31 少女と大遠征(2)
【遠征四日目】
「交代の時間だ。クロエ。」
「はいはーい」
モルスの谷へと向かう遠征部隊は、敵からの急襲も無く順調に進み、遠征四日目の今日はモルスの谷に最も近いリリアースという小さな町に宿泊していた。リリアースはイスタニカより北東側に位置する町で、国境を越える商人や近隣の魔獣を狩る冒険者などが立ち寄る宿場町である。そこで学生達は連日の野営で疲労した心身を癒し、来たる三日後の戦いに備えていた。
「ふあぁ、眠い眠い・・・」
オーネットと夜の間の見張りを交代したクロエは、部屋に向かって歩いていた。時刻は午前2時。宿の受付には人がいるが、それ以外に出歩いている人は殆どいない。
(アイツももう寝てるだろうな)
アイツとはそう、他でもないアリス=セルゲディーテの事だった。結局この日もセシリアによってクロエとアリスは同室にされており、三日前の夜に偶然アリスが泣いている所を見かけてしまってからは、何と無く気まずい空気が流れていた。
ガチャッ
何気なくアリスを起こさぬ様にとそっと扉を開く。普段のクロエであればそんな気遣いは一切しないのだが、どうしても相手がアリスとなると、何となく調子が狂っていた。
「・・・起きてたのか?」
扉を開けると、意外にもアリスは制服姿のまま机に向かっている。どうやら先日立ち寄った街で購入した本を読んでいたようだ。帰ってきたクロエを振り向くその顔は相変わらずの仏頂面で、何を考えているのかはわからない。
「・・・ええ。何と無く眠れなくて。」
アリスはそれだけ言うと、また本へと視線を落とす。自分を待っていた、とまでは思わないまでもクロエが空けていた数時間ずっと本を読んでいたにしては、本のページは進んでいなかった。
(変なやつ)
特にそれ以上会話をする事も無く、クロエはクローゼットの前へと移動して制服を脱ぐが、どうやらアリスはまだ着替えないらしく、ずっと本を読んでいる。静まり返った部屋で、クロエが制服を脱ぐ音とアリスがページをめくる音だけが聞こえる。続く沈黙の気まずさに耐えられなくなったのは、クロエの方であった。
「・・・寝ないの?」
「・・・・・・・」
「・・・・無視かよ。」
何も答えないアリスに苛立つクロエだったが、突然静かだった部屋に場違いな音が響き渡る。
ギュルルルルル
それは誰しもが一度は経験した事がある、空腹を主張する音。
「・・・・・・腹減ってんのか。」
呆れたようにクロエがそう言うと、じっと押し黙って本を読むアリスの耳がわずかに赤くなっていった。
「まさか夕飯食ってないのか?」
「・・・頼み方が分からなかったから。」
「はあ?」
今日の夕食は、先日とは違い各々でとっていた。クロエは早々に手頃な屋台で済ませ、部屋で寝ていたが、アリスはてっきりハルやセシリアと一緒に済ませていたのかと思っていた。だがどうやら何も食べていなかったらしい。
「頼み方が分かんないってどこのお姫様だよ・・・」
「・・・・・・・」
グギュルルル
「・・・わかったよ連れてけばいいんだろ連れてけば!!!」
何も言わないものの訴えるように鳴り続けるアリスのお腹の音に、クロエは投げやりにそう言うと脱ぎかけていた制服をまた着だす。世界の全ては自分を中心に回っていると思っていた少女が、初めて自ら他人の為に折れた瞬間であった。
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「まあ酒場くらいなら空いてんだろ。」
時刻はもう3時近く、道を歩く人はかなり少なく、道端では宴でもしていたのか、酒瓶を持ったまま泥酔した大人達が何人か転がっている。そんな中、宿を出て大通りへ向かって歩いて行くクロエと、その斜め後ろを黙ってついて行くアリス。
「でも私たちは学生。そういうところには入れない。」
「誰のせいでこうなってんだよ!!!」
(本当に連れて来て欲しかったのか?)
