33 少女と大遠征(4)

 



 深い闇の中、吸い込まれる様な漆黒の髪を風に揺らせた1人の女が、岩陰にぐったりと横たわる少女の頬をねっとりと撫で回していた。


「うふふふ〜、お城に着くまでにちょぉ〜っと味見しちゃおうかしらぁ、ノアちゃん。」

「・・・触ら、ないで。」


 舌舐めずりしながら見下ろすイザベルを、ノアの深い海の様な藍色の瞳が力なく見上げる。


「あらあらぁ、酷いわぁ。あんまり酷い事ばっかり言うと、意地悪したくなっちゃう。」

「・・・・・痛っ」


 イザベルが嫌がるノアの首元に顔を埋め、その白い首にゆっくり歯を立てる。むわっと強く香る、むせかえる様なキツい香水の香り。そして鋭く尖った歯がブチッと音を立ててノアの皮膚を食い破ると、白い肌をより一層際立たせる様に真っ赤な血が溢れ出し、長い舌がその血をざらりと舐め回した。


「んんん〜〜〜なんて美味なの!!!やっぱりあなたは一生私のご馳走として少しずつ切り刻んで食べてしまいたいわぁ〜〜」

「・・・・・っ」


 イザベルが恍惚とした表情でそう言うと、貪る様にノアの首にしゃぶりつき、更なる血を得ようとまた歯を立てる。その姿はまるで興奮した獣の様で、なんとか離れようとノアは身を捩るが、深く傷を負い、大量の血液を失った体は僅かに悶える程度しか動かない。


(早く、早く離れなきゃ・・・)


 イザベルがノアを一体どこへ連れて行こうとしているかは分からないが、城と言っていた事から、敵の本丸の様な場所に連れて行かれる可能性が高い。しかし、現状敵の潜伏先すら分からない状況である以上、イザベルによって一度どこかに攫われてしまえば、セシリアでさえノアの居場所を特定する事が困難なのは明白であった。

 イザベルはノアの血を啜るのに満足したのか唇を離すと、ノアの頬に添えていた指をゆっくりと下ろし、制服に包まれた臓器一つ一つをなぞる様にノアの体を撫でる。


「うふふふ〜〜ここは心臓ね、食べて欲しそうにどくどく言ってるわぁ〜あぁ肺は二つあるから、最初に一つだけいただこうかしらぁ〜それとも肋骨でこのままぐちゃぐちゃにかき混ぜて啜るのも最高ね〜〜心配しないで、ノアちゃんの体ならきっとどこも最高の味よ〜」


(早く、みんなの所へ、逃げないと…)


 しかし、イザベルはノアの体を撫でていた指を止め、怯えるノアの耳元で囁く。


「でも、お楽しみはお城に帰ってからね。誰も助けに来れない所で、終わらない悪夢を楽しみましょ♡」


 それはノアの中で最も恐れている事。一度連れ去られてしまえば、この狂気に染まったイザベルの元から無事に帰れるとは到底思えない。


「嫌っ・・・離して、やめてっ」


 残った力を振り絞って雷魔法を繰り出し、イザベルの腕から抜け出そうと試みるノアであったが、その魔法は眩い火花を散らして僅かに皮膚を焼く程度に留まり、すぐに傷口を再生させるイザベルはそんなノアの抵抗など気にせずノアを抱え、宙へと飛び立つ。そしてそのまま夜の闇の一層更に深い方へと向かおうとした、その時ーーー



 ゴオオオオオオッ


「何ーーーあ、あぁぁああああああづいいいいい!!!!!」


 一瞬にしてイザベルの両腕から真っ赤な炎が吹き出し、その業火は瞬く間に全身を焼き尽くさんと身体中を包み込んだ。

 そして突如自身から発火した炎を消そうとのたうち回るイザベルの腕から、ノアの体が振り落とされる様に離れる。


(この炎・・・)


