再び、恐るべき現実

伏線と気付かれないと寂しいから、神はやたら点を打つ

       







 …寒い。ほおするどい風がでた。

 …重い。体に何かがおおかぶさっている。布団のような…ん? 布団??

 ちょっと待て、俺、どうしてこんな意識不明者みたいなシーンを…


 そして唐突とうとつに意識がクリアになっていく。


「…!!!!」


 俺はカッと目を見開くと、ガバッと起き上が…ろうとしたけど起き上がれなかった。寝姿勢ねしせいの体にめっちゃ積まれたせんべい布団のせいで。積み過ぎだろ、ミルクレープかよ。


「おお、ようやく…目覚めたのか…」


 モゾモゾする俺の動きに気付いた人物が、優しさを感じるトーンで話しかけてきた。


「…司令?」

「記憶の方は大丈夫のようだな。安心した」

「記憶…?」


 胸の奥がざわついた。あ…あばばば…


「お、やっと起きたのか! 大丈夫かレッド!?」


 ざわつく胸を蹴っ飛ばして距離感を無視したデカい声の人物が部屋に入り込んで来る。


「青沼さん…」

「そうだ、ブルーだぞ。覚えてるか?」


 回答としては完全に間違っている気がするけど、確かにこの感じは青沼さんだった。


「覚えてるか、って…それどういう…」

「まあまずは落ち着きたまえ。目覚めて急にあれこれ考えたら脳にも体にも良くない」


 司令が何とか起き上がろうとする俺をなだめる。なにこの空気。俺どうしちゃったわけ? こわい。

 すると今度は寝かされている部屋の一角のふすまがスゥーっと開き、その奥の暗い空間からヌッと誰かが現れた。


「あら、なんだ、目が覚めたじゃない」

タンペさん…?」

「もっかい眠るかコラ」

「ヒエッ」


 だってその印象が強烈すぎて一番最初に出てきたんだから自業自得じゃないか。


「あの…俺、一体…」


 自分だけが分からなくて、でも周りのみんなは知っている…っていう状況は何とも言えずおっかなかった。おずおずと問いかけた俺に、三人は目を合わせると『まあ仕方ないか…』みたいな表情でうなずき合う。


「…君は、ずっと眠り続けていたのだよ」


 …………はい?


「我々能力者の中でまれに見られる現象でもあるが、力に目覚めた者がその力と身体の最適化が間に合わず、脳が一時的にショートし昏睡こんすいおちいることがある」


 記憶の断片で、確かにような覚えがあった。


「昏睡って…俺、どれくらい…?」

?」


 タンペ改め桃井さんが、ニヤァっといやらしい笑みを浮かべて聞き返してきた。嫌な予感。

 三人をよく見ると、記憶にある服装よりもだいぶ厚着になっている。そして俺にかけられてる多すぎる布団と時折吹き抜ける強烈に冷たいすきま風…そして部屋の端には学校の教室でよく見るようなだるまストーブと、上に乗っかってスンスンと湯気を吹くのヤカン。(2話参照)


「ま…まさか…」


 心なしか体中の筋肉がギシギシする。かのように。


「あ、そういやがまだだったよな」


 あ…挨、拶?


「おお、確かに。の挨拶は大事だな」

「そうね、こういう時こそ日常を忘れちゃダメよね」

「じゃ、まずはみんなで。せーーーの、」


 えっ? えっ??


トメリーック明けましてオリアストマおめでとうリースト!!ございます


 どんだけ眠ってたんだ俺ぇぇぇぇぇぇ!!!???

 3次元パタトクカシーピラゴラスイッチが理解できた俺の頭は早くもフル回転だったようだ。


「ちょ…、メリクリにするって言ったじゃない!」

「いやいやハロウィンが先だろう日本人なら」

「それはどちらも日本発祥にほんはっしょうではない気がするのだが…」


 段取りしといてよ。


「そうじゃなくて! 俺、そんなに眠ってたんですか!?」


 確かここに来た時は10月の中頃くらい、少し肌寒くて薄手のパーカーを出したくらいの時期だった。それが…あけおめを経たという事は…2か月近く…!?

 三人は再び目を合わせ、ニヤァっとした。なにその笑み。


「大変だったんだぜ…お前のバイト先から鬼電オニデンかかって来るし」


 青沼さんがヤレヤレという手振りで言う。


「バイト!? ヤバい、無断欠勤!!」

「落ち着けって、うまい事言っておいたからよ。向こうも心配してとりあえず休職扱いにしてくれたぞ」

「うまい事、って…何て…?」

「性病になったかもしれないって」

「うまくねえええええ馬鹿ああああああ!!!!!」


 もう復職ふくしょく出来ないいいいいい!!!


「ご両親からも連絡があってな」

「ええっ!?」


 一人暮らしではあるが、俺が高卒フリーターを選択してしまったせいで進学を希望していた両親とは何となくギスギスしていた。仕送りしてもらっている訳ではないし、連絡なんてそれこそまれだったんだけど…。なんて間が悪いんだ。


「そ、それで、両親には何て…?」

「私から借金してインドに自分探しとついでにさとりも開きに行きました、と」

「こっちも馬鹿だあああああああああ!!!!」

「とても乾燥しきったからかぜのような声で笑っておられたぞ。良かったな」


 もう実家帰れないいいいいいいい!!!!


「絶望するのはまだ早いわよ!」

「早くない!!」


 満漢全席絶望フルコースだよ!!

 しかし桃井さんはねっとりとした口調で続ける。


「人間はぁ…たとえ頭が眠っていたとしてもぉ、代謝たいしゃはされるわけよねぇ。あんたが眠っている間、衰弱すいじゃくしないように栄養補給と…をしてあげたのはぁ…誰だと、お・も・う?」

「あ…ア、レ?」


 喉がゴキュッと鳴った。

 桃井さんがズイッと顔を近付けて、ドギマギする俺の耳元で妖艶ようえんささやいた。


「……し・も・の・せ・わ❤」

下関シモノセキィィィィィィィィィ!!????」

「アーーーーーッハッハッハッハッハッヤマァァァァァグチィィィィ!!!!!」(山口)


 なんでご満悦まんえつなんだよ。どSか。


「汚されちゃった…どうしよう俺…」

「まあどうせ資金調達任務で汚れるけどな」

「うっさいバカ!」


 俺はミルクレープ布団の中に引っ込んだ。










 (本編次話【妖怪と宇宙人に囲まれて助けを求めたら人外魔境まで現れた件】へ続くッ!!)






     

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