再び、荒ぶる現実

どうしようも無い現実と対峙した時ばかり、人は夢であれと都合のいい唄を歌う

         







「では頼む」

『まっかせなさ~い♪』


 モモはファイルが表示されてるウィンドウに手を伸ばし、そのファイルのアイコンを鷲掴わしづかみにして手元に引き寄せた。




(前回はここまで❤)


====================






 え、ドラッグ&ドロップってそうやるワケ? 雑じゃね?


『では、モモの超★修復術しゅうふくじゅつ…行くわよぉ!』


 引き寄せたファイルのアイコンをそっと両の手で包み込むと、モモは薄く光を放ち始め───






『ふんぬヴぁぁああぁぁァァァァァ!!!!!!』


 やっぱり物理かいッッ!!!!!

 激しく隆起りゅうきする筋肉。飛び散る汗。鬼の形相ぎょうそう

 ボキッ! ゴキャッ! とヤバい音を立てる効果音。まじでそんな効果音要らない。どうなってんだよその仕組みプログラム

 お世辞にもそれは修復というイメージから程遠かった。


「ふむ…破壊と創造は紙一重、か」


 何言ってんだろうこの司令よくわかんない。


『ふぃーーー…✨ こんなん出来ましたけどぉ❤』


 まじかよ。

 咄嗟とっさにモモの方へ振り返る。キラッキラの汗を輝かせ筋肉がしぼんだモモの隣で、ファイルのアイコンが画像ファイルを示す物へと変化していた。

「な…直ったぁぁぁぁ!?」

『そりゃ直してたから』


 どう見てもプレスにかけて粉砕ふんさいしているようにしか見えなかった。こんぴうたの世界は奥が深いね。


『それじゃ、早速さっそく見てみるぅ?✨♪』

「待ちたまえ。他にも気になっている者がいる様だ」

「えっ?」


 他にも、って…?