 ノアの体はゆっくり地面へと落下していき、視界の中、炎の渦の中心で黒焦げとなり、膝先や肘先をボロボロと失いながらもがくイザベルが、遠く離れていく。

 やがて、背中が地面にぶつかると思い身構えた衝撃は、柔らかい感触に包まれた。


「・・・・・オーネット」


 強く体を抱き締める力強い腕。そして真っ直ぐ射抜く様にノアの顔を見つめる茶色い瞳。それは紛れもなく、これまで幾度となく共に戦い、常に弱さを補い合って生きてきた旧友にして、最愛の人、オーネットであった。しかし、オーネットの顔を見た途端にノアの中では再会の安堵以上に、絶望的な戦いに巻き込んでしまったという思いの方が遥かに胸を打つ。


「相手はイザベル・・・お願い、逃げて・・・。」


 しかし、そんなノアの言葉などまるで分かっていたかの様に、オーネットは答えた。


「そうだな。敵はイザベルだ。」


 オーネットはそれだけ言うと、ノアの体を抱きかかえたまま未だ火だるまとなっているイザベルを背に夜空を駆け出す。


「大丈夫だ。今の私はどう言う訳か、すこぶる調子が良い。」


 そして辿り着いた、先程の場所からは数キロは離れた森の中のほんの少し開けた場所。オーネットはその脇の草むらにそっとノアの体を下ろすと、凛々しく鋭い瞳を和らげ、慈しむ様な表情でノアに言う。


「リアと数名の生徒を応援に呼んでいるからすぐにここへ人が来る。それまで待っていてくれ。」

「・・・オーネットは?」


 ノアの縋る様な言葉に、オーネットはじっと来た方向の空を見上げた。


「あの程度の魔法でやられる奴ではないだろう。大丈夫。さっきも言った通り、今の私は魔力が有り余ってるから前回とは違う。すぐに追い払ってまた後で合流しよう。」

「・・・絶対に、戻ってくるのね。」


 今にも消えてしまいそうなか細い声で、ノアが問いかける。

 オーネットはそんなノアに優しく微笑みかけると、そっとノアの傍に膝をつき、力の入らない真っ白な腕を取った。


「約束しよう。私はあの日から、もう誰も目の前で失わないと誓った。何があっても私は君の傍にいるよ、ノア。」


 そして震えるノアの唇にそっと唇を重ねる。戦いの最中など嘘の様に、静まり返った森の中で暖かい気持ちがオーネットからノアへと流れ込む。やがて、オーネットはそっと柔らかな唇を離すと、ノアに告げた。


「それじゃあ行ってくる。」

「・・・・・っ」


 まだ夜明けの遠い空へ、オーネットは深緑の長い髪を揺らして駆けていく。ノアはただ、その背中を悲痛な瞳で見つめていた。

 ノアには分かっていた。恐らく厳しい戦いをしてきたのだろう、オーネットの体にはもう殆ど魔力など残っていない事が。

 しかし、それを言ってしまう事は、オーネットの信念を否定する様で、どうしてもノアにはできなかった。例えこの先何度もあの時「行かないで」と言えばよかったと後悔する事になったとしても。

 その藍色の瞳に小さく映る背中には、もう守られるべき少女の面影は無い。それはただ大きすぎる使命を両肩に背負い、守るべきものの為に戦う18歳の少女であった。


「・・・オーネット。」


(オーネットを信じてる。でもイザベルは・・・)


 ノアはただ、満足に動かす事も叶わない指を強く握り、頭上に広がる星空へ、最愛の人とまた、無事に再会できる事をただただ祈り続けた。




 ・

 ・

 ・

 ・

 ・




「おかえりー。」

「・・・・・・。」

「おいおい無視かよ。」


 場所は変わって森の東部。

 クロエの幻術から漸く解放されたアリスは、うずくまる様にして地面に転がっていた。

 その様子をクロエは満足そうに木の上に腰掛けたまま見やる。


「どうどう?とっておきの新作だったんだけど。数百匹のエビ地獄、楽しんで貰えた?エビって人間みたいに交尾するの、本当に面白いよね〜数百個の卵産んだ感想、あとで聞きたいなぁ、いひひひ」


