28 少女と新参者

 


「うおー!!!ついに来たって感じだね!!!」

「何かそのリアの感じも懐かしいね。」


 結局グルソンの娘の事は何も思い当たる節がないままに、更に数日間の日が流れた。出会った人物全員を書き出したり、父と母に手紙で聞いたりしているのだが、一向に手がかりは掴めない。

 だがそんな日々でも時間は過ぎていき、やって来たのは夏の魔力量測定の日。ハルとリアは訓練場へと向かいつつ、全ての始まりとなったあの日を思い出していた。


「あの日は今思うと本当に破茶滅茶だったなぁ。」

「そうだね、まだ数ヶ月しか経ってないのが信じられない・・・」


 数ヶ月前の魔力量測定会。そこから全てが始まった。あの日のハルは平均値を大幅に超える数値を叩き出し、それを怪しんで襲いかかったオーネットと交戦、咎人の烙印が左目に宿った事でセシリアに拘束されたのである。


「本当は私、今回の測定会でセシリア様の数値の上昇が見られなかった場合は、処分される予定だったんだよね・・・」

「えっ、処分!?!?」


 想像以上に穏やかでないハルの置かれていた状況に、段々と慣れてはいるものの、未だにリアは驚いてしまう。


「よくそんな状況で普通に講義受けてたよね、ハルは・・・」

「まあどうにかなるかなって、あはは」


 たしかに我ながら能天気すぎる。今ならそう思えるが、当時はまともに考えていては、とてもではないが正気を保てるような状況ではなかったのだろう。

 そんなたわいもない話をしながら、ハルとリアは測定会場である訓練場へと到着する。


「ん?どうしたんだろう・・・」


 たどり着いた訓練場では、何やら中央に人だかりが出来ていた。測定を開始するにはまだ早いタイミングだ。遠巻きから様子を伺うと、人だかりの中心では何やら慌てている講師と、測定機の前で立っている一人の少女がいる。


「これはっ・・・と、とりあえず四賢聖に連絡をしないとですね。」

「・・・・・・。」


 そこに立つ凛とした顔立ち。そして無愛想な表情の少女。艶やかな金髪は肩の高さで切りそろえられ、どこか虚ろな青い瞳はまさに西洋人形といった雰囲気でーーー

 

「あっあの人!?」

「ん?ハルの知り合い?」


それは紛れもなく先日ハルが学園の噴水前で見かけた少女であった。


「多分あの人、この間編入してきた2年生だよ。確か名前はアリス?だったかな?」

「ああ編入生か。だから今測定してるんだ。」


 少しして、講師の呼びかけに応じたのか訓練場に緑髪の麗君、オーネットが姿を現した。そしてその姿に一斉に上がる、黄色い歓声。


「ああっオーネット様、今日も素敵ですわぁ」

「あの剣で貫かれたい・・・」

「ノア様との間に挟まれたい・・・」


 恍惚とした表情を浮かべた生徒達に、益々ハルの中で前回の測定会の日の記憶が蘇る。


(そういえば、あの日の私もオーネット様かっこいいなって一瞬思ったんだっけ。そのあと串刺しにされたけど・・・)


「リアって今もオーネット様に指導して貰ってるの?」

「あ、ああ・・・うん・・・お陰様で今も毎日指導してもらってるよ・・・ウップ・・・」


 そう言ったリアの顔が一気に青ざめ吐きそうになっているのを見て、ハルは全てを察した。

 以前、心理操作を受けたオーネットを助けた際に、お礼という名目でハルも餌食になった事がある。オーネットの剣技は確かに凄まじいが、如何せんオーネットは一般人の限界というものを知らない。毎日リアがどんな目に遭っているのかは容易に想像がついた。


