TIPS/いつかの、誰かの記憶
TIPS 3ー1 【P】
過ぎ去ったあの日はこの本の物語の様に鮮明で、
訪れた現実はこの本の物語の様に
目に映るから実在しているという理由になるのか。
目に見えないから存在していない理由になるのか。
◆◇◆◇◆
「ねえ、この学校にまつわる
夕日が差し込み始めた人気のない図書室。個人ブースではなく
光が差し込む窓を背にした
『
自分のクセ毛を無意識にくるくると
お互いに図書室の蔵書を好きに持ってきてだらだらと読み
「まだ子供でしょ、お互い」
『はいはいそうでございますね』
チッ、可愛いなコイツ。テンプレみたいなメカクレメガネしやがって、そのくせ前髪上げてメガネ取るとマジ天使と来たもんだ。少女漫画かよ。少女漫画だな絶対。うん。
実際に彼女は隠れファンが多い。隠れ、って言うとなんかアレだけど、つまりは明らかに好意を持っているけどそこから先の関係へ進めないヘタレだらけってだけなんだが。
でもまあこの子の守備範囲を知ったら多分ほとんどの♂が
…ん?
直前の会話を思い出して引っかかる。
『はち不思議? なんで八? 普通は七不思議でしょ』
どこの世界線の
「そう、そこがこの学校の不思議なの」
『八個目がある事が八番目の不思議! …とかっていうオチはやめてよ』
「それじゃつまらないでしょ。
珍しくノリノリだ。メガネの奥で目がキラキラしてる。見えんけど。
『別に七つの不思議が八つに増えただけでしょ。それが何か特別なわけ?』
特に興味を
「七不思議ってどういうものだと思ってる?」
質問に質問で返すのは彼女の悪い
『
素直な回答をオブラートに包まずに並べる。人によっては私の夢も幻想も無いつっけんどんな返しに冷たい奴だという印象を持つかもしれないけれど、別に他人にどう思われようが気にはしないし、そもそも目の前の人物はこの程度の返しで私への評価を変える事など無いと分かっていた。
「そうだね。私も
あれ、意外な反応。違うと思ったのに。
「いろんな学校で、いろんなバージョンの怪談が
どこぞの誰かの小説の一節を
私を見ているのか、はたまた何もない
『それで? レディー、話はそこで終わりじゃないだろう?』
私もつい
「
『そりゃあ、最初に作った奴が七つで設定したからじゃないの?』
「なぜ、七つなの?」
テーブルを挟んだ向かい側から身を乗り出しズイっと顔を寄せてくる。
ふわっといい香りが
『なぜって…』
私は
彼女は前髪で
「七という数字は日本だけじゃなく世界的に意味があるの。幸運、
長い毛先が、風も無いのに
「呪い、とは言ったけれど、実は安定とかかもしれない。不確かなモノを七という文字の縛りをもって安定させているのか、もしくは本当に隠さなければならない何かを封印する条件が七という数字なのか」
『ちょっとちょっと…、話が
私は背筋にうっすら浮かんだ
「いいでしょ、実際に中二なんだから。中学二年生も年齢的には大抵十四歳。七の倍数だよね。いろんな事に感化されるのも七と関係があるのかも」
『わーーーったよ、私の負けだ! それで、七不思議とこの学校の八不思議とどう関係してくるのさ』
彼女は一呼吸置き、ニコッと笑みを浮かべると、テーブルを回りこんで私の隣の席にスッと座った。先程感じた彼女のいい香りが強く漂い、慣れているはずの心臓が高鳴った。百合かこれは。百合だな、うん。
しかし彼女は私が脳内で楽しい妄想に
「…この学校の八不思議は、もともと七つだった物がある日突然八つに増えたの」
『へっ…?』
香りの
「あなたは興味無いだろうから知らないかもしれないけれど、実はこの学校の七不思議って他の学校の物に比べるとハッキリしてて、生徒の間ではそれなりにメジャーなんだよ」
彼女は自分の学生カバンから大学ノートとペンを取り出し、適当なページを開いてペンを走らせる。
「他の学校の七不思議は大抵は四つか五つくらいがハッキリしてて、残りはあやふやだったり話の展開が分岐してたりするんだけどね…」
ノートに次々と書き出されていく不思議物語のタイトル。ていうか相変わらずキレイな字と指だな。完璧超人か。
「【立ち入ると締め出される校門】、【
何て言うか、よくもまあ集めたもんだな。考える方も考える方だ。それぞれにエピソードがあってそれを考えた者がいるなら今頃作家志望にでもなってるだろうか。
『私はひとつも知らなかったけど、これみんな知ってるって言うワケ?』
彼女はコクンと
「みんなが知っている内容もほぼ一致してる。そして何よりも
『順番…? どゆ事…?』
私は無意識に生唾を飲み込んだ。
「お話が七つもあるんだよ? それなのに…みんな、
全身が
七つのシナリオを誰もが
何人に聞いて回ったのかは分からないが、彼女の事だから検証するために決して少なくはない人数からリサーチしている事だろう。
その全ての人間が、七つある
「そしてこれも同じく、【七つの話を知るとどうなるか】っていう結末が、ある日を境にして変わった」
何となく
『結末が変わった、って…』
「そもそも七不思議だった時、結末だけはあやふやだったの。それだけじゃない。順番もそう」
『つまり、ウチの学校の七不思議も本来は
コクンと
『じゃあその、 " ある日 " ってのは?』
一瞬
「それは、私が───」
『…?』
ここに来て初めて彼女の言葉が
「ううん、多分これは違うかな」
『なにそれ』
「これかな?って予想してた事はあるんだけど、それだとどうしても
取り
…なるほど。まあいいか。
『 " ある日 " がいつなのかはとりあえず置いといて、その変わったっていう七不思議を知った場合の結末ってのは何なの?』
「うん…」
再びノートにペンを走らせる。
『【八番目が分かる】…? どゆこと??』
なんでここでクイズ形式になるんだよ不思議コンチクショウめ。
「七不思議を
『なんじゃそりゃあああああ!!
私は性格的に複雑怪奇なメンドクサイ話が苦手だった。
いや待てよ? 何も私が理解してなくても
『…もしかして、知ってる?』
「…うん。分かっちゃった」
『さっすがミステリヲタク!』
どさくさに紛れて横から抱き着く。うわっ、細っ、やわらかっ、いいニオイ!!
オヤジかよ私。オヤジでいいや、うん。
「ヲタクじゃないよ…ミステリーでもないし…」
照れ笑いかと
あれ…?
嬉しそうには見えない、複雑な顔をしていた気がした。それもすぐにかき消えてしまったが。はて?
「八番目の不思議、それは…【とびらのむこうがわ】」
平仮名のみのそれを、サラサラっと書く。
うん…?
『七番目までに比べると…何というかアッサリしてるね』
これまでは場所と内容がある程度ハッキリしていたタイトルだったのに、いきなり
「…これ見て、何か感じた?」
『へっ? 何を?』
「…ううん、何でもない」
なんだなんだいきなり。今度は不思議ちゃんモードか? 今の私はなんでもいけるぞ!
「暗くなってきたね。そろそろ帰ろうか」
『え…あ、うん、そうだね』
さっきまであんなに目を輝かせながら喋っていたのに、不自然な切り上げ方だった。
(TIPS 3-2 【P】へ続く)
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