TIPS/いつかの、誰かの記憶
TIPS【15 years ago】
寒い。
心の中で人の言葉でまともに気持ちを表したのはいつぶりだろうか。昨日だったか、数年前だったか。
それ程までに記憶には
とても、とても大きく深い穴だ。もともとそこにどんな色彩の記憶があったのかなど想像出来ないくらいに。
冷たい。
自分はどうやら仰向けに寝かされている様だった。
背中に硬い板状の物体の感触がある。冷たさの出所はそれが一番だろうか。
動けない。
僅かな
肌に触れる感覚で分かる拘束具の数に少し
視界は闇の中で何も見えない。
見えないというよりただ単に目を何かで
ここまで厳重に拘束するなら何故耳も塞がないのだろう、と疑問だった。
『じゃあ何だ、この怪文章をそのまま信じろというのか!』
意識が覚醒するにつれて耳もハッキリと音声を聞き取れるようになってきた。
イラついた感じの低い男の声がハッキリ聞こえる。
『信じるも何も、
こちらは少し高めの声の男。
『馬鹿な…本当にこんな事が…? 信じられん…!』
『これは驚きですな、この研究所の
表の、世界?
『…分かってる。ああ分かってるさ。この直筆のサインは間違いなく俺の字だ。
くしゃくしゃと何かを
『 " これ " が
これ、とは何の事だろう。見たいけど見えない。
『否定する要素が現在の所ありませんので。信じる要素も無いと言えばありませんが』
上下関係としては下であろうこの声の主の方が考え方としては
気になるとすれば、声の中に何か不安になるような…不快なトーンが見え隠れする所だろうか。
『───成功した超限定空間凍結と解凍、消滅しない素体と仮説。そして素体の正体…非常に興味深い』
『そうか、それは
ドサッ、ギシッ、と大きく
『おや、もう既におかしくなってるみたいですね、頭。よく効く頭痛薬でもお持ちしますか?』
『何飲まされるか分からんから
『これは
クックックッ、と小さく笑う声。
おかしい、とは頭痛が痛いという誤用の事を言っているのだろうか。よく分からない。
コツ、コツ、コツ…と歩く音。
『 " これ " を信じるとすれば、我々は10年の時間を
『読んだだろう? 10年後でも手に負えないから送り付けられたんだ。未来は
低い声の男は投げやりに吐き捨てた。
『おやおや、技術部最高責任者が
『寝ぼけてるのか。
『確かに』
クックックッ、とまた笑う。
『ならば───』
足音が近付いてくる。言い知れない不安が全身に走った。
男の指が、
ヒトとしての体温を感じるのに、その手は恐ろしく冷たく錯覚させた。
『───寝て過ごしますか? 10年後まで』
ぞっとする、穏やかな声。黒よりも黒い感情を凝縮した底知れない悪意。
声を上げそうになった。声が出せるかも分からなかったが。けれどその試みはこの男の放つ悪意に
『…フン、相変わらず悪趣味な奴だな。分かってるさ、今の俺達がしなきゃならん事ぐらいは』
ギシッと音を立て、やや重たい足音が近付く。
『怪人、か…』
カイジン…? それは、私の事…?
『どうして外れて欲しい予想ばかり当たってしまうんだろうな…。いずれ知る事になったとしても』
『気が進まないと言う意味でしたらば私が全て取り仕切りますが?』
嫌だ、と全身の細胞が叫んだ気がした。
『つまらん冗談言うな。お前の様な
ニンゲン…? カイジンじゃなくて?
どっちなのか。どっちもなのか。
私はニンゲンで、カイジンと言う事なのか。分からない。
『私にとって人間も怪人も大して変わりはしません。知りたいのは真実、そして知識…! 10年後に成功する超限定空間凍結、そして不可能とされている空間解凍。未来が繋がったと言うならばそれを成功させるのは
さも嬉しそうに、楽しそうに、片方の男が
『そんなのはどうでもいい。俺は前線で傷付く奴等を少しでも減らしたいだけだ。俺の
自分の中には無くなったと思っていた臓器が、何かを報せるかのように大きく脈打った。
そうか。
きっと
私は一つだけ思い出した。失われた記憶の端っこ、最後に聴いた言葉。
【───ごめんなさい…ごめんなさい…!】
そして
あの時、どうして " あの人 " は私に謝ったんだろうと疑問に思っていた。
でもそれはこれから私が受けるであろう日々を知っていたからなんだね。
風になびく、光を透かした長い金色の髪の毛が綺麗だった。
そして泣いていたような気がした。
泣きたいのは私なのに。涙の流し方が、分からなかった。
だから代わりに泣いてくれたんだと思う。
すごくファンタジーな閃きをしてしまった。
ああ、あの人は多分──────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます