第14話 枯れ尾花

 旨そうな香り。

 開かれた窓から吹きこむ静かな風に、白いカーテンが小さく揺れている。

 ぼんやりとした意識のなかで、僕は自分の部屋のむき出しの窓のことを思った――今年こそは、あの窓に、カーテンを付けなければいけない。清潔な白いカーテンを見ていると心が和んだ。朝の柔らかい日差しが床に向って細く伸び、風の動きに合わせて形を変える。

 ベッドの上では赤坂がこちらに背を向け、タオルケットを抱え込むようにして眠っていた。枕の周りに吐しゃ物がまき散らされているといったこともなく、健康そのものの規則正しい寝息をたてている。まるできちんとパジャマを着こみ、日付が変わる前にベッドに入った人間みたいに。何もおかしなところはない。そして旨そうな香りはなおも僕の鼻腔をくすぐっていた。

 香りの発生源はドアの向うだった。廊下に設置された、コンロが一つしかないキッチンから、カタ、カタと鍋の中身をかき回す控えめな音が聞こえる。僕は立ちあがり、開けっ放しのドアまで歩いた。

 そこに幽霊の女の子が立っていた。

「おはよう」と彼女は言った。「気分はどう?すごい顔してるよ」

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