アリスはクロエの後ろを歩きながらも、相変わらずの仏頂面で口数も殆ど少なく、その感情は全く読めない。
(めんどくさ、早く帰ろ。)
そう思いクロエはアリスを連れ、大通りの手前にある一つの酒場にやって来た。明け方近くまでやっているようで、店内にはかなり酒が回った剣士や商人等で賑わっており、扉を開けると熱気と共にアルコールの匂いがムッと香る。
「おいおいあれグラソンの学生じゃねぇか・・・?」
「こんな時間に何してるのかしら。」
扉をあけて現れたクロエとアリスの姿に、客に視線が一斉に二人に寄せられ、騒がしかった店内が一瞬静まる。
「・・・イリータス」
その状況にクロエは煩わしそうに魔法を唱えた。すると一瞬にして店内は深い霧の様な幻術に包まれ、「あれ、なんの話をしてたかしら?」と一斉に視線を二人から戻し、また元の騒々しさに戻って行く。クロエは溜め息をついて窓際のテーブル席に腰掛けると、忙しなく動き回っていた定員のうちの一人を呼び止め、適当に何品かを注文した。
「食ったらすぐ帰るぞ。こんな時間にふらついてんのバレたらセシリアにまた怒られるからな。」
「・・・ありがとう。」
その後特に何かを話すことも無く、運ばれて来た料理を黙々と食べるアリス。店で食事をとった事がないという割には、ナイフやフォークの扱いには洗練されたものがあり、まるでどこかのお屋敷のお嬢様の様だ。
「お前、今まで食事とかどうしてたんだ?前の学校も寮だったのか?」
「・・・食事はいつも家。」
「・・・・・。」
(おいおい会話のキャッチボール下手すぎだろ!流石の私でももう少しまともに会話できるぞ!)
再び訪れる沈黙。黙々と料理を口に運んで行くアリスに、空腹なのは本当だったようだが、クロエに中で更に「変なやつ」という印象だけが積み上がって行く。
「・・・毎回ご飯作ってくれるって、いい親だったんだな。」
アリスの大事にしていた母親から貰ったというブローチを、自らの激情で粉々に砕いてしまった事がふと頭によぎる。あの一件はアリスの悪意のこもった発言のせい、だからお互い様だと自らが先に手を出した事は完全に棚に上げていたクロエであったが、ほんの少し罪悪感を感じた。あれ程アリスが大切にしていたブローチの送り主なのだ。さぞかし愛されているのだろう。しかし、アリスの答えは想定外のものだった。
「・・・・どうかしら。」
アリスの料理を口に運んでいた手が一瞬止まる。そして、じっと顔をあげてクロエを見つめた。その青い瞳には、目の前にいるにも関わらずクロエを映しているのかすら分からない。
「・・・あなたは、自分の運命を呪った事はある?」
「は?」
(急に何言ってんだ?)
