恩は返すものって誰かが言ってた

 朝の日差しで目が覚める。いつもの爆音目覚ましの音がなく、「あれっ、目覚まし仕掛けてなかったっけ?」と思いながら体を起こす。すぐに、今俺はアヴァロン・キャッスルにいることを思い出した。

 いつもの癖でトーストを仕掛けようとしたけど、違う違うと思い出した。

「……夢とかじゃ、ないんだよなー」

 窓から見える景色はいつもと違い、同じなのは冬のくすんだ青空くらいだ。

 とりあえず着替えようと思ったが、そういや着替えも何も、爆発で吹っ飛ばされてきたからんなもんない。


 どうしようと部屋の中を見回していると、コンコンと扉がノックされた。

「おはようございます、エルテールさん。アスタロトです。入っても良いでしょうか?」

「あ、はい、どうぞ」

 なにやら荷物を片手に、アスタロトさんが入ってきた。

「おはようございます。お着替えを渡していなかったので……ブレザーはまだ修繕中ですが……」

 ブレザーの中に着ていたシャツと、シャツの上に来ていたフードの着いたジャケットがあった。流石にズボンはダメだったのか、新しい緩めの長ズボンがあった。ちなみにショートブーツも綺麗になっていた。

「あ、ありがとうございます。わざわざ……」

「いえいえ。やはり、着慣れたものの方が良いかと思いまして。夜は今ご着用なされてるものをお使いくださいな」

 着替えを受け取る。今着ている緩い服も着心地がいい。ふわふわした手触りでめちゃくちゃ気持ちいい。

「私は扉の外にいますので、着替えが終わったら呼んでくださいな」

「分かりました」

 アスタロトさんが外に出たので、とっとと着替える。

 

 前よりもしっかりとした縫いになっている。いやそれどころか、なんか色々付与されてない……?

 ところで、俺の得意なことは道具作製と陣地作成、それから魔物や霊獣の世話だ。後半は特に関係がないが、魔道具の作製では魔法効果を付与したりする。その関係で、状態に関する〈解析鑑定魔法アパラシア〉は割と得意だ。

 何が言いたいかと言うと、ちょっと好奇心で魔法、使ってみたんだ。


 うん、すごぉい!幼児の感想並みの感想しか出ないなー!

 簡単に言えば、『熱耐性、魔法耐性、物理耐性』etc。それらがかなり高位の状態で付与されていた。多分、これ着てたらマグマの中に高空からドボンしても生きてると思う。

 考えるのやめよう。とりあえず着替えよう。あ、着心地いい。


 着替えが終わったのでアスタロトさんに声をかけると、部屋へと入ってきた。

「サイズなど、どうでしょうか?」

「ピッタリです。それにしても、凄い付与ですね、これ……」

「せっかくだからと、アラクネさんが張り切ってしまいまして……かなり付与と相性が良い素材だったからと。ご迷惑でしたでしょうか?」

「あ、いえ。むしろここまでしてもらって申し訳ないというか」

 アラクネさんというのが、昨日の緑髪の女性の事だそうだ。織物や裁縫が大得意な(魔)人なのだとか。

「とりあえず、朝食も持ってきましたよ。どのくらい必要ですか?」

「あ、トースト1枚で大丈夫です……」

「おや、朝は少食なのですね。分かりました」

 アスタロトさんが軽く手を振ると、サイドテーブルの上に焼きたてのトーストと、カップに入ったミネストローネがあった。

「スープは私のおすすめでしてね。寒いですし、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 ささっと朝食を食べる。ミネストローネ、美味しかったです。めちゃくちゃ。

 食べ終わり、カップを置くと食器が消えた。魔法で厨房の方まで転送されたらしい。

「さて、エルテールさん。アダム様がお呼びですので着いてきていただけますか?」

「え?あ、はい。分かりました」

 よっこいせ、とアスタロトさんに着いていく。昨日は時間帯だったのか通った廊下のためか、あまり見なかった魔人達とすれ違う。どうも俺の方に視線を向けてくる人が多い。まあハーフと言えど人間だし……。


「アダム様、アスタロトです。エルテールさんを連れて来ましたよ」

「入ってくれ」

 と、連れられたのは少し大きめの部屋。とはいえ、少し広い以外内装は俺の泊まった部屋とあんまり変わらない。違うところと言えば、棚に飾られた水晶くらいか。コレクションなのかな。

 部屋の中で、アダムさんが待っていた。スルトさんは居ないようで。

「アスタロト、戻ってもいいぞ。とりあえず、エル、掛けてくれ」

 促され、椅子にかける。木製の椅子に留められたふかふかのクッションがいい感じだ。アスタロトさんは「それでは」と言って部屋を出ていった。


「さて、エル。君はこれからどうする?」

「えっと、これから?」

「ああ。帰るところ等はあるか?あるのならば、そこまで帰そうと思うのだが」

 考えてなかった。そっか、キャメロットの大半が消し飛ばされてしまっていることを忘れていた。

 とはいえ、帰る場所かぁ……育った施設は何年か前に解散しちゃってるし、寮は間違いなくもう消えてるし……。あれ、特にないなこれ?

「ないですね……」

「ないのか……って、やけに冷静だな。親御さんは」

「あー、えっと。俺、戦争孤児らしくてですね。施設で育ったんですよ。その施設も数年前に解散しちゃってて無いんですが」

「……すまない」

「あ、いや、別にその辺気にしてないんで大丈夫です」

 親の顔とか覚えてないしな!育ててくれた先生は故郷に帰ってるはずだし。

 心配があるとするなら、ウルトや委員長の事か。まあ、2人ともなんだかんだ逞しいし生きてる……と、思おう。

「帰る場所が無いとなると、そうだな。冒険者になるのでも良いし、この国に住むのもいい。支援はしよう」

 凄く親切にしてくれる。その提案をされて、少し考える。


 冒険者は、きっとウルト達を探し出すのに最も向いている。けども、俺には日銭を稼いで魔物を狩って、というのは向いてない。魔物の世話なら出来るけど。

 住むにしても、仕事をどうするか。というか、助けてもらった上に住むところまで用意してもらうのは、落ち着かない。

 昔先生に、「受けた恩はきちんと返すこと!」と言われたことを思い出す。


「あの……えっと、俺、なにか手伝えることとかありませんか?」

「?」

「いやその、命を助けて貰った上で何も返さないのもなって……」

「ふむ」

 アダムさんは少しの間、考える素振りを見せた。

「適正……は鑑定を受ける前に飛ばされたのだったな。得意な事などはあるか?」

「一応、道具作製と陣地作成、あと魔物とか霊獣の世話あたりなら……?」

「ほう」

 アダムさんは、何かを思いついたと言わんばかりの表情をした。それならば、と。


「ならば、鏡氷の魔王軍ウチの魔物牧場で働いてもらいたい」

「魔物牧場?」

 コクリと頷かれ、アダムさんは話し始めた。

 曰く、戦力の強化だかなんだかで魔物を飼育しようとしているのだが、飼育出来るような人物が居なくて困っていたらしい。


「って言われても、俺もどこまでできるかは分からないですが……」

「とりあえず、やってみてくれ。頼めるだろうか?」


 まあ、助けてもらった恩がある。命の恩人みたいなものだし、やれることならやりたいし、引き受けるしかないと思った。


「分かりました、やってみます」

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