級なものとなっており、周りにもあまり住んでいる人はいなかった。どうせならこの辺りに住んでみたいところだな。父さんが勝手に決めた場所だし。
ジリジリと日差しが強くなってきたものの、そこまで苦しくなるほどではなかった。正面から照らされる日差しは、真っ先に僕に向かって光を放っているかのようだった。後ろには影がついてくる。
「ん?」
すると、前から揺らいでる黒いものが見えた。ゆらゆらと揺れていて、こちらにぐんぐんと近づいてきているようだった。正体は分からない。
「なんだ?」
すぐにその黒いものは影であることを確認したが、やはり何がこちらに向かってきているのかまでは把握できていない。だが明らかに近くまで来ていた。な、なんか怖いな……。
「ワンッ! ワンッ!」
「え!?」
よく見ると、生き物だった。細長い、そんな生き物。
四足で、地面を俊敏にかけるその生き物。フサフサな犬が、僕に迫ってきていた。
そしてその犬が到着する。
「ワンッ! ワンッ!」
「うわっ! ちょっと……!」
僕の元に駆け寄るやつ否や、足元をぐるぐると回っては、ジャンプしたり、足に抱きついてきたりと、なんだかやりたい放題をしてきた。まあ、犬だし全然いいんだけどね。それに可愛いし。
見ているだけで癒される。これがドッグセラピーというやつか。はぁ……なんというかわいさ。愛らしさ。なにかこういうペットを僕も飼いたいな。
その犬には首輪がついており、一目で誰かが飼っている犬であることは理解できた。しかし誰の? どこから? ここへ来たのはどうしてか、などと色々な問題が残っている。
「おーい、君はどこから来たんだーい?」
「ワンッ!」
「どこだー?」
「ワンッ!」
「お手」
右手を差し出してきた。えらい。
「おかわり」
今度は左手を。えらい。
「伏せ」
お腹を地面につけた。えらい。
「意外と躾けられてるな、君。どこかの良い家で飼われてるんじゃないのか? んー? どうしたー?」
「ワンッ! ワンッ!」
伏せたまま、ゴロンと横に寝そべってきた。先ほどは全速力でここまで走ってきたというのに、かなりクールダウンが早い犬だ。舌を出して、『ハッハッ』と呼吸をしている。なんだか偉そうにしている。
「なんだー? 撫でてほしいのかー?」
「クゥン……」
「ああ、はいはい。ご要望にお応えするよー」
よく見ると、犬の首輪には紐が付いていた形跡が見られた。やはりこの犬は飼い犬で、そして、今現在は散歩していたということか。どこかでこの紐が切れて、それで逃げ出したという感じなのかな?
「でも、どうして僕の元に来たんだー?」
「クゥン……」
「気持ちよさそうにして……。ほらほら、もっと撫でてやるぞー」
本当に気持ちよさそうにしている。可愛いな、この犬。
「でも、一体飼い主は誰なんだろう。絶対に今、どこかで探してるよなぁ……」
僕が立ち上がると、なぜかその犬も立ち上がり、僕の方をジーッと見てきた。
歩くと、なぜか付いてくる。もしかしてこの短時間で随分と懐かれたか?
「とりあえず日陰に入ろうか。ここは日差しが強くて、暑いからね。ほら、こっちだよー」
日陰に入ったところで、その犬はピクッと何かに反応した。なんだ? ずっと横を向いているけど、何かが走ってきているのか?
いや、走ってきているというよりは、バタバタな状態で、走ろうとしている様子だった。その人は片手に紐……リードを持っており、犬の飼い主であることは間違いなさそうだった。
多分遠くから追ってきたのだろう。かなり疲れてそうだ。
遠目からだけど、その人は可愛らしい清楚なワンピース姿で、胸が大きかった。なんかこういうところだけは判別するのが早い気がする。
さらにその人の頭髪は、日差しのおかげもあってか、キラキラと銀色が輝いているようにもあった。
その人がようやく僕の元に到着した。
「ちょ、ちょっと……レトォ……! 走りすぎだってばぁー……! ボクがストップって言ったらストップするのぉー……! もう! 怒っちゃうからねー!」
「あ、あの……」
「あ……ありがとうございます……。ウチのワンちゃんが逃げ出しちゃって……。捕まえてくれて、本当に……」
はぁはぁ、と息を切らしながらも、僕という存在を認識した。
「く、曇くん!?」
小鳥遊さんが、そこにはいた。
……てか、なんで名前呼びなの?
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