頭脳戦の様相を呈してきたのに如何せん内容がしょっぱい

           




 

(この辺りに登場する主要CAST)


赤城 (♂)… 全力で否定しつつも厨二中2展開にしっかり馴染なじんでいる順応じゅんのうスキルの高い青年。ここの女子諸君にせまられれば迫られるほど健全な青少年の欲望から遠く離れていく。詳しくは前話まで読み返して復習してたもれ。


司令 (♀)… 登場してからずいぶん経過したが、ほかの登場人物達の濃さのせいで存在感がいまいち埋もれかけている。前話でまさかの負傷。基地司令業務に誤植ごしょくレベルで支障ししょうをきたす。


青沼 (♂)… 小難しい会話になると途端にセリフが少なる兄貴。脳筋かと思われたが、意外な一面を見せてくれるかもしれない。ばーちゃんが超能力者だと信じて疑わないばーちゃんっ子。詳細は8話と9話(番外編)を読んでたもれ。


桃井 (♀)… 殺害予告とも取れる物騒な絶叫と共に現れた第三の刺客…じゃなくてメンバー。メガネのおさげのピンク髪と贅沢に属性を盛り込んでいるけど残念ながら…いや、何も言うまい…。ネタバレになるし。







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 初めて、司令の声が、研ぎ澄まされた刀のように突き刺さった。


 期待していた通りの返答であるのに、一体何が『何っ!?』だと言うのだろうか。

 ガキ丸出しの数秒前が恥ずかしさ片手に殺しに来る。

 つい視界に入ってしまった青沼さんは、腕を組んで激しくうんうんと頷き、うっすら涙を流しつつ何かを理解してくれている様子だった。なんかムカつく。

 桃井さんは『何コイツのキャラ!? ず! やっべ! ずゥッッ!!』みたいに顔真っ赤にしてっぺたちょちょふくらませて笑いをこらえていた。げっ類かよ。なんかムカつく。


「では君は何を求めてここに来たんだ? 単に疑問を解決するだけのためか? そしてだと思っているのか?」

「…」


 その通りだ。言われるまでもない事だと自分だって理解していた。けれど、そのかたわらで『実はこれはドッキリでした!』とイラっとする全否定の可能性を求めている自分もいた。まあ例えが悪いけどさ。

 全くもってなんの取柄とりえも無い無気力少子化世代の自分にそんな手の込んだドッキリなんぞ誰が仕込んでくれるというのか。

 そんな葛藤かっとうすら見抜かれているのか、司令の口調がさとすような柔らかさに変わる。


すでに君は自分が異端いたんである事を知った。元の日常には戻れない事も薄々理解していたのだろう? だからこそ、一歩前進する為に此処ここへと来た。…違うか?」

「それは…」


 ああくっそ、なんでこう素直に「そうです」って言えないんだ。母親にしかられて『ごめんなさい』がすぐに言えなかった子供の頃の記憶がぼんやりよぎる。

 その姿に何かを感じたのか、司令は微笑ほほえんだ。そう言えばヒューヒュー消えた?


「フッ、まあいい。とりあえずは君や皆の力がどのようなモノなのかを教えてあげよう」

「えっ?」


 俺は面食めんくらった。すっかり忘れていたけど…俺がこの " 力 " によって招かれたならば、ここにいる他の人も同じ経緯で集められた可能性があるという事だ。

 人柄ひとがらはあんなんだけど青沼さんだって…

 そこで急に思い出した。、不思議な現象を。

 たった数分前第5話の出来事だったのに強烈なメンタルブレイクの連続のせいで完全に吹っ飛んでいた。

 俺は思わず青沼さんの方を見る。うんうんとうっすら流していた涙はとっくに乾燥し、俺の意図が読めたのか目を薄めてニル・アドミラリ ニヒル な笑みを浮かべていた。なんかムカつく。


「では桃井君、頼む」

「嫌です」

「えええええぇぇ「えええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」ぇぇぇぇぇ!?」


 俺と司令の「A」が綺麗にハモった。

 そりゃハモるだろう、この流れでその即答は。どんだけKYですか。


「じゃ、じゃあ…青沼君…」


 司令が漫画みたいな滝ししししししししの汗を流しつつししししししししすがるような表情でまさかの人物に希望のバトンをぶん投げる。


「ハァ…。司令…、俺がそんな複雑な説明できると本当に思ってんのか? 自分ですりゃいいじゃんよ」


 希望をたくされた代打はバトンを無下むげにへし折った。

 これはあんに自分のおのうが無い事を認めているというアレだろうか。

 すると、司令はそれまでの様子が嘘であったかのように顔色が真っ青に変わり、よろめいたかと思ったら床にガクッとひざをついて荒い息を吐いた。


「えっ、ちょ、大丈夫ですか!?」


 こんなに苦しそうにするなんて…。…ッ!! まさか、これは女性特有のあの…!?

 未成年な俺は学校の授業でそれとなくソフトにふんわり教えられた情報保健体育の欠片をかき集めた。

 で、でもそれなら桃井さんの方が理解しているのでは───


「く…実はさっき、こたまほおの裏側をんでまってな…。ひょういひ正直ひゃへるの喋るのひんほいしんどい


 未成年の精一杯の性への配慮はいりょを返せ!!!!