 クロエの挑発する様な言葉に、アリスは震えながら立ち上がろうと腕に力を入れる。


「おっ立っちゃう立っちゃう?いいねーもっと遊ぼうー」


 アリスは歯を食いしばって剣を杖の様にしてなんとか立ち上がると。木の上で未だ余裕そうに笑っているクロエを睨みつけた。


「そういえば、お前、何でうちの学園に入り込んでノアを襲ったのー?お前もリー教とかいう奴なの?」

「・・・・・・。」

「また無視かよー」


 アリスはクロエの問いかけには答えないまま、片腕をクロエへ翳して魔法を唱える。


「メテオ・アデラン!!!」


 途端上空に出現した無数の巨大な岩の塊が一斉にクロエの周辺に襲いかかる。


 ドドドドドドドンッ


 忽ち辺りの木は根元から折れ、平だった地面は地響きと共に無数のクレーター状となり、クロエがいた場所は最早木があった事すらも分からない程に抉れていた。

 漂う土煙の中、クロエの姿を探すアリスだったが、その姿は無い。


(こんなに呆気なく倒せるはずがない、逃げた?)


 そう思い辺りを見渡そうとしたクロエであったが、突如その視界は反転、一瞬のうちにして空を見上げる様な形でひっくり返され、背中が強く地面へと叩きつけられる。


「ぐっ」


 当然それは気づかぬ間に背後に立っていたクロエの仕業で、仰向けに転がされたアリスを、クロエは立ったまま見下ろして言った。


「ぶっちゃけ、学園がどーとかセシリアがどーとかは超どうでもいいんだけどさ。お前、なんで裏切ったの。」

「・・・・・・。」

「お前の事は大っ嫌いだったけど、そんなダセー事する奴じゃないと思ってた。」

「・・・・ゴーレム!」


 クロエの問いかけに、アリスは答えないまま魔法を唱え、クロエの立っていた場所のすぐ傍から、岩の塊の様なゴーレムを出現させる。

 しかし、現れるや否や小さなクロエの体を薙ぎ倒そうとしたゴーレムの体は、その剛腕がクロエの体に触れる前に、塵となって消えていく。


「本当に全部お前の意志でやったの?ノアを殺そうとしたんだから、もしそうならここでお前を殺す。違うなら違うって言え。」


 クロエは落ちていたアリスの剣を拾い上げると、それをアリスの首元に突きつけた。


「・・・・・・・。」

「誰かの指示なんでしょ?言わないと本当に殺すよ。」

「・・・・・・・。」


 突きつけられた剣の刃がアリスの首に食い込み、僅かに血が流れ出す。だがそれでもアリスはクロエの問いかけには答えず、その意思を示すかの様に瞳を閉じた。


「・・・・・そう。」


 黙ったままのアリスに、クロエは「それが答えって事でいいんだね」と呟くと、持っていた剣を振り上げる。

 この数週間の間、クロエはアリスと共に過ごしてきたが、正直アリスという無口な少女について分かった事など殆ど無いに等しかった。しかし、それでも心のどこかで人を貶める様な人間ではないと、直感的に感じていたものがあった。

 だが人間は裏切る生き物だ。ノアを襲ったのがアリスである事は明白であり、それは紛れもない事実であった。故に、ここで見逃す訳にはいかない。また、あまり他人の苦楽や生死についての感受性が疎いクロエにとっては、目の前のアリスの命を奪う事は当然の行いであった。


 振り上げた剣は無音で空気を切り裂き真っ直ぐアリスの剥き出しの首へと振り下ろされる。僅か0.1秒にも満たない時間。


「答えないんじゃない、答えられないのよ。」


 その銀色の刃がアリスの首を断つよりも前に、突如森の中に女の声が響く。その声はアリスのものでもクロエのものでも無かった。

 クロエの振り下ろした剣がアリスの首に触れる直前に止まる。


「・・・お前、誰?」


 クロエが怪訝な顔をして声のした方、斜め前方に問いかけると、誰もいなかった場所から透明な扉を開いたかの様に1人の女が現れる。

 紫色のファーがついたコートを引き摺って現れた女は、腰までの長さがある濃いグレーの髪を憂鬱そうにかきあげる。すると顔の左半分を覆う様に刻まれた火傷の様な傷跡が月明かりに照らされ、クロエからもよく見えた。

