第21話 こっこ その1

 あたくし、こっこはモーレツに怒っていた。あたしだけじゃない。おーちゃんも、あたしと入れ違いに入ってきた子も、きっと蟻早さんだって、怒っていたに違いないのだ。こんなふざけた話があるか。

 祭りまであと少ししかないのに、いきなり「祭りは出られない。今後、『さけ太鼓』は解散するかもしれない」そんなことを聞いたら、黙ってなんていられない。あたしたちは、反旗を翻した。憎き会長と、世間と、戦うことを決意した。

 そんな様子を、蟻早さんは苦々しい顔で見ている。希釈量を間違えた青汁を飲んだ時のような顔だ。ここのところ、ずっと眉間に皺を寄せたままの蟻早さん。あたしがチームに在籍していた時から、蟻早さんはチームの裏方を務めていた。センセーの事件で、やることは山のようにあるに違いない。だけどいつも通り、仕事にも精を出している。そのスタミナは底知れない。

 あたしは、そのセンセーとやらに、数度スカウトを受けたことがある。あたしのことを『こっこちゃん』と呼び、「『さけ太鼓』に戻る気はないか?」と誘われた。あたしはその度に丁寧にお断りしたのだった。

 あたしの太鼓はチームに向いていない。それに気付いて、に辞めた。それだけの話。

時を同じくして、タイミング良く『碧楼閣』の仲居が一人空くとの話を聞いて飛びついた。ずっとずっとここで働きたかった。その夢が叶うのなら、多少楽しかった太鼓を辞めても、悔いはない。メンバーが寂しそうな顔をして見送ってくれたのが、温かく感じた。

 太鼓を辞めて、会う頻度が減った会長。それでも、わざわざ『碧楼閣』にあたしの様子を見に来てくださった。それから間もなくして、会長は息を引き取った。秋晴れの言葉がぴったりな、清々しい空の日だった。

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