第28話 こっこ その8
「やっぱりカメラマンはこっこさんじゃないと」
「昨日はなかなか配信切れなくて焦ったもんね~」
今日は『碧楼閣』の改装最終日。大々的に業者が立ち寄るから、邪魔だし来なくていいと言われてしまった。落ち込むところではあるのだが、まったくもってその通りなので、貴重な休日を、カメラマンとして過ごしている。何をやってんだがって感じだが、乗りかかった船だ。最後まで漕ぐのを手伝ってあげなければ、この子たちは刺し違えそうだ。
「それにね、コメントきたの!」
自慢げに端末を見せつけてくる。昨日のアーカイブだ。
『毎日すごい! 私たちのチームも負けないからね!』
あたしが宣伝をお願いしたチームだ。つい、ニマニマしてしまう。すごいすごいと喜ぶ二人を見れば、つい絆されてしまいそうだ。
「また、太鼓を打ってみたくないか?」
頭の中でセンセーの声が聞こえた。
いやだ。いやだ。
打ちたくないわけじゃない。太鼓が嫌いなわけじゃない。
でも下手くそだから。向いていないから。これ以上に晒しものになりたくないから。
「えっ」
おーちゃんが声を上げた。画面を見れば、いつの間にか、視聴者数が千人を超えている。どうして……。
「めっちゃ注目されてるじゃん。やっぱり日々の積み重ねなんさね。何事も」
おーちゃんが能天気に言うが、そんなわけがない。今日はギャラリーもいない。そんなに注目を浴びる要素もない。なぜ。
あたしはおーちゃんから端末をひったくってページを探る。ここに理由があるはずだ。
『これが、講師が性犯罪者のチーム?』
『下手くそじゃん』
『美人ぞろいだから先生もムラムラしたのかねえ』
容赦ない、言葉の大洪水。あたしは急いで画面を閉じた。
「どうかしたの?」
「なになに?」
覗き込もうとした二人を無理矢理押しのけた。
「な、なんでもない」
あたしの顔がなんでもないことを一番に証明していた。二人は自前のスマホで何が起こっているか確認しはじめた。止めることはできない。どうせバレることだ。
「うそ……」
先生のことが晒されている。『さけ太鼓』と共に。おーちゃんの顔が青くなった。女の子は唇を噛んでなにやら思案している。
どうして。そんなの、すぐに考えれば分かることだ。逮捕された時に、実名報道されている。検索すればすぐに出てくる。宣伝してもらったことが、裏目に出たか。
「配信、どうしよう」
そのうち、おーちゃんの高校も特定されるかもしれない。女の子だって、職場に連絡が行くかもしれない。考えれば考えるほど、脂汗が浮かんでくる。
配信を止めても、コメントの勢いは止まらない。どんどん『さけ太鼓』や潮目温泉の情報が流れていく。止められないし、止まらない。
「配信に、おーちゃんはもうでないほうがいい。高校生なんだから」
「出ます。炎上商法って知ってますか? 一気に注目度が上がってる今がチャンスだと思うんです。ここで、大々的にお祭りに出ます! と言えば、委員長の志野さんも考えを改めてくれるかもしれませんよ」
女の子が信じられない、という顔をしている。未知の化け物に出会った時の顔だ。
誰だって化けの皮を持っている。いつ剥がれるか。それが人間性というものだ。
化けの皮を剥いだセンセーは、猥褻な行為に走った。
化けの皮を剥いだおーちゃんは、いっくんに対して執拗に固執していた。
化けの皮を剥いだ女の子は、メンヘラ女の子だった。
今の会長であるくそじじいの化けの皮は、未だに剥がせない。
じゃあ、あたしの皮はいつ剥げるのか。
思考しているあたしの間で、二人の言い合いは続く。
「それじゃ、おばさんは、このままみんなが叩かれっぱなしでいいって言うの?」
「それは」
女の子は顔を引き締めて言った。
「叩こう」
きっぱりと言った。
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