 そして何よりも目を引くのは、


「・・・・咎人か。」


 禍々しい魔力が溢れ出ている根源かの様に、真っ黒に染まった左の瞳。そこからは灰色の涙が絶えず溢れ出ていた。


「アリスぅ、私が言った事覚えてる?あの黒髪の子供を攫って、四賢聖のうち1人くらいは殺せって言ったわよね?ええ?」


 女はそう言うと一瞬にして、クロエの目の前で仰向けになっていた筈のアリスの頭を右手で掴み上げる。

 それは腕を伸ばしたり、アリスを引き寄せた訳でもなく、アリスの元まで瞬間的に移動してその頭を掴み上げ、元の場所に戻ったのだった。その速さはクロエでさえも対応が遅れる程の速さで、常人の域を越えたものであった。


(・・・こいつ早いな。)


 元々移動魔法や空間魔法を得意とする事から、高速移動にも自信があったクロエであるが、そんなクロエですら感覚でしか姿を追えない速度である。


「お前、ただの咎人じゃないだろ。」


 咎人、即ち悪魔の契約メフィスト・フェレスを行った者は何かしらを代償に一つの力を得る。その力は当然強大ではあるが、例えそれが「高速移動」の力だったとしても、クロエの速度を上回る事は不可能に近い。


「そうね。その辺の一端の悪魔と契約した様な人間とは一緒にしないで欲しいものね。」


 そう言うと女は、アリスめがけて蛇の様な鉛色の鞭を振るった。


 バギィィィィンッ


「あがっ」


 同じ鞭であっても、以前にクロエがハルに振るったものとは全く異なるものである事は、一撃にして制服を引き裂き鮮血を溢れさせるその威力と、骨が折れたかの様な音から明白であった。


「まだ躾が足りなかったようね。あの黒髪の子供もっ、憎きセシリアにっ、奪われたっ!四賢聖最弱のノアだって満足に殺せてないじゃないの!」


 バギィィィッパシィィィンッ


 何度も振り下ろされる重たい鞭はアリスの背中を引き裂き、そこからは溢れ出す血の中では内側の肉が露出している。ズタズタに引き裂かれた背中の痛みに、アリスは苦悶の表情を浮かべて必死で耐える。


「うぐっ、ご、ごめんなさ、いぎっ」


 うつ伏せに倒れ、身を守る様に丸くなるアリスにも、女は容赦なく何度も何度も鞭を振い続けた。突然の光景にクロエは怪訝な顔で女を見やる。


「お前がアリスに指示を出したのか?何でそんな事するんだ。そいつ死ぬぞ。」


 クロエの言葉に、女は鞭を振り下ろしていた手を止め、じっとクロエの方を見た。黒く染まった左目からは絶えずくすんだ灰色の涙が溢れ落ちている。


「そうよ、私がアリスに指示していたの。なんでそんな事するかって?それはこの子が私の子だから、私がこの子の母親だからよ。」


 女の言葉に、アリスがくぐもった声で答える。


「お前は・・・母親なんかじゃ、ない・・・」

「お黙りっ!!!」

「ぐあっ」


 再び振るわれた鞭がアリスの太ももに命中し、破れた制服に血が滲み出す。


「ふふふ、この子は元々別の女の子供だった。でも才能があったから私の子供にしたの。ひとり親だったみたいで、当然その母親は嫌がったわ。だから無理矢理その母親に悪魔の契約メフィスト・フェレスをさせたの。その時の発狂ぶりは、今思い出しても最高だったわね。」