「なんか、ごめん・・・」


 そんな話をしながら見ていると、どうやらオーネットはどこかへアリスを連れて行くらしい。歩き出そうとしたところでハル達に気づき、こちらへ向かってくる。


「あっオーネット様。おはようございます!」

「ああ、おはようハル、リア。ちょうど良かった、ハルも一緒に来てくれ。」

「あ、でも私これから魔力量測定が・・・」


 そう言ったハルの顔を、オーネットは呆れた顔で見る。


「ハル、まさか自分も魔力量を測ろうと思ってここにいるのか?」

「え、ええ、まあ・・・」

「測ったところでまた大騒ぎになるだけだろう。測りたければセシリアにでもお願いして別の機会にした方が良い。とはいえ測定会以外での測定は認められていないが・・・まあどっちにしろ、前回あんな事になったんだ。今日測定しようとした所で講師に止められるぞ。」

「た、確かに・・・」


 てっきりハル自身はもう一般生徒と同様の扱いかと思っていたが、オーネットの言う通りであった。今日測定して、また大事となるなど真っ平御免である。ハルは大人しくオーネットに従う。


「ごめん、リアまたお昼に!」

「あーい」


そう言って立ち去ろうとしたハルだったが、不意にオーネットがリアを振り返る。


「あぁリア。中途半端な結果を出せばどうなるか分かっているな?」

「ヒッ」


 オーネットの一言によって青ざめたリアは、思い出したくもない毎日の稽古を思い出し、ひっそりと草陰で嘔吐するのだった。




 ・

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 オーネットがハルとアリスを連れて来たのは、庭園を抜けた向こう、校舎裏の方にある部屋であった。あまり陽の当たらないせいか、建物に入ってからもどこか無機質で鬱蒼とした雰囲気を感じる。


「ここ、懐かしい・・・」


 そこは以前にハルが裁判を受けた部屋がある場所でもあった。


「この建物の一部の部屋には厳重にクロエの魔法がかけられている。クロエがいる時にしか使えないが、何が起きるかわからない様な話をするにはぴったりな場所だ。」

「ず、随分穏やかではないですね・・・」


 オーネットが一つの部屋の扉を開いて中に入ると、アリスは相変わらず人形の様に無表情のまま、オーネットについて入っていく。訓練場で見かけてから、アリスは一言も言葉を発していなかった。「随分無口な人だな」と思いつつ、その後にハルも続く。


「連絡があったアリス、それにたまたま居合わせたハルも連れて来たぞ。」


 足を踏み入れた部屋は、裁判の時とはまた違った内装になっていた。床はツルツルと輝く石でできた、白と黒のモノトーンになっている。真っ白な壁にはクロエの「早く帰りたい」という気持ちの現れなのか、大小様々な壁掛け時計が掛けられていた。そして中央に置かれた真っ黒のソファにノアとセシリアが腰掛け、クロエは寝そべってシフォン生地のお菓子を頬張っている。


「二人とも座れ。」

「・・・いえ、私はこのままで結構です。」


 オーネットの言葉に、アリスが初めて口を開くが、その表情は無愛想なままだ。ハルはオーネットに言われるがまま、セシリアの隣に腰掛けた。

 そしてハルが座って一番に口を開いたのは、リスの様にもぐもぐとお菓子を頬張ったクロエであった。


「ふーん、この子がオーネットより強いんだ?なんか生意気な顔だし、一回拷問してみる?ちょっとハルに雰囲気似てるし。」


(私に雰囲気似てるからすぐ拷問したくなる発想ヤバすぎない???)


「クロエちゃん。怒りますよ。」


相変わらず四賢聖としての自覚のカケラもない発言に、珍しくノアが怒った顔で嗜める。

普段は聖母の様に絶えず微笑んでいるノアの滅多に見せない表情に、思わずハルはぼんやりと見惚れていた。


(怒ったノア様の顔も綺麗だな・・・いだっ)


 そうやってなんとなくノアの顔を眺めていると、突如ハルの左手に激痛が走り、「ピシリッ」と音を立てて肌の表面を薄い氷が覆っていく。そんな事を突然やってくる人物の心当たりなど、当然一人しかおらずーーー


「いだいっ」

「大丈夫?ハルちゃん。」

「だ、大丈夫ですノア様。あははは、なんか体の左側だけ物凄く寒ーい」


(なんだ!?アモルから読心術も与えられたのかセシリア様は!?)


