第4章 百合と魔法と灰色の魔女
25 少女と夜明け
2人がセシリアの部屋についた頃には、すっかり空は白み始めていた。
ハルの部屋はシオンに襲われた時のままで、まだ瓦礫の掃除は済んでおらず、今日はハルもセシリアの部屋で寝ることになった。
「ここが・・・セシリア様の部屋・・・」
初めて踏み入れたセシリアの部屋は、予想に反して落ち着いた色味の部屋であった。物はそこまで多くないものの、所々絵や花々が置かれている。
そして部屋中を包み込むのはセシリアの優しい香り。それは嗅ぎ慣れた香りのはずなのに、どこかいつもと違う特別なものに感じられた。
部屋でセシリアと二人きりになる事は何度もあった。というより、もはや毎晩抱かれていたので出会ってから二人きりにならなかった日の方が少なかった。
しかし、初めて立ち入るセシリアの部屋。普段は見られないセシリアの一面を見せて貰えた様な気がして嬉しい反面、自らを包むセシリアの香りや久しぶりの二人きりという事実に心臓がバクバクとうるさく鳴っている。
「もう今日は休みましょう。」
「・・・・はい。」
セシリアはそう言うと寝室に入り、クローゼットの前で制服を脱いでいく。
(セシリア様の制服や鎧以外の姿、初めて見るな・・・)
ぼんやりそんな事を考えながら、ベッドに腰掛けてセシリアを眺めていたハルだったが、その視線に気づいたセシリアが怪訝そうな表情を浮かべる。
「それ以上こっちを見たら、その瞳を二度と何も映さないガラス玉に変えるわよ?」
「す、すいません!!!」
慌ててセシリアから目を逸らす。
そして静かな部屋にセシリアが服を脱ぐ衣擦れの音だけが聞こえる。その緊張感にハルの心拍数がみるみる上がり、セシリアにも聞こえるんじゃないかと思うほどドキドキと耳に響いた。
「待たせたわね。」
「・・・・っ」
そう言って目の前に立ったセシリアを見上げると、そこに立っていたのは艶やかな光沢のあるグレーのネグリジェに身を包むセシリアだった。オフショルダーから覗く真っ白な肩はか細く、普段は隠された部分が思い切り露わになっている無防備な姿に、思わずハルの息が止まる。
そしてまだ隠れている太陽の仄かな光が、明美なセシリアの容貌をより一層幻想的なものにかき立てる。
「・・・・・綺麗、です。」
「っ・・・・なにバカな事言ってるの。寝るわよ。」
セシリアがそう言ってベッドに横になると、ハルはその隣に恐る恐る潜り込んだ。セシリアがいつも寝ているベッド、そう思うと一層セシリアの甘い香りを感じる。
「セシリア様と寝るの、初めてですね。」
「・・・・そうね。」
普段はハルを気絶するまで抱き潰すと、寝てる間にセシリアは一人で部屋へと帰っていく。何度も体を重ね、もっと恥ずかしい事もたくさんしたにも関わらず、何だか隣で寝ている事がたまらなく気恥ずかしい。
すると突然、じっと目を瞑っていたセシリアが、ハルの頭を抱き寄せた。
「・・・・・・」
「セシリア様?」
「・・・・ありがとう。戻ってきてくれて。」
「・・・・はい。」
その言葉と温もり、そして鼻腔をくすぐる香りに柔らかい気持ちが溢れ出す。ハルは腕の中で、じっとセシリアの琥珀色の瞳を見上げると、その唇にキスをした。触れるだけの口づけ。そんなハルを、普段は見せないような優しげな瞳でセシリアが見る。
「ハル。あなたが好きよ。」
「はい。私も一生あなたの傍にいます。セシリア様。」
ハルがそう言うと、今度はセシリアから唇を重ねた。いつもとは違う、甘い、蕩けるような口づけ。抱きしめられた腕も、わずかに触れる足も、絡みとられた舌も、その全てが熱く、熱を帯びていく。頭が、心が、水の中の様にふわふわと浮いて揺蕩う。
「んんっ・・・セシ、リア様・・・さわ、って・・・」
