[three]-第3話《白うさぎ》



「ここが不思議の国、、、」


私は正直、テレビなどで紹介されている絶景スポットなんかよりもずっと綺麗な場所だと思った。

何しろ元々綺麗なうえに空中にキラキラとした水滴のような物が浮いているのだ。


「あちこちに浮かんでる水滴みたいなあれ、触ると『お花さん』が怒るから気をつけた方がいいよ」

「『お花さん』、、、?」

「この森の花って自分たちのことをそう言うから、不思議の国の住民達はそう呼んでるの。」


そんな会話を交わしながらも、アリスは森の中を進んでいく。アリスは中々に足が早かったので、私も必死に追いかけたがさっきから全然進んでる気がしない。

さすがに疲れてきて、いつになったら止まれるのだろうと思いアリスに聞く。


「どこに向かってるの?目的地にはどのくらいで着くの?」

「私の友達、白うさぎの所。体の大きさがそのままだったら10分くらいで着くんだけど、何しろ私たち今ちっちゃいから。ねずみに乗ればもっと早く着くんだけど、、、今は周りにいないし、『お花さん』が起きるとめんどくさいんだよ?」


『お花さん』、名前は可愛いがとてもやっかいだ。

そしてちまちまと30分程歩いた頃、森を抜け『お花さん』の姿も見えなくなった頃、ある民家が見えた。


「ほら、あそこが白うさぎの家だよ」


白うさぎの家は、ピンクと白を基調とした可愛らしい雰囲気で、ドアにかかったプレートにはよく分からない文字が書かれていた。

アリスは立ち止まると、ドアの横にあるこれもまた可愛らしいベルを2回ならした。


「おお、アリス。いらっしゃい。そちらの子は?」

「こんにちは、白うさぎさん!この子は杙奈。私の友達よ。」


私達が小さくなっているせいで随分大きく見えるが、白うさぎは恐らく兎の中でも小柄な方なのだろう。その証拠に『うさぎ用』と書かれた椅子に座った白うさぎの足が床についていなかった。


