妖怪と宇宙人に囲まれて助けを求めたら人外魔境まで現れた件

     







もるのは構わないが、君が眠りにつく直前に何をしようとしていたか、覚えているかね」


 布団ミルクレープの外側から司令のくぐもった声が聞こえる。

 ん? 何だったっけ…? 何かを必死につなげていたような…繋げて? 繋ぐって言ったら…。…あ。


「思い出した!!」


 俺は上におおいかぶさっていた布団ミルクレープを起き上がる勢いで一気にね飛ばした。


「ちょ…おわっ! 重ッ、これめっちゃ重ッ! あと湿気くせぇ!!」


 跳ね飛んだ布団がそのまま山になって青沼さんを埋めた。

 そんな物体を人に被せてたんですか。殺す気か。


《いきなりそんな動くと筋肉つっぱるぞー……》


 布団山が喋っているけど気にしない。

 確かに全身つっぱって痛いけどとりあえずそんなの後回しだ。


「DVD! 桃井さんから渡されたDVDを見ようとして確か俺…」

「途中で放置してぶっ倒れちゃったから私がコード繋いどいてあげたから。感謝しなさい」


 桃井さんが腕組んでドヤった。そんな大層たいそうな事じゃないでしょうに。

 いや、そりゃ確かに自分には配線出来なかったけどさ。ちくしょう。


「ふふ…、ここまでが、ようやく君自身の秘密に迫れる時が来たようだな」


 先程までの穏やかさが一転し、司令の鋭い眼差し。

 背筋を冷気なのか電気なのか分からないビリっとした緊張が走り、微睡まどろみ余韻よいんを完全に吹き飛ばした。


「覚悟は、出来ているかね」

「───はい」


 のどがゴキュッと鳴る。


「よろしい」


 司令は満足そうにうなずくと、くたびれたワークチェアから立ち上がり部屋の隅のブラウン管テレビの電源を付けた。そのテレビには桃井さんが配線をしてくれた例のDVDプレーヤー。


「お、いよいよか! 俺も見るからちょっと待ってくれよ」


 布団山からもそもそと空気読まない太郎が生まれ出た。土着どちゃくの妖怪みたいでキモい。


「あ、じゃあ私は見る必要ないからあっち戻りまーす。

「え??」


 なんか引っかかる。なんだろか?


「だってその内容、私が知っている事の丸写しみたいなもんだし、見て得られる物が無いなら見る必要無いでしょ? それに私が戻らないと仲間が全滅するかもしれないしね。じゃ、そゆ事で!」


 言いたい事を一気に叩きつけると桃井さんは再び暗い部屋の中に吸い込まれていった。

 あの人ネトゲ漬けなのかよ。

 まあそんな些末さまつな事はほっといて。


「じゃあ電源入れますよ」


 俺は指先が震えているかのような錯覚を覚えつつ、押し慣れているはずの現代機器の電源ボタンにまるでミサイルの発射ボタンでも押すかのような心境で指を伸ばし───


「ちょっと布団畳み終わるまで待ってくれよ!」


 ホントKYだなあんた!


「あとで手伝うから先に見ましょうよ! はいスイッチオン!」

「ぅをぃ!!」


 青沼さんの雑な扱いは絶好調だった。

 たたむのを途中で放り投げると、青沼さんも慌ててこちらに合流する。

 古臭い球面ブラウン管にDVDプレーヤーの電源を入れた瞬間の一瞬のノイズが走り、数秒のブラックアウトの後、白い文字で画面に英単語と数字の羅列が狂ったような速度で表示されては次々と画面の上に向かって押し出されていく。

 昔のPCの立ち上げ画面の様だった。


「なんか随分とアナログだな…」


 青沼さんがつぶやく。不安になるからマジそういう事言うの勘弁して下さい。

 しかしその不安を他所よそに白い文字の濁流だくりゅう唐突とうとつに止まり、再びの暗転あんてん。そして今度は間を置かず画面いっぱいに映し出された…


「…なんだろうこの背景…? 飲み屋…バーか…?」


 意味わからん。これが桃井さんの頭の中の丸写しなんだろうか。酔っ払いかよ。いや酔っ払いだな。うん。


「なんでいきなりディスったん…?」

「え…? はぃ…??」


 …??

 青沼さんが俺を見て悲しそうな目。


「いや…いいさ…」


 どゆこと???

 ディスったって、俺は画面見て「バーか?」って言っただけ…

 バーか? …BaーKa? …バーカ……


「あっ」

「どうした?」

「分かりにくッ!!!」

「??」


 なんでそこで不思議そうな顔するんですかこのKY太郎は。宇宙人かよ。いや宇宙人だな。うん。


「しっかし、画像きったねぇな…これだから三色端子は…」


 うるさいなもう。

 いい加減文句言おうとした矢先…


『システムオールグリーン、情報伝達プログラム起動。疑似人格AI【モモ】をアーカイブ管理者として固定。アンサー・スタンバイ』


 やけに前時代的なメカメカした音声が無機質に情報を読み上げた。

 そして画面中央に人の上半身のようなシルエットが浮かぶ。ぶっちゃけるとバーの背景のせいで店のマスターのようにしか見えない。

 …イカン! 思考がまたしても逸れてきたぞ、こいつぁ良くない傾向けいこうだ。集中集中!


「レッド、もしかしてそのマイクでもう話せるんじゃね?」


 青沼さんは俺がいつの間にか握りしめてた対話用カラオケマイクを指差した。


「えっ? あ、そうか、これで話すんでしたね。えーっと…、あー…、あれ…なんだっけ…何聞こうとして…」


 慌てて質問すべきことを考える。でも浮かんだ言葉はまとまらずに霧散むさんし、うまく文章にならない。

 当然と言えば当然で、質問とは本来 " 得たい回答に導くための疑問 " であり、それが明確に己の中に確立しているからこそ初めて " 質問 " という形状を取れる。

 何が疑問であるかがそもそも自分の中に形作られていなければそれは質問にはなり得ない。疑問が無いのに質問が出来る訳が無いのだ。

 …ああくっそ、またこんな所でつまづくのか俺は!

 覚悟を決めた筈なのに、何よりも煮え切らない自分自身に腹が立った。焦りとイライラでとにかく叫びたくなり、もういいやとりあえず一発叫んでしまおうと大きく息を吸い込んだ瞬間───


『オゥラァ!!! ちょっとアンタ…ついてるなら、ハッキリシャッキリモッコリしなさいよっ!!!!!』

「ブフーーーー!!!?」




 が、から打ち込まれたのであった。









 (本編次話【キケンなアノコとイケナイアブナイランデヴー♥神様お願い帰りたい】に続くッ!!)






       

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る