「俺の悩みよりも口内炎ですか!」


 そりゃ確かにつらいけどさ口内炎!


「(ヒュー)桃井君…この通り…!!」


 司令が柏手かしわでを打って桃井大明神だいみょうじんおがみ倒す。そんな司令官がこの世にいてたまるかッ!

 この空間における最高権力者に拝まれた大明神は、それでもメンド臭さ全開の渋い表情で文句を垂れる。


「はぁ…。私だって暇じゃないんですよ? みんなIT弱いせいで私ばっかりモニターとにらめっこで目も頭も痛いし肩もるしお腹は減るし」


 お腹減るの関係無くない?

 そんな疑問を抱くよりも素早く、この反応を読んでいたかのように司令が切り出す。


「五………千、いや、五万でどうだ?」


 まじですか!?


「さあて新人、私が詳しく説明してあげるからよく聞きなさいよ!」


 変わり身早ッ!

 いやそりゃそうだよな。


「…と言いたい所だけど、ちょっとモニターから長時間離れ過ぎてるから作業に戻らないと」


 そう言うと桃井さんはくるっときびすを返してふすまの奥の薄暗い部屋に引っ込んでしまった。


「えっ?」

「えっ」

「えっ?」


 やっぱり後回しなの?

 残されたIT原始人達の間に微妙な空気が流れた。どうするのこの状況。

 …と不安がよぎった刹那せつな、再び桃井さんが何か色々持って登場。


「はい、こいつら渡すから」

「DVDプレーヤー? と…マイク…ですか?」


 桃井さんがよっこらせと俺に渡してきたのは、ちょっと型が古そうなPanaパナ音速sonicのDVDプレーヤーに見える機械と、無線式のカラオケマイクだった。


「ただのプレーヤーじゃないわ。その中には、私の知る情報を全て持ったが入ってる。テレビに繋いで電源ボタンで起動したらそのマイクでプログラムと会話する事が出来るから、後は全部そいつに聞いて。じゃ!」


 言いたい事を一気に吐き出すと、桃井さんは五万にひとみをキラキラ輝かせルンルン足取りで再びふすまの奥へ消えていった。


「…さすが桃井君…。こうなる事を想定してあらかじめ準備していたという訳か。抜け目無いな…」


 まさかの代打だけど自分で喋る必要がなくなった安心感からか、少し回復したように見える司令が称賛しょうさんした。

 これだけ雑な扱いをされてのこのおおらかさはむしろ凄い。


「つまり金だけ巻き上げて後は楽しようって魂胆こんたんだな」


 身もふたも無ぇ。いや全くもっておっしゃる通りですけど。


「フッ…抜かりない。五万と言ってもインドネシア・ルピアだ」

「汚えッ!!」


 え?? 初めて聞く通貨なんですけど…。


「それって日本円でいくらくらいなんですか?」

「この話が投稿される時点のレートで0.01円未満」(メタァ)

「汚えッ!!!」


 ていうかなんで青沼さんいきなりそういう知識披露ひろうするわけ。本当は頭いい人なの??


「そ、それにしても、情報収集って大変なんですね。現れて数分しか経ってないのにまた戻るなんて…余程大事な」

「ああ、ありゃだ」

「… … … はい?」


 たった三文字を理解するのにやたら時間を要した。


「情報収集つったってなんてネットでそうホイホイ見つかるモンじゃないしな。それでもまあ確かに役には立ってんだけど…。ピンクは本来の情報収集任務以外の時間はほとんどネトゲについやしてんだ」


 あの閉ざされたふすまの奥に煌々こうこうと輝く、複数のモニターに映された画面を頑張って思い出してみる。

 確か、監視カメラの映像かと思っていた画像が…あ。

 あれもしかしてゲーム画面!?


「じゃあ『戦ってるのは私だけじゃない』とか『仲間が傷つく』って言ってたのは…」

「ゲーム内でパーティ組んでる奴等の事じゃね?」


 どんな組織だよ!! 自由か!!!!

 久々の出番三話ぶりマサカズハイファミリアえた。


「彼女に任せきっている手前こう言うのもなんだが…搭載とうさいスペックが更新される度に最新のパソコンに買い替えるのはどうにかならんかな…。高くてかなわん」

「確かに。誰が資金繰りしてると思ってんだか」

「…何なんだこのグダグダっぷりは…」


 やっと話が進むかと思った矢先のカウンターバズーカで、もはや俺の膝下ひざしたはガックガクだった。

 踏みしめてる床が『合図ひとつでいつでも崩れるぜ、任せろ!』ってはげましてくれている幻すら見えてくる。絶対やめてね。


「まあそう気を落とさずにとりあえずソレDVD見ようぜ」


 …! そうだった、もうすでに忘れかけていたコレの存在をッ!

 俺はもう誰にも断る事も無く、部屋のすみにちんまりとえられた球面ブラウン管テレビの向きを裏側が見える角度に勝手にひねった。









(本編次話【妄想だと言えば何でも許されると思っている世界の中心で哀を叫ぶ】へ続くッ!)







         

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