第12話

 金城さんは意気揚々に進んでいく。まるではしゃいでいる子供のように、とても楽しそうにズンズンとと進んでいく。数ある飲食店の中で、金城さんがご所望のレストランは、ここのショッピングモールで出店している他の店よりかは比較的に小さく、なんというのか、穴場とでも言えるくらいのお店であった。


 やっと到着したそこには、金城さんが食べたいと言っていたパフェのサンプルがガラス張りの展示品として外からでも見られるようになっていた。なるほど、これはたしかに食べたくなるくらいのボリューム。そして見ていても明らかに美味しいことが伝わってくるくらいに、さまざまな具材がのっている。


 ついに我慢できなくなったのか、金城さんが僕の手を離して、そのパフェのサンプルをジーっと眺めていた。


「わぁー! おいしそー!」

「意外とデカいわね。こんなのを食べるっていうの、音葉?」

「ウチだけじゃ無理に決まってるじゃん! オタクっちとかにも手伝ってもらうんだよー!」

「えぇ……。それってボクたちも参加しちゃダメなのかなー? これをみんなで分けて食べるってことでさー」

「もちろん良いに決まってるじゃん! なんせこのパフェは全部オタクっちのおごりなわけだしねー!」

「は? え? 本当に僕がおごるの?」

「そうだよ? だって瑠璃奈ちゃんがそういう話を進めてくれてたじゃーん! 忘れてた、なんて言わせないよー?」


 言ってたな、そんなこと。


 今すぐ帰りたくなったけど、財布の中に入っているお金を確認したいけど、ここは一旦穏便に済ませておこうと思う。このパフェを食べることで、僕の財布が底をつくほどに貧困ではないと自分でも思っている。


「はぁ……」

「ま、まあまあ……! とりあえず今日は払ってほしいかな……! お願い! 明日にはウチらがちゃんと割り勘で返すからさ!」

「返してくれるんだ……。ふーん」


 僕は自分の財布の中を見る。入っている金はいくらだろうと覗き込んでみたら、小銭は五百円玉一つである。しかし僕にはクレジットカードと呼ばれる超スーパーウルトラ便利なカードを親から借りているため、財布の中にお金が無くても、最終的には口座から支払うことが可能だ。ちなみに今の貯金は……いくらだったかな? 毎月両親が大量に振り込んでくるが、僕はあまりにもお金を使わないため、結局大量に余るのだ。確認してないけど、多分一千万は超えているはずである。


 パフェが二千円から三千円ほどであるから、まあ余裕で足りる。なんというか、かなりちっぽけな額に感じられる。なぜか突然カッコつけたくなったため、僕は彼女の提案を払い除け、自分の考えを押し通した。


「いや、返さなくていいよ。僕が全部払ってあげるからさ」

「でも……」

「いいよ。別にメリットなんて僕にはないけど、まあ、別にいいよ、おごってあげても。つまり僕は金城さんだけでなく蝶番さんにも小鳥遊さんにもおごってることになるね。それでもまあ、いいよ」

「なんだろう、その絶妙に嫌そうな感じが残ってるのは……。でも、あ、ありがとうオタクっち……!」


 とっとと払って帰りたい(別に用事があるわけではない)。とっとと食って帰りたい(食べたい気持ちはある)。ただそれだけの思惑である。金は余るほどにあるのだ。使わなければもったいないと思っている自分もいる。……なら先程の服とかも買えばいいのでは? と思ったが、あれは流石に僕では着こなすことはできない。


 それに僕がどうお金を使おうと、誰かにとやかく言われることもない。うーん。両親から振り込まれているこのお金。使うのは気が引けるが、まあいい。使ってしまおう。これで彼女たち三人が美味しくパフェを食べてくれれば、僕は解放されるのかもしれないし。


