第69話 恋人に救われるのも良いよね?




澪「だから、『』なんて考えないで下さいッ!」




 父さんは俺を庇って死んでしまった


 だから父さんが死んだのは俺のせいだ


 そう考えるのは、これからも変わらないだろう



 だが、だからといって俺は何を考えていた?


 なんて澪さんが聞いたら怒るだろうに


 悲しむだろうに



 澪さんは今まで俺にたくさん愛を向けてくれていた


 俺のさっきの言葉は、その愛を無意味だったと、無価値だったと言っていることと同義ではないのか? 


 ハッと気付かされた


 俺はとんでもないことを言ってしまったのだと




和「澪さん、ごめん。」


澪「なんで謝るんですか、、、」


和「澪さんの好意を、、、好きって気持ちを無視してたから。」


澪「、、、謝るよりも、自分を大切にして下さい。 私を含め、多くの人が和樹くんを愛してるんです。 だから、、、あんな言葉を二度と口にしないで下さい。」


和「澪さんは、、、怒ってないの?」


澪「怒ってますし、悲しいです。 和樹くんが自分を大切にしてなかったことが。」


和「、、、、、、」


澪「和樹くんのお父様も、あんな言葉を言われて嬉しいと思いますか? 私なら絶対に嬉しくないです。 お父様は和樹くんに生きてほしいから、笑顔で居てほしいから救けたんじゃないんですか!?」


和「、、、そうかも、しれない。」


澪「そうに決まってます、、、そうに違いないんです。」


 もう父さんはこの世にいないし、確かめる方法があるわけでもない


 俺の記憶にもほとんど残ってない


 でも、澪さんの言葉で気付かされた


 俺を愛してくれてたから、救けてくれたんだって


 だから、なんて父さんに対する侮辱に他ならない



和「、、、ありがとう、自分が馬鹿なこと考えてたんだって気付かせてくれて。」


澪「分かっていただけましたか?」


和「うん、父さんも、俺を愛してたから救けてくれたんだね。」


澪「そうです、、、じゃあ、お父様に言うべき言葉は分かりますよね?」


和「うん。」




和「父さん、俺を救けてくれて、改めてありがとう。

  それと、、、今まで俺が死ねばよかったなんて考えてたこと、ごめん。

  守ってくれた父さんを馬鹿にしてる言葉だった。

  でも、澪さんのおかげで気付けたから。

  父さんが守ってくれたこの命を頑張って生きるから。

  どうか、見守っててほしい。」


 これが、今の俺の想いだ





澪「、、、届いてると、良いですね。」


和「きっと届くよ。」


 死者に此岸からの言葉は届けられない


 でも、俺が想いを伝えた時に菊の花が少し揺れたのは、


 父さんからのメッセージだと、そう思いたい







和「それで澪さん、どうして此処にいるのかな?」


 俺は『付いて来てほしくない』なんて言葉を言ってしまっていた


 だから彼女が此処に居るはず無いのだが、、、


澪「、、、、、、」


和「まさか、その帽子と手に持ってるサングラスでストーキングしたなんて、言わないよね?」


澪「、、、、、、」


和「怒らないからさ、ほら、言ってごらん?」


 澪さんは耳を澄まさないと聞こえないくらいに小さい声で言った


澪「、、、ストーキングしてました、、、」


 こんな時だが、顔を赤くしてモジモジしてる澪さんを可愛いと思ってしまう



和「、、、うん、今回は説明しなかった俺も悪いし、お互い様だよ。」


 客観的に見ても今日の俺の行動は異常だった


 まして俺の一番近くにいる彼女がそう感じないわけが無いのだ


 浮気、、、とまではいかないが、不安にさせてしまったことは間違いないだろう


 これは早急に埋め合わせを行わなければ、、、



澪「、、、許してくれるんですか?」


和「勿論。 むしろ俺の方こそ不安にさせてしまったんじゃない?」


澪「、、、ほんの、少しだけ。」


 頬を赤らめながら、指を使って仕草する彼女が可愛すぎる


 さっきまでシリアスパートが続いてたし、ここはイタズラをして場を明るくしよう



和「ほんの少しだけ? 俺を心配してくれなかったんだ、、、」


 がっかりする演技をした


 すると澪さんは慌てた様子で本音を伝えてくれた


澪「そ、そんな事はないです! 浮気を疑ってて、あ、でも和樹くんを信じてて、でも心配してなかったわけではなくて、、、」


 あたふたとする彼女が可愛い


和「フフッ、冗談だよ。 ちゃんと分かってるから。」


澪「ッ! 和樹くんのイジワル、、、」


和「ごめんね。  不安にさせてしまって、ごめん。」


澪「本当です! 婚約者を放っておいて何処かへ行ってしまうなんて!」


 いつもの調子を取り戻したのか、説教をされた


和「うん、だからこの埋め合わせをしたい。 明日空いてる?」


澪「予定は入っていませんが、、、」


和「なら、明日一緒にショッピングしない? とことん付き合うよ。」


 案を出したら目をきらめかせて賛成してくれた 


澪「ありがとうございます! 一緒に楽しみましょうね!」


和「澪さんと一緒にお買い物なんて、俺も嬉しいよ。」


 明日は楽しい日になりそうだ






 帰り際、澪さんから手を繋いできた


 急に繋がれたから驚いたけど、俺は優しく握り返した



 思えば、今日も彼女に救われた


 この暖かくて優しい手に抱きしめられ、俺の誤った考えを溶かしてくれた


 正しい方向へ導いてくれた


 この恩を返すために、俺は彼女を守れるようになろう


 澪さんが困った時にはすぐに駆けつけられるように



 でも、今だけは


 俺たちが離れないように


 今だけは


 この優しい温もりを


 感じさせて








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