「見せなさい!」

「俺も見るぜ!」


 ズイっとふすまが開き、布団玉オフトゥンの封印がボフっと解かれ、最近出番が少なかった青沼さんと桃井さんが現れた。


「隠しファイルがあったなんて不覚…。まさか記録用ドローンがそんな処理を自己選択するなんて思ってもみなかった…」

「細かい事は分かんねーけど、とりあえず新しい情報なんだろ? まずは見ておかねーとな!」


 そうか、この二人は過去の記録は全て確認していたんだっけ。

 二人は俺の両脇に並んで座る。


「ではモモ、頼む」

『なんか盛り上がって来たわね! 内容的にも丁度いいかしら?』


 えっ? それどういう…


『腰抜かさないでね? 行くわよォォォ!』


 叫ぶモモがどアップ(動く集中線付き)で画面いっぱいに映り、次第にホワイトアウトしていく。

 なんだその演出。さっき無かっただろ。盛られ過ぎて逆に白けるわ。

 画面がパッと切り替わり、そして修復された画像が───


「──────!!?」


 予想に反し、驚愕きょうがくかたまりのどに詰まって息も声も出せなくなった。

 両隣の二人も、司令も、予想を遥かに超えたに大なり小なり驚きを隠せなかったらしい。


「───ほ……穂華ほのか───?」


 一瞬で乾ききった喉でかろうじて吸い込めた空気を目一杯震わせ、その名を呼んだ。

 最後に口に出したのがいつなのかも覚えていない、懐かしいその名前を。

 さっき見た火の鳥の炎の輝きをまとった、ずっと忘れた事の無かった懐かしい顔が、こちらを───ドローンのレンズをのぞき込んでいた。


 純粋な子供の様にも見え、悪意を凝縮ぎょうしゅくしたナニカの様にも見える底抜けの笑顔だった。最後の記憶より少し大人びた顔で。

 情けない話だが、今もし立ち上がろうとしたらひっくり返ったと思う。モモが言った通りに。


「馬鹿なッ…!? なぜ動けた!? 凍結された空間のハズだぞ!」


 司令が肘掛ひじかけを激しく叩きつけ立ち上がる。


と言うのか…!? 凍結空間を…」

「信じられない…そんな事可能なワケ…?」


 司令と桃井さんは自らの役目からの視点で分析している様だ。


「レッド、この子がお前の…?」


 気遣う青沼さんの問いかけに、自分の首じゃない様にガチガチに固まった頸椎けいついを折り曲げ、なんとか首を縦に振る。


「そうか…。だが、こいつは…」

「あんたには悪いけど、間違いなくよ、この子」


 傷が見え隠れする桃井さんの額にうっすらと汗が流れた。

 言葉が出なかった。情けないと思う。君に会えればいいなと望みを託してのぞんだハズなのに、望みが叶ってなぜか訳も分からず震えてた。


『えっ!? ちょっと…何よコレェ!?』

「どうしたモモ!」


 音声だけでモモが慌てた。


「待って、画面が───」


 桃井さんが指差した先。静止した画面に映されたあの子が…


「う、動いてるぞ!? 静止画像のファイルじゃないのかよ!?」

『だからぁ! 修復したデータがもにょもにょ変形してるのよォ!! キモイィィィ!』

「キモイってお前が言うなよ!」

「拡張子の変形…冗談でしょ!?」


 騒ぎ慌てる周囲の中、俺はただひたすらその画面を見つめていた。

 何か…言ってる。

 ゆっくりと変化するその口元を見つめ、あの子が良く口にしていた言葉を記憶の底からすくって当てめていく。


「……ア・ソ・ボ・ウ───?」

「レッド…?」


 司令が俺の様子を見て瞬時に察し画面を見る。

 青沼さんも桃井さんも喋るのを止め、同じ様に画面を注視した。

 ───声が、した。ずっと忘れられなかったあの子の声が。


『 " ネェ、アソボウヨ。アソンデヨ。アソボウヨネェアソボウ。アソボウ、アソボウ、アソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウ!!!!! " 』


 声に合わせて口が動き、だんだんと壊れた繰り返し動画の様に速度を上げて行く。

 そして突然口を閉じ、画面に───ドローンのレンズに更に接近し、片眼だけが画面いっぱいに映された。

 開かれた瞳孔どうこうに底の見えない深淵しんえんが広がっていた。





『 " ───遊ぼうよ、 " 』





「ヒッ…!」


 射抜かれた様に尻餅しりもちをつき、一気に後ずさってしまった。

 唐突とうとつにブラックアウトする画面。


『 " アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ " 』


 哄笑こうしょうが、逃がさないぞと言わんばかりに部屋中に響き渡り───消えた。

 その場にいた全員が言葉を失っていた。


『何なのよもう!』


 モモがまさかの仕掛けに腹を立てていた。


『破損ファイルと見せかけた画像ファイルに見せかけた動画ファイルだったってワケ!? ていうかもしそうだとしたらこのデータを送ったの、この子って事になるわよ!?』

「まさか、怪人が自らコンタクトしてきたっての!?」


 ドローンがその役目として記録を送信したのと、ハッキングされてメッセンジャーとして利用されたのでは確かに意味が大きく違う。


「何が狙いだ…」


 司令が再び椅子に座り久々のあの姿勢ゲンドウで唸る。

 狙い───。俺には分かった。


「そんな、大層たいそうな事じゃ無いと思います…」

「む…? どういう意味だ、レッド」

『ギャーーーまた動いた!!』


 モモが画面の中で再び騒いだ。そのモモの周囲をくだんのファイルのアイコンが飛び回ってた。PCのホーム画面で同じ現象が起きたらさぞかし恐怖タイムだろう。

 アイコンは縦横無尽に激しく飛び回ると、突然ピタッと止まり…


『 " バイバイ! またね! " 』


 あの子の声で告げると、パァン!!と破裂するアニメーションを残し画面から消滅した。


『「 ウソでしょ…「ウソだろ…」 」』


 司令以外が信じられない物を見た素直な呟きを漏らす。

 確信に辿り着いた俺は逆に驚かなかった。


『やっだ、マジでカケラもデータの残骸ざんがい残ってないじゃないのよ!! ムカツクーーーー!!!』


 あれだけ余裕を見せてきたモモが珍しくやり込められ悔しがっていた。


「レッド…さっきの意味は…」


 ───ああ、きっとそうなんだろうな。いや間違いなく、そうだ。


「俺を呼んでましたよね。最後に」

「ああ」


 沢山の記憶が脳内に溢れた。






ですよ」






 それは恐らく世界で一番最悪の。










(本編次話へ続くッ!)







       

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