[one.]-第1話《出会い》
例の声の主はアリスと名乗った。
ふざけているのだろうか。それとも本当にそれが本名なのだろうか。
その真実は知りえないが、たった今そのアリスと連絡先交換をさせられている。
自殺をしようとした直後にこんな状況になるとは、誰が予想しただろうか。もはやそんな人間この世に1人たりとも存在しないだろう。
私へのいじめが始まってから私の心の全てを占めていたのは「死にたい」という気持ちだった。しかし、不思議な事にその気持ちは薄れていた。
アリスの事が気になるからだろうか。
「えーと、杙奈ちゃんね?」
「うん。そっちはアリスが本名であってるの?」
「そう。赤い薔薇って書いてアリス。変な名前でしょ?」
アリス自身も変だから似合ってるのでは?とも思ったが黙っておいた。
「杙奈ちゃん、これからどっかカフェ行かない?」
今までの私が全く想像してなかった事を言われた。
いや、今生きてる事自体が想像とは違う訳だが。まぁそれはいいとしてなぜカフェへ行くのだろうか。
そう疑問を持った私の心を見透かしたようにアリスが言う。
「話したい事があるの。」
これ以上アリスに対して疑問を持つものでもないな、と思い黙ってアリスについて行く。
無言のままカフェに着き席についたところでアリスが口を開く。
「杙奈も感じたと思うけど、私って変らしいの。」
なるほどこの子は自覚済みの変人か、となる訳もなく不思議に思う。
「変って、確かに変な子だなとは思ったけど他にも何かあるの?」
「うん。なんか私って『ピーターパン症候群』らしいんだ。」
ピーターパン症候群、、、最近よく聞くあの病気だろうか。
「私ね、不思議の国のアリスに出てくる不思議の国に行けたり、白うさぎと仲良しだったりするの。」
「そう。それがどうしたの?」
『人と違う』という事は、私にとっては逆に羨ましかったりする。
いじめの原因が人に合わせすぎた結果だったからだ。
「それがどうしたの、か。やっぱり杙奈は引いたりしないんだね。」
「引くってより、羨ましいよ。人と違うって。」
正直な言葉を伝える。
「じゃあ、今から私が言うことを信じてくれる?」
「信憑性のある事だったら」
いくら羨ましいからといってさすがに信じるものには限度がある。
「あのね、私小さい頃に白うさぎさんに貰った時計をずっと持ち歩いてるの。その時計っていうのがすっごくおかしくて、正確に動いた事が1回もないの。」
アリスは一見普通の懐中時計を手に取って私に見せた。
「本題はここからなんだけど、この時計ね、杙奈が飛び降りようとしてた時に止まったの。ほんとに一瞬だけど、杙奈が私に気づいてからの3秒くらい。この時計が止まるの、初めてなの。だから杙奈に何か心当たりがないか教えて欲しくて。」
時間が止まる。そのことについては心当たりしかないというのが本音だ。
何しろ私は『初めて』時間が止まった、そう自覚したのだから。
「心当たりなら、あるよ。だけど、教えるのには一つだけ条件。」
私がアリスを初めて見た時の非日常を求めて。
「私を、その不思議の国に連れて行って。」
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