「とりあえず席に座らないかな? 店員さんが僕たちに気を遣ってくれて、なかなか接客で話しかけてこないんだよね。ほら、なんか躊躇しちゃってるし……」

「そ、そうだね……」


 店員さんの顔は、まるで『お気になさらず』とでも言いたそうな顔だった。



 ****



「ふぅ……。なんだかさっきまでのオタクくんとのデートは疲れたねー。ボク、久しぶりにあんなに色々と振り回されたよー」

「振り回した? 僕が? それってご自分の間違いなのでは……」

「よーし! もうお目当てのパフェは注文したことだし、あとは待つだけだね!」


 金城さんの元気な声によって、僕の声はかき消されてしまった。


 しかし小鳥遊さん。どういう風の吹き回しなのか分からないけれど、ついに自分が被害者のようにでっち上げている。僕としては完璧に僕の方が振り回された感覚だ。絶対に彼女よりも疲れがある。


 小鳥遊さんはグデーンとして、テーブルに溶けるような体勢で力を抜いている。


 それにしても……。


「窮屈なんですけど……」

「んー? どうしたのー、オタクくーん?」

「どうかしたの? オタクっち?」


 二人とも別になんとも思わないのが不思議なくらいだ。流石に察しろよ、洞察力を鍛えてくれ。


 一つのテーブルに四人が座るはずなのに、なぜか僕の両隣に二人がいるのだ。どちらか一方が、向かい合って座っている蝶番さんのところへ、もしくは僕が彼女の隣へ行ってもいいかもしれない。だけど僕は彼女が苦手だし、彼女も僕のことはあまり友好的には思っていないはずである。


 さあどうする? この際、もう僕から動くかな。腰を持ち上げようと思ったその時、予想に反して蝶番さんが二人を止めた。


「マジでオタクが苦しそうだから、二人ともやめてあげなー」

「え? あ、うん……」

「ていうかさ、なんでアタシの横には誰もいないわけ? どっちかが来てもいいと思うんだけど。それとも何? 二人ともアタシのこと嫌いなのかー?」


 実は寂しがり屋なのかな、蝶番さんは。


「そういうわけではないけど……。でも、どうしてもボクは……」

「だってオタクっちの隣がいいんだもん……」


 両隣でボソッと言ったのが聞こえた。


「はぁ……」


 大きなため息をついた蝶番さんは、僕を見てクイッと首で合図を送ってきた。


「オタク、隣来て」

「へ?」

「「えっ!?」」

「だから、隣に来いって言ってんの。その二人の間だと、なんか押し潰されちゃいそうで心配だわ」


 なんと、僕のことを心配してくれていた蝶番さん。あらー、なんかもうこの子の評価が現在爆上がり中だ。思わぬところからの助け舟であったため、少し混乱していたがお言葉に甘えて、しれっと彼女の隣に座った。


「はい、これでもう窮屈じゃなくなったわね。アタシに感謝しな」

「う、うん……感謝、だね……」

「アタシに借りができたわね」

「借りって言うほどのことかな?」


 助けられた人間が何言ってんだろうな。立場を弁えろよ、僕。


 小鳥遊さんと金城さんは、子供っぽく不満そうな顔をしていた。金城さんは見るからに不機嫌で、そして小鳥遊さんは、今日何度も見た頬を膨らませた顔。普通に可愛い。


 そうこうしているうちに、やっとパフェが来た。やはりサンプルと同じで大きいな。先程まで不機嫌だった金城さんは、魚が水を得たかのようにパァッと明るくなった。感情表現が豊かで面白い。羨ましいくらいだな、全く。


 その大きなパフェを、流石に金城さんは一人で食べるのは不可能だ。店員さんに人数分のスプーンを用意してもらい、食べる準備ができた。


 そして、パクりと一口、食べてみた。


「うん、美味しい」

「おいしー!」

「うんま」

「んんー! さいっこー!」


 僕たち四人はこの瞬間だけ、最高に幸せだった。


 こうして僕の長いようで短かった放課後が終わる。



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 姉線香です。


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