第47.5話 晴と先生の会話

 朝になった頃のこと。晴と三司先生は、食事室にて話をしていた。


「晴……。お前、付き人である灰原とはどうなんだ? うまくやっているのか?」

「んー、ああ、まあ、うまくやってるといえばうまくやってるんじゃねーのかなぁー」


 晴はギクリと思ったのか、言葉がくぎれくぎれになっていた。マズい、そう感じているのだろう。


「ふむ、うまくやってはいるのだな」

「まあな」

「それで、どうだ? 灰原は優秀か?」

「優秀だぜ? 仕事ぶりは黒山よりも真面目だし、それに俺に優しいし、甘いしな。もう全然このままで付き人やってもらってかまわねぇぜ?」

「そうか。黒山は曇の方に付けることにした。必要はなさそうだが、今回のことと同様に色々とあるかもしれないからな。一応は付けておくべきだ」

「いいんじゃねぇの? でもなぁ、兄貴はあんまり人と関わるような人間じゃねぇからなぁ」


 お盆の中に入っているフルーツに手を伸ばす晴。スポンジで周りを覆われている桃を手に取り、かぶりつく。豪快に、顎を動かしてしっかりと噛み砕いた。


「たしかに曇は独りよがりだ。しかし、なぜあれほどまでにコミュニケーション能力が高いのだろうな。隔離していたのに……」

「外に出て、力が開花したんじゃねえの?」

「平凡な学校でか? アホを言うな」

「でもあり得ることだとは思うぜ? それに言葉遣いが若干汚かった。周りに影響されているのは確かだぜ」

「ふむ……」


 晴や曇の父……三司先生は、口に手を当て、眉間に皺も寄せて、見るからに考えているらしかった。その思考は長く、あらゆることを頭の中で整理しているかのようだ。施設関係以外にも仕事をしているのだから、頭の整理は行うべきなのだ。


「どうしたよ、親父?」

「……いや、外でどのような人間と交流を深めているのか、と思ってな。少しばかり気になるのだよ」

「ふーん」

「探るか」


 食べている桃を止め、晴は驚いた表情を自分の父に向けた。


「お、おいおい、そんなことしたら、マジで兄貴はブチギレるに決まってんだろ! 流石にマズいって! やめとけよ!」

「それなんだよ。まさにそれが危険だ。関係がこれ以上悪くなるのは避けたいんだけどな。さて、どうしたものかね」

「なら探らなくてもいいだろ……」


 正論を放ち、三司先生をもう一度考えさせた。


「友好関係にまで首を突っ込んじまえば、それこそ兄貴が施設に牙をむくぜ」

「いいや、友好関係ではない……」

「? じゃあなんだよ?」

「女性関係だ」


 またもや晴は驚きの表情を父親に向けた。


「どうした」

「じょ、女性関係ねぇー……。そりゃあ予想外だなー……」

「俺は元々その流れで話を進めていたのだがな。少し説明不足だったか……」

「……」

「曇の女性関係について詳しく調査したい。これは三司家が大きく関わってくるからな。いかに権力を分散させず、それなりに権力を持っている人材がいればいいのだが……」

「だからそういうことも全部ひっくるめて、兄貴は嫌がるんじゃねぇのかよ? つーか女性関係になったらもっと嫌がるぜ」


 三司先生はこれ以上のことは言わなかった。晴の言葉は確かなことであり、踏み込めば逆に追い込まれてしまう可能性だってある。


「やめとけやめとけ」

「……」

「家のことを気にしすぎなんだよ」

「ふむ」

「孫の顔が見たいなら俺で十分だろ?」

「それなら、すでに肉体関係である灰原との子どもということか」

「ぶはぁっ!」


 口に含んでいた桃を吐き出す晴。


「なんで知ってんだよ!」

「日頃のお前らの会話が完全に恋人同士の会話だからだ。それくらい察しがつく」

「……」


 何も言えない。


「やりすぎるなよ。付き人としての仕事に支障が出るかもしれん。それにお前にも影響してくる」

「さ、流石にそんなにしねーよ!」


 話がそれたものの、しかしそれを戻そうとはせずに、晴は食事室を後にした。


 扉の前で待っていたのは、付き人である灰原。主従関係でありながら、肉体を重ねた恋人関係。その二人の歩いている後ろ姿は、どこか幸せそうな感じであった。

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