第14話

 金城さんに呼び出された。


「なんであんなこと言っちゃうの!? バイトやってるなんて教えたら、あの二人が来ちゃうじゃん! てゆーか、もうそういう流れになっちゃってたし!」

「でも、僕の予定聞いてきたし……。それより、どうして金城さんは僕に壁ドンしてるんだい? それにどうしてバイトしてることを知られたくないんだい? 二つ続けてどうぞ」

「壁ドンはオタクっちを逃げられなくするため! あと一つは……そうね。メガネを取ったバイトだけのオタクっちの姿を、あの二人に見せたくないから!」

「たしかに壁ドンは、人を逃げられなくできて問い詰める際には有効的なのかもね」

「でしょ! だからこうしてるの!」


 階段の踊り場。誰かが来る気配もない。それもそのはず。ここの踊り場は屋上に続く階段にあるからだ。現在屋上は立ち入りを禁止されており、誰もここの階段は使用しない。金城さんはそれを知っていて、ここへ僕を呼び出したのだ。引っ張り出されたと言う方があっているのかもしれないが……。とにかく僕は、彼女の詰問に答えている。


 しかし分からない。どうして僕のバイトの姿を見せたくないのだろう。それを知りたいと思った。


「どうしてだ……?」

「え、何が?」

「いや、僕のバイトの姿を見せたくないのは、どうして何だろうって……。すごく気になってさ……」

「簡単な話だよ。だ、だってオタクっちのあの姿……」

「うん」

「すごくイケメンなんだもん……」

「ほへ?」


 間抜けな声が出てしまった。


 何度か聞いたことのある言葉。イケメン……か。金城さんって、やたらと僕の顔面偏差値を伝えてくるが、僕はそれを全て嘘の数値だと思っている。彼女の言うイケメンなんて人種は、この世界に少数しか存在せず、その中に僕が含まれていることは確実にないのだ。完全にデタラメ。僕をからかっているとしか思えない。


 バイト先の姿は、今のところ金城さんにしか見せたことがない。バイト先に泉が丘高校の制服を着た人はあまりおらず、常連客として金城さんがいるくらいだ。


「はぁ……。僕がイケメンなわけないでしょ……。からかうのもいい加減に……」


 金城さんは勝手に僕のメガネを、ヒョイと取り上げた。


「あ、何して……」

「……」


 金城さんが顔を赤くしていた。そんなことをそっちのけで、僕は自分のメガネの返却を要求する。


「返してよ、僕の大事なメガネ」

「バイト中は常に外してるじゃん」

「外してても多少は見えるよ。でもかけてた方が落ち着くし、バッチリ見えるのさ。だから、ほら、早く返し……」


 突然、体に柔らかなものが当たる。


「え……」

「んぅ……」

「ちょっ、なんで、抱きついて……」

「んんぅ……!」


 離れない金城さん。動けない僕。わけがわからない。


 すると彼女は僕の体をぐるりと回転させ、壁側に自身の体がくっつく状態になった。思いっきり壁に密着し、そして思いっきり僕の体が密着しているため、流石に戸惑うし、金城さんが押しつぶされてしまいそうで心配だった。


「き、金城さん? 苦しくない?」

「ん……。苦しくない……」


 僕の手は、彼女の顔の横を通り、壁をついている。


 そう、つまりは……。


「はい……。壁ドン返しだね……。オタクっちは大胆なんだね……」

「ぐっ……」

「これに免じて、口が滑ったことは許してあげます……。んふふー……!」


 いや、君自身がやったことだろうが。


 赤面した僕は、逃げるようにしてその場を離れた。



 ****



 学校が終わり、すぐにバイト先に向かった。


 本当にあの三人は来るのだろうか。あんまり邪魔ばかりするなら、即刻出入り禁止にしてしまおう。


 僕は店長を呼ぶ。


「あの店長ー? 今日だけ、メガネかけて仕事してもいいですか?」


 店長は片手にドリンクを持ったまま、レジにて機械をいじっていた。ちなみに女性の店長である。バリバリに仕事ができそうな感じだけど、かなりの怠け者で、よく他の従業員に注意をされている。注意をされている側だ。


「メガネ? いつもはかけてないだろ。どうして今日だけかね?」

「いえ、どうしても今日だけはかけておきたいんですよ。ちょっと色々ある予定なので」

「うーん。印象がなぁ……」

「そんなにメガネかけてる僕って印象悪いんですか?」

「ああ、悪いね。根暗すぎて不気味だね」

「普通に傷つきます。もうちょっと優しく言ってくださいよ」


 ズバッと言われ、少しショックだ。自分でも思ってることだから、あんまりダメージは大きくない。決して小さくもないけれど。


「それで……メガネは……」

「かけるな。いつもの感じで」

「えぇ……。で、でも……」

「不気味な店員がいて、もうこの店には来ないー、とか言ってくる客がいるかもしれないからね。どうする? それでここの店の客がゼロになったら」

「いつもの感じで行きます。すみませんでした」

「ああ、それでいい。なんせメガネがない方が人気だからね。あったら最悪、ないなら最高。差が大きく出てて、バイト君は面白い子だな」


 面白いなんて言わないでほしい。もうそんなふうに言われて、面白がられてしまうようになれば、バイト先でも学校と同じ扱いを受けかねないのだ。


「じゃ、じゃあ……、僕先にシフト入りますね……」

「ああ、今日もよろしく頼むよー。また女性客を虜にして売上に貢献してくれよー」

「は、はい……。はい……?」


 とにかく僕は仕事をする。


 従業員専用の部屋から出て、定位置であるレジに到着した。午後の五時ごろ、定時で帰る人の休憩場所のようなここに、僕のよく知っている女の子三人が現れた。

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