「2人とも、飲んだ薬の量はいつもと同じだね?」

「うん。よろしくね、白うさぎさん。」


不思議の国の住民はみんなあの入口の事を知っているのだろうか。

白うさぎが『2人とも』と言ったところで、私も不思議の国の住民じゃない事が知られているようだった。


「さぁ、これをお食べ。」


そう言って出されたのは、お洒落な雰囲気のクッキーだった。


「このクッキーを食べると、うさぎくらいの大さまで戻るの。帰りに白うさぎさんがもう少しクッキーをくれるはずだから、それを食べると元の大きさに戻る。」


なるほど。便利だ。

早速食べようとすると、白うさぎがココアを差し出してきた。


「このココアを飲んでから、一気に食べるのをおすすめするよ」

「なんで?」


白うさぎの代わりにアリスが答える。


「このクッキー、とっても苦いから」


アリスはそう言った後に、口いっぱいにココアとクッキーを頬張った。

その瞬間、全力で顔をしかめた。

余程苦いのだろう。

思い切ってココアと共にクッキーを口に入れる。

すると、信じ難い程の苦味が押し寄せてきた。

どうやったらあの美味しそうなクッキーがこんなに苦くなるのだろうか。

必死の思いでクッキーを飲み込み、気がつくと白うさぎと同じ、、、いや、白うさぎよりも少し大きいくらいの大きさになっていた。


「お疲れ様。これが『うさぎサイズ』だよ。」


なるほど、だから白うさぎよりも少し大きいサイズになったのか。


「私とアリスは家の外で話をしてくるから杙奈はこの家を見て回ってて。いいよね?アリス?」

「もちろんよ。」


アリスと白うさぎが何の話をしようとしているのかは知りたいが、確かにうさぎの家という物に興味が無い訳では無い。


「分かった。いってらっしゃい。」


2人が家の外に出たのを確認し、階段を上る。

上った先のすぐ目の前に、白色の『白うさぎの部屋』と書かれたプレートのかけられたドアがある。

人の部屋に勝手に入るのは少し躊躇されたが、興味が勝った。

そっとドアを開ける。

部屋の中は、普通の人間と変わらないような雰囲気だった。

広さは6畳くらいだろうか、こじんまりとしているが、天井は高く屋根の部分にある窓から光が差し込んで狭苦しくはならない。

部屋の中をじっくりと眺めていると、机の上に本のようなものが開かれた状態で置かれているのを見つける。

気になって覗いてみると日付だけ右上に書かれて白紙の新しいページが開かれていた。

恐らく日記なのだろう。

どんな事が書かれているのか気になり、手に持つ。


「杙奈、何をしているんだい?」


急に聞こえてきた声にはっとする。


「白うさぎさん、ごめんなさい」

「日記はまだ読んでないね?」

「うん。開かれてたページ以外は。」

「ならいいんだ。早くリビングへ戻ろう。」


かなり焦った。

結局何が書かれていたのだろう。

リビングへ戻るとアリスがお茶を飲みながら座っていた。


「杙奈、今日はもうそろそろ帰ろうか。」

「え、なんで急に?」

「初めての不思議の国て疲れてるでしょ?それに、ちゃんと帰り方も教えとかないと。」


私的には少し物足りなかったので残念だ。


「白うさぎさん、来客用の部屋は空いてるよね?」

「ああ、今は空いてるよ」

「じゃあ貸してくれない?あと杙奈はお土産に白うさぎさんのお菓子を貰ったら?白うさぎさんの作るお菓子、とっても美味しいの。」


白うさぎに手招きされ、キッチンへ向かう。

すると、さっきのクッキーとは違う形をした

クッキーの入った袋を手渡された。


「このクッキーは美味しいから食べてみるといいよ」

「あ、、、ありがとうございます」


クッキーを受け取り、アリスに続いて再び2階へ向かう。

さっき入った白うさぎの部屋のドアを無視し、左からコの字形に回り丁度階段の裏くらいにに来た時、白うさぎの部屋とは違う雰囲気のドアがあった。


「ここが来客用の部屋だよ。」

「私たちは、この部屋を使って元の世界に戻るの。」


この部屋があの木の下の穴のような所になっているのだろうか。

アリスがドアを開け、中を見る。

すると、あったのはベット2つと小さめの机だけだった。


「この部屋をどう使えば元の世界に戻れるの、、、?」

「この部屋のベット、白うさぎさんがホテルをやってるお友達の所から譲り受けた物でほんとに早く寝れるんだよ」

「今は寝れるかどうかじゃなくてどうやって元の世界に戻るかを聞きたいんだけど、、、」


「もう、、、杙奈は鈍いなぁ、、、」


アリスは私の耳に口を近づけて囁く。


「寝る事で元の世界に戻れるの。」

「寝る事で、、、?」

「うん。正確には意識を失うことで、だけどね」


そう言うとアリスはすぐに片方のベットへ駆け寄り、靴を履いたままベットの中に潜る。


「元の世界へ持ち帰りたいものは身につけたままじゃないとこの世界に取り残されちゃうから気をつけてね」


だから靴を履いたままだったのか。

私はアリスが入ったのと反対のベットに入った。

ふと右を向くと、すやすやと眠っているアリスが見えた。

そして私にも睡魔が襲ってきて、、、

寝た。


目を覚ますとあの木の下でアリスと一緒に座っていた。

構図的に『木の下でお昼寝をしていた』というのが1番適しているだろう。


「おはよう、杙奈」

「おはよう、、、」


不思議の国は夢だったのだろうか。

そんな事を考えているとそれを見透かしたようにアリスが言う。


「夢じゃないよ。ポケットの中見てみて。」


言われた通りに見てみると、白うさぎから貰ったクッキーがあった。

不思議の国は実在するのだ。


「ねえ、明日も来ていい?」

「もちろんよ!」


そうして、私と不思議の国の物語が始まった。

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