TIPS 3-2 【P】
夕暮れが終わりを迎えようとして、入れ替わりに
校舎内には生徒の気配は無く、校庭から響いていた部活動にいそしむ環境音ももう聞こえなかった。
トーン、トーンと、私達の靴音だけが無限の様な回廊に響き渡っている。
「私達だけしかこの世界に存在していないみたいだね」
突然口を開いたかと思えば
『そうならいいなと思うのが半分、それじゃダメだと思うのが半分かな』
三階の端に位置する図書室を出て、近くにあるC階段を降りる。途中の2.5階と言えばいいのか、踊り場にある鏡───。
そういやこれが何番目かの不思議だったっけ。
" 三階踊り場 " なんだから3.5階の可能性もあるじゃないかと言われそうだけど、そっちじゃないと断言できる理由は簡単だ。そもそも鏡が無い。
噂の鏡をチラッと正面から盗み見る。
当然だが自分の姿がそこにあった。チビでひんぬーで剛毛くせ毛のチンチクリンが。ちくしょうめ。
「どうして半分はダメなんだと思うの?」
意外そうな顔で聞き返してくる。
『残念ながら私達は何の取り
悔しいけれど、人が独りで生きていこうとすれば気が遠くなる数の
それが分からない程子供じゃない。…と思いたい。
「そっか…。やっぱり、私だけなんだ…」
『えっ? 何て言った?』
「ううん、大好き、って」
『ちょ、おま、えっ、うはwwwなんですかいきなりもうwwwやめてよwwいややめないでwwww私も好きよwwwwうへへへww』
「ふふっ」
この子ったらなんてタイミングで
そんなやり取りをしている間に明かりの消えた職員室の前を通過した。
当然、一度で通り過ぎた。
これだけ何か出そうな雰囲気なのに何も起こらないってンなら、八不思議とやらもやっぱり
正面玄関口に並ぶ下駄箱から
「あ…」
『ん? どうしたの?』
「ごめんね、呼ばれてたんだった。忘れてた…」
バツが悪そうに両手で毛先を
『え、マジで? 先生に?』
「先に帰ってて…いいよ…。もう、
心なしか悲しそうに聞こえた。
ははーん、さては怖いんだな? あんなにオカルトマスターみたいに振る舞ってたクセに。
今更時間なんて気にしても仕方ないでしょうに。
『バッカ、こんなに暗くなってるのに一人残して帰れるわけないでしょ』
「で、でも!」
『さすがに呼ばれてもいない私が一緒に行くのはアレだから、校門で待っててあげる。だからはよ行っといで!』
「………うん。ありがとう…」
…そんなに怖いのかな。
誰だよこんな時間に呼び出したアホ教師は。いかがわしい事したら麻酔無しで
『じゃ、待ってるね』
私は出口へと向き直る。
「ねぇ!」
『うぉビックリした!? どうしたよ?』
バクつく心臓を押さえて振り返る。
「私達、友達だよね?」
何よいきなり大きな声で。アオハルっぽいな。
『あったりまえじゃん!』
私は、私史上最高のドヤ顔で答えた。
まあ友達以上の関係になりたいと存じておりますが!(腐)
「…うん…、うん…! ありがとう。……待ってて」
『おう、待ってる。気を付けてね』
そう言うと彼女は目元を押さえるような仕草のまま職員室の方へ再び歩いて行った。
まさか泣いてたのか…? どんだけ
私は約束を守るべく、校門を
【立ち入ると締め出される門】は出て行く時はノーマークみたいだ。…なんつって。
『はぁ、夜が来るのが早くなったなぁ…』
校門脇のフェンスに身を預けて独り
辺りはもうすぐ完全に夜の
時間潰しがてら、さっきの事を少し思い出してみる。
実は自分でも何かが引っかかっていたからだ。それが何なのかは説明が出来ないけど。
『校門、玄関、職員室、階段、あと何だっけ…』
階段までは続けて通過するんだよな。
…あ?
『えっと確か…音楽室、理科準備室、それから…放送室か!』
脳内で学校の3D模型図をイメージし、残り三つの場所を点灯させる。
『校門から玄関、そのまま向かって左方向の職員室を過ぎて奥のC階段を上り、四階の音楽室、それから四階を逆端までいくと理科準備室、近くのA階段を二階へ降りて中央B階段付近まで戻ると放送室…』
本校舎の外側付近を時計回りに一周するコースになる。
だから何だ? まだ何かが不足してる。
…順番。そう、順番だ。なぜ誰もが判で押したかのように話の順番が一致しているのか? 自分でも言った。
じゃあもしそれが仮に何かしらの意志によって強制されていたとしたら?
『例えば…話が登場する場所自体が重要であって、それを
丸を書いて最後を閉じなきゃいけないのに
『ああくそ、ややこしい!』
私は校門に向かって立つと、校門と校舎正面が真っ直ぐにこちらを向く角度になるよう立ち位置を微調整し、闇に浮かぶ学校全体を
そして視界に指で線を引くように、校門から玄関、そして各スポットのおおよその位置を空中でなぞってみる。
『…
頭の空白に、引っかかっていた何かがピタリと
そう、円じゃなくて、
…いや、たまたまかもしれない。でも説明のつかない事象があるというのに、本当にこれもたまたまで片付けていいのか?
否定したい自分と、否定しきれない自分がいる。
はぁ、とため息をひとつ。私は一体何を考えてるんだ、馬鹿馬鹿しい。
そんなファンタジー小説みたいな事が本当にあるわけ…
だが、不覚にも気付いてしまった。
『ちょっと待ってよ…。校舎…どこも電気付いてないじゃん…。呼ばれたって…
全身に氷水を流されたような感覚。つい先程の記憶が鮮明にフラッシュバックする。
「…これ見て、何か感じた?」
「私達だけしかこの世界に存在してないみたいだね」
「ごめんね、呼ばれてたんだった」
「もう、時間が…」
職員室の前を通り過ぎた時、明かりは確かに消えていたじゃないか。
あの子は
じゃあ、時間が…って、何の時間さ?
全身が表現する事の出来ない
ええいビビるな、落ち着け私! あの子は私に何を感じて欲しかったんだ? ビビるくらいなら思い出せ!
そういえば…七不思議が八不思議に変わった " ある日 " がいつだったのかを私が聞いた時、あの子は
では何についての嘘だった?
「多分、私が───」
その先だ! あの子だけが知っている何かに関する…
『 " 八番目 " ───?』
待て、それは七番目まで理解すれば誰でも…
『…もしかして、知ってる?』
「…うん。分かっちゃった」
聞いた、ではなく?
七番目までを知っている者が大勢いたんだ。【八番目が分かる】という結末通りならそいつらも全員八番目の物語を知っていて当然だ。リサーチを繰り返していたならその八番目について
それなのに「分かっちゃった」と表現したって事は、
じゃああの子は何を理解した?
何をって、決まってる。【七不思議】だ。その本当の意味、そしてなぜ自分だけが八番目に辿り着いてしまったのか。あの時彼女は本当はこう言うつもりだったのではないか?
「多分、私が
七不思議を彼女が本当に理解した時、
" 見えない何か " に七不思議を刷り込まれた生徒達は、七不思議を理解した
何に選ばれし者か? そんなモン知るかッ!
なんで私だけが知らなかった? そんなモン知るかッッ!!
確かなのは、この馬鹿げた
『
手荷物をその場に投げ捨て、弾かれたように校門へと駆け出した。
(TIPS 3-3 【P】へ続く)
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