 明らかにセシリアが座る左側から殺気と冷気を感じて邪な気持ちを抑えるハルだった。

 しかしセシリアはそんなハルの様子は無視して話を進める。


「今月から編入して来た二年のアリス=セルゲディーテね。急に呼び出してしまって申し訳ないけど、編入したあなたの魔力量がノアやオーネットすら凌ぐ数値であったと講師から連絡があったわ。もちろん編入を決める時にその実力が並外れたものである事は聞いていたけど、あなたの事を詳しく聞かせてもらえるかしら。」


 このグラソン学園での編入は、特例中の特例であった。そしてその特例というのは、他の教育機関で手に余る様な実力を持った魔法士である事。具体的には、これ以上この場所で学べる事は無いと判断される程の実力者、或いは元いた教育機関では手に負えない程の魔力を持った者、そういったごく限られた者のみが元の教育機関から推薦を受け、過去の実績を鑑みた上で魔法部と四賢聖のトップの承認を得て編入を認められる。クロエもその一例であった。

 その為、編入者がそのまま賢聖となる例は過去にいくつもあったが、タイミングがタイミングである。セシリア達は慎重にならざるを得なかった。

 セシリアからの問いに、ずっと黙っていたアリスが漸く口を開く。


「はい。この度グラソン魔法学園に編入したアリス=セルゲディーテと申します。イプソン魔法院に通っていましたが、使える魔法の多さや潜在的魔力量が認められ、今期からグラソン魔法学園に転入しました。出身は北東のアルテミアという街です。」

「あなたの事は推薦を受けた先々月から聞いていたわ。ただこんなに膨大な魔力量を有した編入生とはね。まるでどこかの誰かみたいで嫌な記憶が蘇るわ。」

「えっへん」


 どこかの誰かとは、紛れもなくクロエ=ウェストコリンの事だろう。クロエもアリスと同様に編入生である事はクロエ行きつけのバーでマスターがハルに教えてくれていた。こんな協調性のカケラもない少女がいきなり現れ賢聖となった際のセシリアの心労は想像を絶するものであっただろう。容易に想像がつく。

オーネットが腕を組んでセシリアへ尋ねた。


「慣例に則れば、その魔力量はクロエまではいかないものの、私を凌駕している。賢聖が5人となるのは歴代最多になるが、アリスも十分に加わる権利があるな。その件で呼んだのだろう?」

「そうね。知っての通り、このグラソン魔法学園では賢聖と呼ばれる上級魔法師数名による自治が認められているわ。そしてあなたはそれに該当する。当然拒否権はあるから、ゆっくり考えて頂戴。賢聖となるからにはそれなりの・・・そこで寝ている人間の様な例外はあるけど・・・、それなりの強い意志が求められるわ。ただ魔法を学びたいだけなのであればおすすめはしないわね。」

「・・・・はい。わかりました。考えておきます。」


 アリスはセシリアの言葉にそう答えた。相変わらずその声はぶっきらぼうで、そこからはなんの感情も読み取れない。


「編入早々に呼び出して悪かったわね。クロエ、アリスを教室まで送りなさい。」

「はぁ!?私ぃ!?」

「たまには働かないと、あなたの隠してるファヴァールのお菓子全部氷漬けにするわよ。」

「な、なぜそれを!?」


 クロエはセシリアの申し出にあからさまに嫌な顔をすると、キャンキャン子犬の様に吠えながら、渋々アリスを連れて出て行くのだった。


「・・・それで、イプソン魔法学院からの編入というのは本当なのか?」


 オーネットが漸く本題を切り出せるというように口を開く。


「ええ。オリビアにも調べて貰ったけど、イプソン魔法学院にもきちんと在籍記録が残っていた。それに先程の魔力測定の結果に不正はできない。このタイミングでの部外者、それもかなりの実力者の侵入となると何らかの思惑が疑われるけど・・・決定的な証拠には欠けるわね。」

「なんだか少し、冷たそうな方でしたね、アリスさん・・・」


 未だ暗躍しているリー教会と魔法部の目的は分からない。ハルの一件以来一切手を出してこない為である。しかしジワリジワリと増えている不審死の報告や失踪件数の増加。そしてシオンが警告したタイミングでの謎の編入者。

