第68話 澪視点⑤
クッキーを食べながらお茶した後は、和樹くんはまた出掛けていきました
今日は和樹くんの様子がおかしいのです
一人で買い物に行きましたし、私が付いていくことを良しとしませんでした
浮気ではないと信じていますが、不安になることとは別です
よって、私は尾行することにしました
サングラス、縁の広い帽子を用意して跡を付け始めます
、、、これは、婚約者として必要なことなのです!
だから変態なんて責めないで下さいね!
和樹くんは何かが入った紙袋を片手に歩いています
この方向は、和樹くんの実家でしょうか?
七海さんの所へ行くのなら、私も付いて行っていいと思うのですが、、、
あ!
実家には帰らず、裏にある山に登ってます
確かここは墓地が合ったはずなのですが、、、
やはり、和樹くんは墓地に入っていきました
考えられる候補としては、親族の方々ですね
彼は一つのお墓の前に立ちました
お墓に書かれていたのは、『汐入家ノ墓』でした
やはり親族の方が眠っておられるのですね、、、
彼は慣れた手付きで紙袋から菊の花を取り出し、供えます
和樹くんがお墓に向かって何か話していますが、ここからじゃ聞こえませんね
後ろに大きく回りましょう
、、、ここなら彼の声も聞こえます
和「ーーそんなこんなで、人生初の彼女ができたんだ。 や、今は婚約者か。」
私のことを話しているようですね
何かイケナイコトをしているようでムズムズします、、、
和「ホント、俺にはもったいないくらいに素敵な人でさ。 勉強も運動もできて、何より彼女は優しいんだよ。 人の心に寄り添う力があるんだ。」
改めて褒められると嬉しいのですが、、、
盗み聞きしている分、彼の本音が聞けているので気恥ずかしいです!
和「可愛くて、カッコよくて。 時々焦っちゃうこともあるんだけど、芯があって強くてさ。 一度、父さんにも会わせてみたかったなぁ、、、」
っ!
予想はしていましたが、和樹くんのお父様があそこに、、、
和「今は澪さんの家にお邪魔してる。 秀和さんたちとも会わせてみたかった。」
、、、
和「本当に、なんで死んじゃったんだよ、父さんッ、、、」
彼は、静かに泣き始めました
見てはならないと分かっているのですが、今は彼から目を離せませんでした
和「赤ん坊の俺を庇って死んじゃうなんて、覚えてるわけないだろ、、、」
え?
和樹くんを、庇って?
そ、そんなこと、七海さんから教えてもらってません!
和「母さんから聞いた時はショックだった、、、父さんの姿も記憶にほとんど残ってなかったのに、涙が止まらなかった。」
、、、
和「ホント不思議だ。 父さんのことは覚えてないのに、『俺のせいで死んだ』なんて罪悪感だけが残って、、、」
、、、なんで
なんでそんな大事なことを話してくれなかったんですか!
私はあなたと共に歩みたいのに!
あなたの支えになりたいのに!
今すぐにでも飛び出しそうになりましたが、和樹くんは話を続けたのでなんとか踏み留まりました
和「、、、ここに来る時にさ、彼女に『付いて来てほしくない』って言っちゃったんだ。 情けない姿を見られたくなかったから、、、でも、いつかは話すよ。」
っ!
和「父さんのことも、事故のことも、包み隠さずに。 もっと彼女と仲良くなって、澪さんに相応しい男になって、いつかね。 だって、俺なんかと付き合ってくれてる彼女を愛しているから。」
もう、限界でした
彼への愛情がとどまるところを知りませんでした
私は飛び出し、和樹くんに後ろから抱きつきました
和「! だ、誰っ、、、って澪さん!? なんでここに、、、」
彼は驚いていましたが、私は構わず抱きしめ続けます
和「もしかして、聞いてた?」
澪(首を縦に振る)
和「いつから?」
澪「初めからです、、、」
和樹くんは顔を真っ赤にしていましたが、私は気にしません
私は彼に追及を始めます
澪「どうして、私に内緒にしてたんですか。」
和「、、、まだ、澪さんに知られたくなかったから。」
澪「七海さんも教えてくれませんでした、、、」
和「母さんも、そんな事を教えるわけにはいかなかったんじゃないかな。」
澪「どうして、俺のせいで死んだ、なんて考えるんですか。」
和「、、、、、、」
澪「私は、そんなに頼りになりませんか?、、、」
和「そうじゃない、けど、、、」
澪「和樹くんは、自分が死んでいればよかった、なんて考えていませんよね?」
和「、、、、、、」
澪「そんな事になったら、私との出会いは無くなってしまうんですよ?」
和「それは嫌だ! でも、、、」
澪「私は和樹くんが好きです。 愛してます。 あなたを支えたいし、あなたと共に歩んでいきたい。」
和「、、、、、、」
澪「だから、『自分が死ねばよかった』なんて考えないで下さいッ!」
私の想いも、涙も、もう限界でした
大事なことを話してくれなかった彼に怒りを
自分を大切に思っていない彼に哀しみを
それでもとまらない愛情を
触れた彼の背中を通してぶつけます
想えば想うほど、涙も止まりませんでした
なんで私に話してくれなかったのか
どうして自分が死ねばよかった、なんて考えるのか
私はあなたと共に生きていたいのに
あなたの支えになりたいのに
私が泣いている間、和樹くんは黙っていました
でも私を振りほどくことなく、私の想いを受け止めるように静かに立っていました
ただ、黙って立っていたのです
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