第13話 夢の話

 彼は砂を見ていた。

 褐色に濡れた人工の砂浜。

 砂がどこから持ち込まれたものであるのかは分からない。埋め立てが終わり、浜ができた頃には、彼の兄もまだ生まれてはいなかった。

 

 そこに来れば心が安らぐ、ということはない。啓示とか、インスピレーションの類が得られるとかいったこともない。もし波の中に飛び込んで、どこまでもまっすぐに泳いでいくことができたとしたら、いつかは遠い異国の地にたどり着くことができる、といったこともない。異様に長い砂州によって海は閉じられていた。砂州の向うには朝鮮半島があったが、港から出ているフェリーを使えば三時間足らずで釜山に着いた。泳ぐ必要はどこにもない。

 実際それは、みじめな浜だった。

 それでも彼はたびたび浜に来た。波の音、まるで壊れたチャイムのように鳴きつづける海猫の声を聞いていると、飽きるということがなかった。

 巨大な爬虫類の表皮を思わせる海面は、日の傾きと共に少しずつその色を変えていった。暗い色が彼の足元をひと時も休むことなく染めつづけた。

 時間が経ち、砂は褐色になった。

「ねえ」

 しなやかで細い、少女のような声が聞こえた。映像が砂浜から遠ざかる――彼が立ち上がりつつあることを僕は理解した。

 振り返るとき、スニーカーに砂が入った。

「家に帰らないの?」と幽霊の少女は言った。

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