[two.]-第2話《不思議の国》
「不思議の国へ連れてく、、、?」
今、私がここで生きているのはやはりアリスの影響だろう。
アリスの周りにある「非日常」に、私は惹かれたのだ。私はきっと、辛い日常から逃れられる非日常がほしかったのだから。
「不思議の国へ連れて貰えるなら、教えてあげる」
「、、、不思議の国に私以外の人が入れた事ないんだけど、それでもいいなら。」
少し安堵に似た喜びを覚える。
「それじゃあ、行こうか。」
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先程のカフェを出てから10分ほど経つとある豪邸に着いた。
どうやらそこがアリスの家らしい。
アリスが門の扉を開け中に入るように促す。
中に入るとそこそこ大きな庭があり、右端にはアリスが言ってたものであろう木があった。
「この木だよ」
近づくと遠目に見るよりもかなり大きいその木は、不思議な雰囲気を放っていた。
「それで、ここが入口!」
木の裏側に回って根元の方を見ると、ちょうど人1人分程度の穴がぽっかりと空いていた。
ふと、アリスが『私以外の人が入れた事がない』と言っていたのを思い出す。
「そういえば、アリスは不思議の国に誰かを連れていこうとした事あるの?」
「連れていこうっていうか、1回私の妹がここに落ちた事があったの。
そしたら不思議の国に行けずにこの木の上から落ちてきたよ。」
「それじゃあ、私が不思議の国に行けない可能性の方が高いの?」
「うーん、、、杙奈は特別だと思うよ。」
特別だ、というのはあの時計に関係するのだろう。
「もうそろそろ行ってみてもいいかな?」
「うん。杙奈が10秒経っても帰って来なかったら私もそっちへ向かうね」
軽く頷いてから穴と向き合う。
そろりと片足を入れてみると、水に足を入れたようなのにその先は空洞、という不思議な感覚を覚える。
意を決して穴に飛び込んだ。するとあの水面のような物でのくすぐったさの後に視界に飛び込んできたのは『不思議の国のアリス』に出てきたような物ではなく、冷蔵庫や掃除機、更にはスマホなどの現代の物だった。
しかし、その事に驚いているうちに穴の中に浮かんでいる物がどんどん時代を遡っている事に気づく。
そしてついに『不思議の国のアリス』で見たような景色になった時に穴の外へ出る。
落ちた先でぐしゃ、という音がしたのでびっくりし、下を見ると落ち葉や小枝が重なっていて丁度よくクッションになっていた。
こんな距離を落ちたうえで丁度良くも何もないのかもしれないが、ここは不思議の国だ。
もはや何があっても不思議には思わないだろう。
そのように考えているうちに、もう一度、私が落ちた時のようなぐしゃ、という音がした。
隣を見ると、アリスがいた。
「会えて良かった。やっぱり杙奈は特別なんだよ!それじゃあ、あっちの道に進むよ」
アリスが指さした方向にはよく見ると暗い廊下が続いていた。
少し不気味なその廊下を進むと、あるひとつの部屋に着いた。
そこには、『不思議の国のアリス』でもお馴染みの[drink me]と書かれた瓶と小さな扉がある。
「多分何となくわかると思うけどこれは体が小さくなる薬。いつもは1人分しかないけど、今日は2人分あるね。ってことは杙奈用として用意されたっぽい。」
何となく納得し、ふと気づく。
「あれ、ドアの鍵は?」
するとアリスはポケットから金色の鍵を取り出し、
「持ち歩いてるから」
と言う。
ということはとりあえずこれを飲めばなんとかなるのか。
そしてアリスは当たり前のように瓶の中の薬を飲み干す。
続いて私も飲み干すと、体がなんとも言えない不思議な感覚に包まれ、周囲のものが大きくなっているように感じる。
もちろん、自分の体が小さくなっているだけなのだが、そんなこと経験した事があるわけがない。
2人で扉の方へ歩いて行って、アリスが体と一緒に小さくなった鍵をドアの鍵穴へ差し込む。
扉を開けると、恐らく今までアリス以外の誰も見た事がないような美しい自然か広がっていた。
「ここが不思議の国!いらっしゃい、杙奈!」
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