深い口づけから流れ込む熱と、それに答える様に流れ出ていく魔力の温かさで、身体がもっともっととその熱をねだる様に震えた。そしてセシリアの手が、そんなハルに答える様に薄手のシャツの下に滑り込み、その柔らかい胸の先端をかすめる。
「ふ、あぁっ・・・」
口からあがる、自分のものとは思えない様な甘い声。知らなかった。こんなに気持ちを重ねあった人との結びつきは熱く、優しく、気持ち良いのだと。
セシリアがハルに覆い被さり、その胸の先を優しく口に含む。
「んあっ・・・!」
濁流の様に押し寄せる快感の波。それはこの数ヶ月間の出来事、揺れ動いた気持ち、傷ついた事、怖かった事、その全てを押し流していく。その勢いに流されないように、壊れてしまわないように、ハルは必死でセシリアの首に腕を回してしがみつく。
「あぁっ・・あ、あ・・・だ、めっ・・・」
耐えようと必死にしがみつき、黒い髪を振るハルの姿に、セシリアの情欲が更にかき立てられる。もっと乱れた姿が見たい。そんな思いに突き動かされるように、セシリアの手は脇腹、足の付け根と、触るたびに震える体を慈しむ様に優しく下がっていき、じんわりと湿った下着に手をかける。
「腰、あげて。」
「・・・・優しく、してください」
「それ、本当に反則だから。」
当然潤んだ瞳でそう訴えるハルの姿は逆効果で、セシリアは自分の中の“この少女を壊れるまで愛したい”という思いを必死で抑える。しかしそんな理性は、まるで求めるように強くセシリアの指を締め付ける感触であっという間に崩壊していく。
「ひ、あっ、待っ、て・・・ああっ・・・!」
ハルを大切にしたいという気持ちと、自分だけしか見れないようにしたいという気持ちが、セシリアの中でぐちゃぐちゃに混ざり合う。
「もっと乱れて。もっと私だけを感じて。私以外で感じないで。私だけを見て。」
「ひっあぁっ・・・セシ、リア様っ・・・ああっ」
激しくなる埋められた指の動き。それは必死にハルをここへ留め、縫い付けようとするかの様にハルを攻め立てる。
「だめっ、もっ・・・んあぁっ」
ハルのしがみつく力が一層強くなり、ガクガクと大きく体を震わせると、ハルの華奢な体は一気にベッドへ沈んだ。
ほんのり汗をかいて苦しそうに息をするハルの髪をセシリアが優しく撫でる。
「ハル、あなたが好き。絶対に離さない。」
「ふふっ私も愛してますよ、セシリア様。」
そう言ってふにゃりと笑って抱きつくハルを、セシリアが優しく抱きしめ返す。そして二人で抱きしめあったままベッドの中へ寝転んだ。
全身で感じるお互いの体温。匂い。胸の鼓動。相手が触れられるほどの距離にいるという喜び。撫でる様に背中を
「セシリア様・・・?」
「言ったでしょ?私はあなたを絶対に離さない。」
「えっあれってそういう意味じゃ、ちょっ、んぁっ」
止めようとするハルの手を無視してまた何故か活発になるセシリアの動き。焦り出すハルの声。
「待って下さいっ!優しい雰囲気だったじゃないですか!ストップストップ!!!」
「そうね。優しくしようと思ったのだけど、なんだかあなたを抱きしめたら他の女にあなたを触られた事を思い出してきたわ。」
「待って!なんか黒い!真っ黒な魔力が溢れ出てる!あ、これ絶対私が渡した魔力じゃない!」
「ああこれが愛なのね…」
「絶対に違いしますから!四賢聖は自制というものを知らないのか!?・・・あああっ」
良いムードのまま終わると思った雰囲気は、何故か急に
そして明け方近くから続いた行為は、主人の節操の無さに激怒したオリビアが止めに入るまで続くのだった・・・
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