21 少女と再会

 


 夜になるとハルはシオンの部屋へと呼ばれた。夕食との事だったが、部屋に運び込まれた昨日と違い今日はシオンの部屋で取るらしい。部屋に入ると、豪華絢爛な夕食が並べられていた。




「シオンって、本当に学生なの・・・」




 あまりの処遇の違いに、グルゴにもグラソンの四賢聖の様な生徒自治制度があるのかと思ってしまう。そんなハルにシオンは豪快に笑うと、




「ここグルゴはグラソンとは全く異なるからな!あんたらの所みたいな自治制度はないが、完全実力主義だ。この学校の全校生徒500人が、毎日決闘を申し込んでは今あたしのいる座を狙ってる。その全ての生徒を退けた生徒一人にだけ与えられるのがこの地位と名誉だ。」


「じゃああの煌びやかな女性達も・・・?」




 そう言うハルに、更にシオンが笑う。




「ははは、あの女達は違う。彼女達はあたしに抱かれる事を望んでここにいる。出て行きたいと言うのならば追わないし、彼女達はそうしない。それだけの話さ。」




「ま、着せてる服はあたしの好みだけどな」と言ってシオンは用意された肉料理に豪快にかぶりつく。


 ハルには何となく、この数日間シオンと過ごして感じることがあった。それはこの女傑が、ただ私利私欲を貪る様な暴君で無い事だ。最初はてっきりハルの魔力譲渡の力を求めているのだと思っていたが、初日の弄もてあそぶ様な行為以降、腕枕はされても、それらしい事を求められた事はなかった。


 そして何より、どこか一線引いた態度を貫くシオンには、全く異なる目的があるーーーそんな違和感をずっと感じていた。




「シオンは私を攫って、何が目的なの?」




 ーーー魔力が目的では無いとなると、ハルを人質にして学園に何かを要求しているのか、それともこの先、別の誰かへハルの身柄を渡すつもりかーーー




 ハルが上段に座って肉を食らっているシオンに尋ねる。しかしハルの真面目な質問を、シオンは鼻で笑うと、




「それはもうじきわかる。あんたの力が目的ではないのは確かだがな。」




 とだっけ言いって「そろそろだな」と呟いた。


そんなシオンの不穏な呟きに、ハルが不思議そうに首を傾げると、一瞬にしてシオンの体はハルのすぐ真上、覆いかぶさる様にしてハルを見下ろしていた。




「えっ?えっ?」




 シオンを見ていたはずの視界はいつの間にか反転、今はキラキラと輝く天井と、その下で肉の油で濡れた唇を艶やかに舐める、彫りの深い顔が視界いっぱいに近付く。そして濃厚なスパイスの香り。




(肉食獣みたい・・・)




 その獰猛さを隠そうともしない青い瞳にじっと睨まれたハルは、さながらライオンに首を噛まれたシマウマ。どう踠いてもどうしようも無い事は、その圧倒的な王者の気迫オーラと肩を掴む逞しい剛腕に、考えずとも状況を察する。




「なんで!?私の力が目的じゃないって言ったばっかじゃん!?」




(虚言癖でもあるのか!?)




 シオンの目的は魔力譲渡では無い、そう思って油断した自分を責めつつ、抗おうとその分厚い胸板を叩くが、当然それはビクともしない。




「せっかく来てくれるんだ。盛り上げねえとな。」


「来てくれるって、嫌っ、離して・・・!」




 シオンはそう言って有無を言わさずハルの衣服を脱がすと、膝をハルの華奢な足の間に割り入れ、ハルの体を弄まさぐり始める。その粗暴な手つきに全身で拒否の姿勢を示すハルであったが、シオンがその手を止める事は無い。それどころか、少しずつハルの漏らす声が大きくなっていくのに従って、徐々に下へ下へと下りていく。




(また、魔力がっ・・・!)




 ハルの意に反して、シオンの首筋を舐める感触や太腿を這う手つきに、体の奥底で横たわっていた魔力は首をもたげ、やがてその手を伝ってシオンへと流れ出て行く。




「やっ・・・やめてっ・・・・!」




 ハルが必死に頭を振って抵抗したその時、






 ズドォォォォォンッ






 突然の轟音と共に、何かが部屋の中に突っ込んで来る。壁は破壊され、たちまち辺り一面に瓦礫の山ができていた。そして壁に出来た大きな穴の縁は、凍りついたように霧氷を纏う。一瞬にしてぐんぐんと低下していく部屋の温度。そしてーーー










「・・・帰るわよ。ハル。」






 土煙の中、その憤りを体現する真っ白な冷気に包まれ、壁から差し込む月明かりに照らされたセシリアが立っていた。




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