「・・・人の事言えないけど、お前も大分イカれてるな。」


 女はうずくまって震えるアリスの頭を、踵で踏みつける。


「そんな実の母親の姿を見せたらこの子も壊れちゃってね。それじゃあ使い物にならないから私の得意な精神操作魔法で操り人形にしたの。そうしたら私の命令しか聞けない、完璧な人形ができたのよ。最近は私の魔法に抗ってるつもりなのか、ヘマばっかりするけど、ねっ!!!」

「んぐっ」


 鉛色に光る鞭が、また新たにアリスの背中に傷を作る。制服なのか皮膚なのかも分からない程に赤黒く染まった背中からは絶えず血が流れ出し、アリスは僅かに身を捩る程度にしか動かなくなっていた。


「あら、つい気持ちが昂ってしまったわ。そういえば名乗ってなかったわね。私の名前はクリアナ。このアリスの母親にして、聖レヴァンダ学園の学長よ。残念だけど、貴方にはここで死んでもらうわ、クロエ=ウェストコリン。」

「・・・うわ、聞いただけで面倒くさそうな匂いがぷんぷんする肩書きだな。」


(聖レヴァンダ・・・こいつがオリビアの連絡にあった黒幕か。)


 名乗ったクリアナは持っていた鞭をしまうと、クロエに向けて手を翳した。その瞬間にクロエを取り囲む様に現れる、大小様々な黒い球体。


(この感じ、幻術が得意なタイプかよ。本当にやりづらい相手だな。)


 あの球体に触れれば死ぬーーー本能でそう察知したクロエは一瞬で飛び上がり、木々の合間を瞬間移動する。しかし、避けている筈の黒い球体は徐々にクロエの動きを先回りするかの様に出現し、その行手を阻む。


「ふふふ、兎狩りは久しぶりね。」

「鬱陶しいな・・・」


 口では余裕そうにそう言っているものの、これはクロエの全速力。その速さについて来ている時点で状況はかなり危うい。


(このまま逃げ続けていてもスタミナ切れになる。それならっ)


 宙で体を方向転換し、バネの様に木々の幹を踏み込んだクロエは、自身の足に強化魔法をかけながら更に高速でクリアナの周囲を撹乱する様に飛び回る。


(早く、もっと早く・・・!)


 やがて何度も木々の合間を跳ね、自身の最高速度に達するタイミングと球体の隙、そしてクリアナの真後ろへ回り込んだタイミングが一致した瞬間を狙い、一直線にクリアナの頭部へと風魔法を叩きつけた。


「死ねっ!!!!!」


 そして一瞬にして縮まったクリアナとの距離、右腕に宿した風魔法をその後頭部へとぶつけるがーーー


「あら、思ったより遅いのね。」


 その攻撃はクリアナの展開した防御魔法によって弾かれ、クロエの体は衝撃を受け止めきれず数メートル離れた地面へと叩きつけられる。


「うぐっ」

「本当は貴方もアリスの様な人形にしたい所だけど、私、油断はしないタイプなの。だから貴方はここで確実に殺させて貰うわ。」


 突如地面から土の棘が迫り出し、クロエの腹部に深々と突き刺さる。


 ドゴォォォォンッ


「がはっ」


 その勢いで飛ばされ、地面に転がったクロエの腹部には赤黒い穴が開き、どくどくと地面に血溜まりを広げていった。穴の空いた場所がとにかく熱く、体を真っ二つに引き裂かれたかの様に痛む。


(ぐっ・・・あと数分もすれば致命傷、だな・・・)


 クロエは痛みと出血で朦朧とする意識の中、なんとか回復魔法で傷口へ応急処置をする。


(全然勝てねぇ・・・本当に私死ぬやつじゃん・・・)


 自身の実力が及ばない人間など、この世にセシリアしかいないと思っていた。だが、それは大きな過ちであったと気付いた時にはすでに遅い。クロエは笑みを浮かべながらこちらへ近づいて来るクリアナを見上げると、自らの死期を悟ったかの様に目を閉じた。


(ああ、最後までつまんない人生だったな・・・)




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