第11話

 ガヤガヤとしていた通りを抜けて、その先にあるエスカレーターを使用し一階に向かった。仲良し三人組は無理矢理にでも一段に全員で入ろうとしているため、なんだか窮屈そうに感じた。別れて乗れよ、とは思う。


 一階には飲食店が多く出店しており、どれも有名チェーン店ばかり。そりゃあここのショッピングモールはお客さんが多くくるわけだし、出店しない理由もないはずだ。


 僕たちが向かうのは、金城さんが食べたいと言っていたスペシャルフェアを行なっているレストラン。そこの特別な期間限定のパフェを彼女はご所望らしいのだ。パフェが食べたい、か。なんとも女の子らしいんだ。ちゃんと女子高生をしているんだな。


 三階からエスカレーターで降りていく。ちなみに僕は彼女ら三人の後ろの段に立っている。なぜか金城さんが頻繁に後ろをチラチラと確認してくることがあり、とても気になった。ああ、ここへ来る前の小鳥遊さんみたいに、僕がついてきているかの確認なのだろう。


 そうしているうちに、エスカレーターに区切りが来た。



 ****



「さ、て、と……一階に到着ー。それじゃあ音葉ちゃんー、そのお目当てのレストランというのは一体どこにあるんだーい?」

「こっちー!」


 すると突然、僕の手に温もりが広がる。確認してみると、誰かの手が僕の手を握っているのだ。

 小さな手。爪には小洒落てキラキラとしている物を、両方の爪にいくつか付けている。

 金城さんの手であった。


「あ……」


 小鳥遊さんがそれに気づいた。


「はぐれちゃダメだからねー、オタクくーん?」


 そう言いながら、そっと、そして自然に、僕の手を取る。


「はい。どうして手を繋いでいるんだい?」

「んー? はぐれちゃダメだからだよー? ほら、音葉ちゃんだってやってるじゃーん」

「やってるけどさ……」


 金城さんは僕らの会話を聞いていたらしい。自分の話題が出れば、本人はそれが気になってしまうのはなんら不思議なことではない。


 金城さんは後ろを振り向く。


「ウチがどうかした? ……って、何繋いじゃってんのぉー!」

「音葉ちゃんだって繋いでるけどー」

「これは繋いでると言うよりは、ウチから一方的に握ってるの! 綾のは何? それは完全に恋人同士でする、恋人繋ぎっていうやつですけどー!」


 よく見ると、ではなく、よく手の感覚を感じ取ると、僕の指と小鳥遊さんの指が交互に重なり、絡み合っているのが分かる。それにしても、小鳥遊さんも手が小さいのか。この三人の中で一人だけ少し大きい背丈だけど、あんまりそういうのは手の大きさには関係しないのかも知れない。


 だが恋人繋ぎとは……。普通に意識すると恥ずかしいな。いや、金城さんに握られているのも十分恥ずかしいのだけれど……。恋人繋ぎはかなり効果的だ。これも僕を赤面させるつもりでやっていると思うと、小鳥遊さんがかなりの策士であることがうかがえるな。


「うぅー! じゃあウチも恋人繋ぎするー!」

「なんで金城さんまで……。まさか小鳥遊さんと同じように、僕を赤面させたくてそんなことを……?」

「せきめん? 何それ? どういうこと?」

「あー……」


 二人は共犯ではないことを察した僕。そして小鳥遊さんが少し焦っていることも察する僕。


「オタクくーん? 何言ってるのかなぁー? あんまりベラベラと人のことを言ってはいけませんって、小学校の先生に言われなかったのかなー?」


 小鳥遊さんは握力を強める。だが決して痛いわけではない。むしろ気持ちいいくらい。こんな強さで僕を痛めつけようと思うなんて……。


 たしかに個人情報(それくらいに大切なことなのかは分からない)については、一般的に人に伝えることではないと知っている。つまりは、あれだろ? 小鳥遊さんのみが僕を重点的にからかおうとしているのだろう? 赤面させることで僕を面白がるのだろう? それを一人で。そのことを金城さんには知られたくない、と……。そういうことだと思う。


 僕を独占的にからかうために……。


 しかし、小学校ねぇ……。個人情報の取り扱いは、すでに小学校での必修科目のようなものとして推し進められているのだろうか。僕は全く知らないな。


 とりあえず二人とも、いい加減に手を離して欲しかった。そんな僕らを見かねた蝶番さんは、金城さんに聞く。


「アンタら仲良いわね。綾はともかく、音葉はいつからそんなにオタクと距離が近くなったわけ?」

「へ? んー……。そう聞かれると、ちょっと困るなぁ……」


 金城さんは声を小さくして、『初めて会った時からとか、言えないし……』と続けた。


「え? なんて?」

「い、いや、なんでもないよ!」

「……」


 小鳥遊さんは無言でいた。


 たしかに初めて会った時、彼女はもはやすでに仲のいい友達だったくらいに距離が近かったのを思い出す。なら、こうなって手を繋いでいるのも、金城さん及び小鳥遊さんにとっては普通なのだ。そんな彼女らにとって普通なことに、僕はどうしてこう恥ずかしくなったり、たまに顔を赤くすることがあるんだ。考えれば、彼女たちはまだ本気を出していないということにも思えてくる。まだまだ序の口。そんなふうに感じられてしまう。


 覚悟しておかないとな。

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