理解不能だという顔をするクロエに、アリスが「何でもない」と言いかけたところで、クロエが口を開いた。
「一度もない。私は運命なんてもの信じないからな。」
「・・・・そう。」
アリスはそれだけ答えると、また食事を再開する。クロエの回答がアリスにとって求めていたものだったのか、参考するに値しないものだったのか、それともそもそも参考にしたいと思って聞いたものだったのかすらわからない。
ただ何と無く、このアリスという少女の心の中には、金髪碧眼という清廉な見た目とは異なる、何かグツグツと煮えたぎるような思いが潜んでいるーーーそんな予感がしたのだった。
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「ごちそうさま。」
「連れて来てやったんだからお前が奢れよ。」
「・・・オゴル?」
食事を終えたアリスが、初めて聞いた単語かの様に首を傾けてクロエを見やる。
「お前が全部金払うってこと!・・・ってまさかお前金持ってないのか!?」
「・・・・・。」
全く悪びれた顔もせずにコクリと頷くアリス。そんなアリスにクロエは深く項垂れた。
(マジかよ・・・流石に食い逃げしたらセシリアに八つ裂きにされるよな・・・)
「ぐぬぬぬぬ、今日のところが私が奢るけど、絶対今度返せよな!貸しだからな!」
クロエは涙目でそう言うと店員を呼び止め、なけなしの小銭を支払った。家庭の事情で仕送りが得られないクロエは討伐依頼等をこなして日々のお菓子代を稼いでいる。直近大事なお菓子を全てセシリアによって凍結されたクロエにとっては、この出費は痛手なのであった。
そんなこんなで店を出ると時刻はもう4時前、日が高い季節な事もあり、ほんの少し東の空が白み始めている。そして夜の見張りを行った上に明け方近くまでアリスに付き合わせられたクロエの体力はもう限界な様で、眠気を通り越して軽く頭痛に襲われていた。店を出た途端一気に襲ってくる睡魔で道端にうずくまりそうになっているクロエの細い手首を、アリスがそっと掴み、引いて歩く。
「うう・・・眠い・・・」
「・・・・ここで寝ないで。」
早朝の町は静まり返り、夜中に道端で寝ていた人はどこへ行ったのか、深夜の町とはまるで別の町のようだった。明け方になって降りた霜がほんのりと草木を濡らし、どこか湿った香りが町中を覆う。アリスはクロエを半ば引きずる様にしながら宿へ歩みを進め、呟いた。
「私の運命は変えられない。」
しかしその呟きは誰に届くことも無く、白みがかった空へと消えていく。
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【遠征七日目】
遠征を開始してから一週間、ようやく一行は目的地であるモルスの谷深くの山道までやって来ていた。
ここから先は道も荒れ魔獣の数も一気に増える為、馬車を降りて徒歩での移動となる。
「作戦通り、A~Eチームまではオーネットの指揮の元、隊形を崩さずに扇状に進んで。他の部隊は怪我人の救護を。バジリスクが棲息する洞窟は私とクロエで叩く。」
セシリアが各チームのリーダーにそれだけ伝えると、指示を受けた生徒達は一斉に動き出す。それを見送ると、セシリアはノア、ハル、アリスを見やって告げた。
「私はバジリスクを倒し次第すぐに戻る。恐らく移動込みで数分って所ね。敵はどこから仕掛けてくるかは分からないから、ノア、アリスはハルを守りつつ魔獣を討伐して。頼んだわよ。」
「わかりました。」
セシリアはそれだけ言うとクロエと共に一瞬にして姿を消し去る。バジリスクの巣食う洞窟へ向かったのだ。
「・・・ハルちゃん、アリスちゃん、私たちも行こうか。」
「はい!」
本来はこの場で留まっても良いのだが、立ち止まっていると敵に囲まれる可能性もある。それに魔獣の数は想定よりも多いようで、すでに何組かの生徒が魔獣との戦闘を始めているらしい。あちこちから爆発音や魔獣の鳴き声が響き渡り出していた。
「アンデッドの群れだーーー!!!」
学生の叫ぶ声を聞き、ノア、アリス、ハルは声のする方へ駆け出すのだった。
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森に巣食うアンデッドは元はただの人間や魔獣の屍である。それらに魔法を操る何かしらの魔獣、あるいは者によって魔術をかけられたものが、アンデッドと成る。
「数が多いな。この森の何処かに親玉がいる。」
オーネットは学生らを援護しつつ、流れる様な剣技で魔獣達を切り捨て、森の中を駆けていた。グラソン魔法学園の生徒達はハルの様な例外を除けば、殆ど全員がかなりの実力を持っている。四賢聖達が異常な実力者の為に霞みがちではあるが、彼らは学生の身であってもアンデッド程度の存在にやられるレベルでは無い。しかし、想像以上に濃い森の瘴気と、アンデッドの数に、オーネットは生徒達のスタミナ切れを心配していた。
「早い内に片付けてしまおう。」
オーネットは道を塞ぐ様にして起き上がる二体のアンデッドを一瞬にして切り捨てる。真っ二つになった体は血液だったものだろうか、真っ黒な液体を僅かに滴らせ、ゴトリと音を立てて崩れた。その直後、冷んやりとした冷気がオーネットの足元をさらうように撫で、背筋をゾワゾワとした悪寒が這っていく。そして漂う強烈な腐臭。
「・・・向こうか。」
オーネットは剣に付着した黒い血を払うと、風上、より鬱蒼と木々が茂る方へと駆け出した。
(近いな。匂いも瘴気も濃くなっている。)
やがて辿り着いたのは森の中を流れる小さな川の麓。そして川辺には何かを引きずったような跡、そしてまだ新しそうな血痕が細長く、先の岩場へと伸びている。
「・・・この跡、バジリスクか?」
まるで蛇が通ったような跡を慎重に辿り岩場の奥に辿り着くと、
「あらぁ、良い男が来たじゃない」
「あらもしかしてこの子、女じゃない?」
「うふふふどっちでも良いわぁ」
口元を真っ赤に染めてこちらを見やるのは長い髪を垂らした女達。その数2人や3人では無い。オーネットから見えるだけでも十数体はいる。そして口元を染める血、その理由はすぐに分かった。持っているのだ。女達はそれぞれ元々は人間だったと思われるモノを。ソレはバラバラにされ、元が何人だったのかは分からない。女達は手に頭部や胴、腕などを持ちそこから溢れ出る血を啜っていたのだ。
そして、彼女らは間違いなく人間では無い。
「その脚、ラミアか。」
彼女らの脚がある場所では、大層美しい顔からは想像が出来ないほど、禍々しく黒光りする鱗が輝いていた。それらは肉厚な魚の尻尾の様な形状となり、オーネットの足元にある引き摺った様な跡に続いている。
「ラミアは群れないと聞いていたが・・・厄介そうな相手だな。」
ーーーラミア。それは古代から存在が知れ渡っている魔獣で人語を操り、淫美な容姿で男性を好んで誘惑し、食す魔獣である。山奥の水辺や洞窟で稀に姿を現し若い男性を襲う存在ではあるが、セイレーンと同様幻術等にさえかからなければそこまで厄介な存在では無い。しかし、問題はその数だった。
「うふふ、私達にはとっても素敵な王様がいるのよぅ。ここに集まっていれば、良い餌がたくさんやって来るって言われて待っていたの。その間にちょっと摘み食いしちゃったけどね。」
そう言うと一匹のラミアは持っていた人間の頭部を慈しむ様に撫でる。
(王様・・・リー教の教祖の事か?となれば他にも何か仕掛けて来るはず。早めにノアやハルの元へ戻った方が良さそうだな。)
「すまないが長居はできない。」
「うふふ、私達とっても上手いのよ?気持ちよく殺してあげるわぁ。」
十数体のラミアが一斉に幻術をかけるより早く、オーネットは低く刀身を構えその刃に燃え滾る業火を纏うと、閃光の様に駆け出した。
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「いくらなんでもセシリア飛ばし過ぎじゃない?」
「一瞬で終わらせる。」
猛スピードで弾丸の様に森の中を駆け抜ける二人組。セシリアとクロエである。彼女らは魔獣の目にも止まらぬ速さで移動すると、その後ろには戦車の通った跡の様に魔獣の死体や根刮ぎ破壊された木々が転がっていた。セシリアは前方の障害物を避けることもせず、すべて抹消して進んでいたのである。