 オーネットだけではなくセシリアもこれが偶然とはとても思えなかった。


「引き続きオリビアにはあの少女、アリスの周辺を探ってもらわ。それに・・・どこかで見た事がある気がするのよね、あの子・・・」




 ・

 ・

 ・

 ・

 ・




「何で私がこんなことしなきゃいけないんだよーーーー!!!」

「・・・・・・」


 銀髪のツインテールの少女ーーークロエはプンプンと頬を膨らませながら、宙に浮いて移動している。その後ろを金髪の少女、アリスが無言でついて歩く。


「大体、寮くらい一人で帰れるでしょ!!!」

「・・・・・・」

「むむむ・・・」


 アリスはクロエの言葉に一切反応せず、ただその後ろをついて歩く。

そんなアリスの態度が一層頭にきたクロエは、どうにかしてこの少女を貶めてやろうと思案し、何か閃いたのか口元に手を当てて猫の様にほくそ笑む。


「ふふん、まっしょうがないからこの四賢聖様がに案内してあげるよーついてきな!」


 そう言うとクロエは、一瞬にして姿を消した。そう、得意な空間魔法で何百メートルも先に一瞬で転移したのである。

 そしてクロエが降り立ったのは学園北東にある東の塔。ここからは校舎裏から学生寮、そして遠くに聳える正門までが一望できる。この学園全体を見渡せる場所から、置いてきぼりにされて右往左往するアリスを見て楽しもうという魂胆だった。

 しかしーーー


「・・・学生寮から遠ざかってない?」

「ななななななー!?」


 塔に頬杖をついてにんまりと笑うクロエの背後に当たり前の様に立っていたのは、今から見下ろしてやろうと思っていたアリス本人であった。クロエの得意とする空間魔法は特殊で、並大抵の魔法師が使用できるものでは無い。恐らく学園内でもクロエと同等レベルに使用できるものはセシリアくらいだろう。そう思っていた矢先、一瞬でこの編入生は易々とついてきたのである。


「ぐぬぬぬぬっ・・・ま、まあオーネットを超えるってだけはあるな!だがお遊びはここまでだっ!!!」


 クロエはそう言ってアリスを指差すと、また一瞬にして姿を消す。そして次に転移したのは正門前。学生向けの雑貨店が立ち並ぶ大通り。立ち並ぶ店には学園外からの来訪客も多く、平日ではあるものの多くの人で賑わっていた。


