RPGで敵がパンツマンだった時の勇者はどれだけ複雑な心境だったのだろう

       







 あ、その前に…。


「青沼さんと桃井さんはいいんですかね?」


 司令に一応尋ねた。


「問題無い。二人ともすでに全ての記録に目を通している」

「えっ!?」


 あの数の記録全てを!?

 …桃井さんはともかく、青沼さんに対する認識をちょっと改めようと思った。普段見せている姿はもしかしたら本心を隠すための演技だったのかもしれない。本気で弟さんの事を想っているんだ。そんなの当たり前だよな…。

 グーグー寝息を立てている青沼さんを見て、勝手に駄目な人印象を持ってしまった自分を申し訳無く思った。


「…ムニャ…レッド…お手」


 ブッ!(寝屁ねっぺ


「…」


 司令がいていたスリッパを無言で投げた。強烈なスピンを得たスリッパが吸い込まれるように青沼さんの顔の中心に叩き込まれる。


「…オーゥ…エキサイティン…ぐぅ」


 エはるかよ。やっぱり認識改めるのはやめよう。

 …

 ぅゎくっさ!!? まじ時間差でくっせ!!!! 腸の中はらわた腐ってんじゃないの!?




  ~換気タイム~



 俺は無慈悲なる鉄槌トールハンマーにビクビクしながら玄関を開け放ち、司令はカーテンを閉じたまま部屋の窓を開けていた。

 今日は随分とあったかい日だった。

 もう大丈夫かと判断してきしむドアを閉める。それを見た司令も窓を閉めた。

 ちょっと邪魔が入ったが改めてTVの前に正座。

 青沼さんは再び布団にて封印されし妖怪布団玉オフトゥンとなった。起きないのがすげぇ。


「ではモモ、画像を」

『は~ぃ❤』


 ドクン、と心臓が大きく震える。ここに来てから何度目だろうか。止まったりしないかな。

 モモをおおい隠し、画面全体に画像が表示される。


『1枚目』


 モモの声だけTVから響く。

 映し出された画像はどこかの公園?だった。画像の中心辺りに砂埃すなぼこりが舞っていて、その向こう側にたたずむ人影が見える。


「これが…怪人…!」


 のどがゴクッと大きな音を立てた。自然と体が前のめりになって画面を凝視ぎょうししてしまう。

 表の世界の人達は知らない、CGではない世界の姿。ここに来るまでは創作だと決めつけていた裏側の世界───。


『二枚目。グーンと近付くわよぉ』


 画像が切り替わる。

 確かにズームされたが、濃い砂埃が丁度覆い被さり天然のボカシで邪魔をする。

 くそ、ハラハラする!


『三枚目。あ、これハッキリ映ってるわね』

「…!」


 いよいよ…。

 果たして君かどうか俺に分かるだろうか。ひざに置いた両の手を握り締めた。

 そして画面が───切り替わ…


「……う?」

「…」


 ……

 ……

 ……

 ……

 思考が大分停止してた。

 そこに映し出されたのは───

 ネクタイをハチマキにしてこめかみで結び、ガスマスクをして、ワイシャツにパンツトランクス一丁、靴下に便所サンダルという出で立ちの、芸人か罰ゲーム中のサラリーマンみたいな男?だった。

 極めつけに背中に巨大な扇子せんすを背負い、開かれたその扇面おうぎめん地紙じがみにはぶっとい筆文字で【灰燼かいじん】と書かれている。


「あ…あぇ……?」

『あ? アラやだ、もしかしてオトモダチ当たっちゃった?』

「怪しいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!???」


 当たってたまるかあぁぁぁぁぁぁ!!!!

 こんな友達嫌すぎるわ!!!!


『だから " 読んで字の如く、怪しい人 " って言ったじゃない』


 そうだけど! 確かにおっしゃる通りですけど!!!

 なんか、こう、違う、そうじゃない!!!

 お願い鎮まれ俺の相棒マサカズ───!

 久し振りに自分の頭をアイアンクローしてしまった。そうだよね、ここってそういう所あるもんね!! 久々だから油断してたわ!!!


「レッド、まさかこれが君の御友人…」

「やめて汚さないであの子の記憶!!」


 まじで思い出せなくなっちゃうから!


「うるせえ死ねええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「ゴメンナサイッ!?」


 ズパァァァァンと隣の部屋とを仕切るふすまが叩きつけられ、桃井大明神が怒りの形相ぎょうそう通算9話【どハイテクとどアナログがお手手つないで俺の脳を殺しに来るんですが】と全く同じシチュで現れた。

 あ、でも今回はそのまま引っ込んでいった。怒鳴りたかっただけ?


「ふむ、ひとまずは御友人じゃなくて良かった」


 本当に。本当に。


『それにしても随分ずいぶんと攻めたスタイルの怪人よねぇ…。実力者かしら』

「うむ。特にあのおうぎ───かなり危険なにおいがするな」


 何言ってるのあんたら。


『あの " 灰燼かいじん " って文字…やっぱり火の能力だからかしら。あれは自分の能力に相当自信があるわね…!』

「恐らくは " 万象一切灰燼ばんしょういっさいかいじんす " という強い意志の表れ…」


 いや多分違う、そんなどっかの総隊長のおじーちゃんみたいな意味じゃないです。

 怪人カイジン灰燼カイジンを掛けただけです絶対。

 ていうかこれ以上芸人殺ししないであげて! なんかかわいそう!


「と、逃走って事は逃げて行ったって意味ですよね!?」


 分析大会がエスカレートしそうだから無理矢理会話をぶった切った。


『えぇそうね(シュコー)戦闘開始直後にドローンのカメラが敵の能力の余波を食らっちゃってその後の映像は無いみたいだけど(シュコー)味方に大きな損害無かったそうよ。報告書には…何々…(シュコー)』


 画像を画面の外側に押し出して再びモモがフレームインしてきた。ガスマスクをして。

 何してんの呼吸不要プログラムさん…。あんたホント自由だな。


『敵対する素振そぶりは無く、ただひたすらコピー戦闘空間内の無機物を燃やしては灰にし続け(シュコー)我々以外の一切を燃やし尽くしたら異空間へ消えていった(シュコー)なるほど』


 まじで万象一切灰燼と為したのかよ。


「敵意が向けられなくて幸いしたな…」


 司令の方をチラッと見ると、汗が一筋頬を伝っていた。

 俺は改めてまだ自分がお客様思考なんだと思い知らされた。

 あまりに現実離れし過ぎていて、それなのにふざけて冗談みたいな空気すぎて。

 だけどこの人達は何度も死にかけているんだろう。それがもう既に日常なんだろう。だから笑える。だから怒れる。だから全力で生きてる。嘘みたいな日々を、理解されない世界を。

 俺は、どうだろうか。


『マスク飽きちゃった❤』


 モモがガスマスクを外して画面外へぶん投げる。

 マスクの中で蒸れたのか、横顔にうっすら汗が浮かんでキラキラしている。なんでやねん。


『うふ❤ やっぱりアタシは素顔が一番でしょ、ボーイ?❤❤』


 艶っぽい眼差しでこちらを見たモモは…ぉぃ…


「なんで青髭あおひげ濃くなってんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

『アラヤダ! コンチこれマタ失礼しました~★❤』


 お願いだからシリアスなままで30分くらいキープしてくれ…。脳がバグる。








(本編次話【空想出来る事は起こり得る未来の可能性、ってヤツが本当に来ちゃった話】に続くッ!)





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