「この早さはいくら私でもちょっと苦しいんですけどー」
「付いてこれなければ引き摺って行くわ。」
「ハルが関わるとセシリア性格変わりすぎだろ!!!」
木々を薙ぎ倒して前進する二人は、5分とかからず森の最深部の洞窟へと辿り着いた。洞窟内は想像よりも広く、入り組んでいる。そして奥に川でも流れているのか壁は濡れ、ツヤツヤと光を反射していた。その中をより瘴気が濃くなる方へと迷う事なく進んで行くセシリア。
「これでうっかりセシリアが石にでもなったら私絶対置いてくからなー」
「その可能性はまずないから安心すると良いわ。」
そう呟いた瞬間、斜め前を歩いていたはずのセシリアの体が、一瞬でクロエの視界から消え去る。
「えっ?セシリア!?」
慌ててクロエが辺りを見渡すと、僅かに水を滴らせてクロエの頭上、天井からぶら下がる様にセシリアが立っていた。そしてセシリアがぶら下がっているのは、
「ほら、言ったでしょ。その可能性は無い。」
パキパキパキパキッ
洞窟の天井に突き刺さったセシリアのレイピア。そしてその先、レイピアによって串刺しにされているのは、正に今回の遠征の主役である体調数十メートルはある真っ黒な巨体の大蛇、バジリスクであった。
「気をつけて。落ちるわよ。」
全身を一瞬にして氷漬けにされたのか、大蛇の体がパキパキと音を立てて洞窟の天井から離れ、落下する。天井の真下にいるクロエに向かって。
「お、おいいいぃぃぃいい!!!!!」
ズダァァァァアンッ
真っ白な砂埃を上げて地面へと落下したバジリスクの体は、その衝撃によって何等分にも割れ、辺りに氷の粒が砕け散っていった。そしてそれをギリギリで避ける様に倒れ込むクロエ。
「絶対私連れてくる必要なかったでしょ!?」
「そうね。あなたはアリスと共に置いて行った方が良かったかも。」
「否定しろよ!!!」
キャンキャンと吠えるクロエに、お詫びの気持ちなのかセシリアが回復魔法をかける。
(これで遠征の目的は果たせた。ただ、本当にこれで終わり?考えすぎだったーーー?)
そんなセシリアの嫌な予感に答える様に、洞窟内に突然セシリアの魔道具が鳴る音が響き渡る。
「信号・・・オリビアからだわ。」
セシリアは胸ポケットから鏡の様な形をした魔道具を取り出しそっと魔力を流した。クロエも黙ってその様子を見守る。
「・・・オリビア?何か分かった?」
『セシリア様!アルテミアの屋敷で以前働いていたと言う女中への聞き込みで、漸くアリス=セルゲディーテ、いえ、アリスの素性が分かりました!彼女の生家はセルゲディーテではありません。恐らく本当の名はアリス=シュナウザー。3ヶ月前に処刑された咎人ミスト=シュナウザーの娘です!』
「えっ」
オリビアの言葉に、先に声をあげたのはクロエであった。しかし、オリビアの話はそこでは終わらない。
『アリス=シュナウザーは3歳の頃にはアルテミアを離れ、親族の家に引き取られたそうです。そして、アリスを引き取ったのは、クリアナ。聖レヴァンダ学園の創設者にして、現学長です!恐らくこの数週間全く情報が出てこなかったのも、クリアナが巧妙にアリスに纏わる全ての情報を抹消していた為かと思われます!!!』
「聖レヴァンダ学園・・・・・」
クロエがぎゅっと手を握り、「嘘だろ」と小さく呟く。しかし真偽を考えている時間は無い。大罪人にして咎人であるミスト=シュナウザーに娘がいたという情報すら初耳であったが、その存在を隠匿して育てていた聖レヴァンダ学園が、恐らく今回の遠征では裏で糸を引いている。間違いなく、標的はハルの身柄。その確保かあるいは抹消かーーーいずれにしろ、事態は一刻を争う。
「ありがとう。オリビア。ハルは必ず守る。・・・クロエ。」
「はいはい分かってるよー。あの金髪のクソガキに全部吐かせてやる。」
セシリアとクロエは来た道を戻る様にまた一直線に駆け出した。
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