「はっはっはっ。この距離、そしてこの人混み、もう私を見失っただろう!!!」


 そう言って突如店の前に現れた小さな少女、ツインテールの銀髪を靡かせて現れたクロエの姿に、周囲で買い物をしていた学生達が騒ぎ出す。


「えっあれってクロエ様じゃない・・・?」

「初めて本物を見たわ・・・噂通り可愛らしいわぁ・・・」

「見た目に騙されたらダメよ!気に入らなかった家族を全員皆殺しにしたって噂を聞いた事があるわ!」


 滅多に姿を見せない四賢聖の登場にざわつく学生たちの声は、オーネットやセシリアの時とは異なり歓声や畏怖、好奇や恐怖などまさに混沌としていた。


「ああん?うるさいなあ全員殺してやろうか?」

「殺しはダメ。死んだ人は生き返らない。」

「別にいーじゃん!・・・ってなんでここにもいんだよぉ!!!」


 気づくと当たり前の様に隣に立つアリスに、クロエが叫ぶ。


「ぐうう・・・今度こそ!!!」

「まだやるの・・・」


 そう言ってまた転移するクロエに、呆れた様にため息をつくアリスだが、すぐにクロエのあとを追いかけていく。


 〜訓練場〜

「これでどうだ!!!」

「・・・・・・」


 〜食堂〜

「このう!!!」

「・・・・・・」


 〜馬小屋〜

「今度こそ!!!」

「・・・・・・」


 どこへ何度転移しても、一瞬でついてくるアリスにクロエの苛立ちは最高潮に達し、地団駄を踏む。


「ハァハァハァ、ぐぬぬぬぬ、腹立つ〜〜〜〜!!!」

「・・・学生寮はまだ?」


 対するアリスは相変わらずの仏頂面で息ひとつ乱していない。その事がさらにクロエの怒りを増長させた。


「それならこれでどうだぁーーーーー!!!」


 そうして再び一瞬にして姿を消し、転移するクロエ。しかし今回の転移先は一味違う。

 降り立ったのは上下左右がパステルカラーの黄・青・赤で彩られた子供部屋の様な空間。そして積み上げられたゾウ・イルカ・くま・うさぎのぬいぐるみと、山積みになったお菓子。そして天井には木星や土星の様な星たちが浮いている。とても現実世界とは思えない様な、まるで夢の中に落ちたかの様な世界。

 そう、これはクロエの部屋。ここは学園の北西に用意されたクロエの執務室とは全く異なる、完全に現実世界から隔絶された異世界。クロエの好きなものだけが詰め込まれた、正真正銘のクロエだけの、クロエの為の部屋だった。


「まさかここまでは追ってこないよな・・・・はぁ、久しぶりに動いたら疲れちゃった。」


 クロエはそう呟くと積み上げられたぬいぐるみの山にバフっと埋もれて天井を見上げる。天井とは言ってもどこまでも続く空。そして昼間のように明るいのに惑星や星が輝く不思議な空間。現実世界の何もかもを嫌うクロエは、一日の大半をこの部屋で過ごしていた。この部屋の存在は、セシリアしか知らない。


「・・・ホントーにめんどくさい、全部。」

「・・・・それはこっちのセリフ。」

「ぬわぁぁぁぁぁっ!?!?!!?」


 誰も足を踏み入れたことがない、クロエだけの部屋。そこに響く今最もクロエを苛立たせている部外者の声。

 アリスが、隔絶されたはずのクロエの部屋にまで追って来たのだ。


「なんでお前がいるんだよぉぉぉ!!!」


 そう言ってクロエは相変わらずの仏頂面で部屋を見渡しているアリスに、手元にあったぬいぐるみをいくつも投げつけるが、それは軽々とアリスにかわされる。


「あなたが案内してくれないと寮まで帰れないから。」

「その辺の人に聞けよっ!!!」


 クロエは人を怒らせる事は毎日あっても、自らの感情を他者に揺さぶられる事は無かった。基本的に他者との関わりそのものを拒否するクロエは、自らの感情以外のもの全て、そして周囲から与えられるものの全てを嫌っていた。その為、何をしても怒りもせずに仏頂面で自分のペースをかき乱してくるアリスという存在に、クロエの中の怒りの感情が爆発する。


「勝手に私の部屋に入って来るなんて、消し炭にしてやる!!!!」

「あなたが連れて来たんじゃん。」

「うるさいうるさいーーー!!!ニア・オーネット!!!」


ーーーニア・オーネット。そんな魔法は当然存在しない。クロエが勝手にオーネットのよく使う火魔法を模して作ったエセ魔法である。しかしクロエもセシリアに次いで規格外の魔力量を有する存在。その小さな手から放たれた魔法は業火となってアリスを襲う。


「・・・・テルミナ」


 アリスはそれを両手の防御魔法を使って消し去る。


「これ以上やるならそこに積み上がったファヴァールのお菓子全部粉々にするよ?」

「うぐぐぐ・・・・全部セシリアのせいだー!!!」


 部屋のあちらこちらに積み上がったお菓子を人質に取られたクロエは、手元にあったゾウとうさぎのぬいぐるみをアリスへ投げつけて悔しそうに叫ぶのだった。

この日、初めてクロエは敗北を味わった。




 ・

 ・

 ・

 ・

 ・




「はいっ!!!ここが学生寮っ!!!もう一生案内しないからなっ!!!!」

「・・・ありがとう。」


 その後、大好物のお菓子を人質に取られ、アリスを学生寮の前まで案内するクロエ。


「絶対この仕返しはしてやるから覚えとけよーーー!!!!」

「・・・わかった。」

「くっそーーー!!!」


 何を言っても暖簾に腕押しのような反応しかしない得体の知れない少女アリスに、更にクロエは怒りを溜めるのだった・・・



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