お世話になります

 ───『魔王』。

 魔人の中でもとにかく強いチカラを持つ者達のこと。魔王は現在8名おり、その大半が己の国を持っている。

 うち、魔王・アダム……通称、"鏡氷の魔王スフィーレ・ゲイズ"は、魔王の中でも一二を争う程の実力者と言われている。


 魔王アダムの治める国はアヴァロンと言い、この大陸で3番目に大きな国だ。ちなみにキャメロットは4番だったりする。

 大陸のおよそ北東に位置し、キャメロットからは移動や転移の魔法を駆使したとしても、通常なら少なくとも4日はかかる距離にある。どうも、凄い勢いでかなりの早さ、更に結構な長時間ぶっ飛ばされていたらしい。


 と、考えているうちに視界がひらけた。直接城の中に飛んだのか、石造りの壁に囲まれた部屋に出ていた。

「到着だ。ようこそ、我らが城アヴァロン・キャッスルへ。とはいえ、ここは地下だが」

「とりあえず、お部屋とお食事を用意しなければなりませんね。私は先に行ってますね」

 そう言って、アスタロトさんが消えた。多分短距離の転移魔法か何かだと思う。多分。

「っひゃー、帰ってきた帰ってきた!エルだったよな?アスタロトが呼びに来るまでオレと話そうぜ!」

 スルトさんが後ろから抱きしめてきた。あの、痛いというかあたってるというか、ちょっと力が強すぎるというか、その!

「いててててて?!」

「スルト、落ち着け。竜人と人間の基本のパワー差が大きいのは知ってるだろう」

「あ、そうだった!だいじょーぶか?!」

「あっはい、ダイジョウブです……」

 慌てて力を緩められるが、抱き締められている状態なのは変わらなかった。どうして。

「……スルト、それだとエルが歩けないぞ。離してやれ」

「え〜?アダム様が言うなら、分かったよ……あっでも!待ってる間話すのはいいよな?」

「私はいい。というか、寧ろ私も話をしたいが、本人から許可を取るべきだ」

 そう言われてスルトさんは俺の方に、何故かキラキラした眼差しを向けてきた。

「いいですけど、俺、極々一般人なんで面白い話とかは多分出来ないですよ?」

「いよっしゃあ!んじゃ、行こーぜ!」

「何処に?!」

 ぱっと離されたかと思えば、今度は手首を掴まれて引っ張られる。



 そうやって連れてこられたのが、客間……と言うよりかは、リビングっぽい感じの部屋。ソファと椅子があり、棚にお菓子が沢山置いてある。

 そこのソファに座らされ、隣にスルトさん、それから正面の椅子にアダムさんが座る形になった。三者面談感が半端ない。俺、戦争孤児らしいから親とか知らないけどね!親代わりの『先生』はいたけど。


 いや、今それはいいんだ。俺の身の上話とかやってるタイミングじゃない。置いておこう。

 いつの間にかやって来ていた緑髪の女性が淹れてくれた紅茶(品種とかはよく知らない)とケーキ(チーズのケーキだそう)を出してくれた。おそるおそる食べてみると美味しかった。すると、どうしてかスルトさんが「オレのも半分やる!」って言って半分くれた。遠慮しようとしたけど「いーから!」って言われたのでお言葉に甘えた。


 少しの間、ケーキを味わい、食べ終わる頃にアダムさんがきりだした。緑髪の女性は少し後ろに控えている。

「さて……改めて、だ。エル、君の現状を確認しよう」

 そう言って、アダムさんはテーブルの上に大きめの羊皮紙?布?のようなものを広げた。何やらアダムさんが魔法を使うと、そこになにかの絵と文字が浮かぶ。

「これは?」

「この大陸の地図と、先程受けた報告とを纏めたものだ」

 アダムさんが指さしながら、「ここが今いるアヴァロン城」「こっちがキャメロット」と教えてくれた。こういう地形とか記したのって機密なんじゃ……?と、ウルトが昔なんか言ってたのを思い出した。実際、地図とか初めて見た。

「それで、だ。エル。君は、職業ジョブ適正の鑑定を受けようとしていて、その為に来た賢者によって爆破され、そのまま飛ばされた……というところだな?」

「はい、多分。ちょっと記憶飛んでるんであやふやですけど……」

「その時使われた魔法は分かるか?」

「えっと……」

 なんか、魔法名を呟くのを聞いた気がする。確か、緑色の雷みたいな予兆があって、ケ、け、けら───

「け、らう……」

「……もしや、〈雷帝の矢ケラウノス〉か?」

 あ、そうそうそれそれ!ケラウノスとかいうやつ!それを肯定すると、アダムさんはなんとも言えない表情をした。それから、深刻そうな真剣そうな声で。



「落ち着いて聞いてくれ。……キャメロットのほとんどが、おそらく〈雷帝の矢ケラウノス〉によって消された」

「はい?」

 どういうことかとよく分からず、変な声が出た。いや、キャメロット消されたとかどういうこと?と、混乱しかけたのを気合いで乗り切る。

「言葉の通りだ。キャメロット国の役8割、雷系統の魔力反応を残して焼き消えている」

「はぁ……」

 あまりにも衝撃的なことなのだけど、一周してとても冷静になっている。人間、強すぎる衝撃を受けるとすっげースンッ、となるんだなあとか思った。

「魔法学校にいた生徒達の行方は分からない。キャメロットは、所謂辺境にあたる村等を残して他は全滅、といった様子だそうだ」

「って、そうだ!アイツらは大丈夫かな……」

「アイツら?」

 ウルトとか委員長とか、大丈夫だろうか。特に委員長は爆心地の超近くに居たし……いや、爆心地に居たのは俺もウルトも同じだ。あれ?じゃあなんで俺は致命傷(?)で済んでいたんだ……?

 とにかく、アダムさんとスルトさんが首を傾げているので説明しよう。


「俺の友人達で、えっと……ウルト・アーサーっていう金髪の男の奴と、ミルラ・クラウィードっていう黒髪の女の子がいて……」

「ほう」

「ウルトが鑑定を受けて、その直後委員ちょ……ミルラが鑑定を受けようとしてる時に爆破されたんです」

 そういえば、ウルトが『勇者ブレイブ』の適正があるとか言ってたなとか思い出した。それが口に出ていたのか、アダムさんが何やら考え込んでいた。


 すると、緑髪の女性が突然動いた。

「……皆様、お食事の準備が出来ましたようです」

「そうだな……先に、食事といこうか。腹が減っていては上手く思考出来ないからな」

 そう言ってアダムさんは立ち上がる。慌てて俺も紅茶を飲み干して立ち上がる。そのまま、案内されるままについて行く。



 通された部屋で、出されたのは美味しそうな料理だった。見たことないやつが多いのだけど、うちひとつは、前にウルトが作ってくれた「ミソシル」とか言うやつに似ていた。味はちょっと違ったけど。

 スプーンとフォークを使って食べていく。アダムさんは器用にも、2本の棒を使って食べている。確か、「ハシ」とかいうカトラリーだったか。ウルトが好んで使っていたから、使い方自体は知ってる。


 ミソシル以外は、魚の身をほぐして味付けしたものをのせたライス、芋とか野菜と肉を煮たもの、干したラディッシュのサラダ。知らない料理だなぁと思っていると、スルトさんが。

「こっちがニクジャガで、これはキリボシラディッシュ!どれもうまいぜ!……オレはカツの方が好きだけど」

 話を聞くと、「極東の島国の魔王から教えてもらった料理」らしく、アダムさんが凄く気に入って!レシピを持ち帰って来たそうだ。確かにこれは美味しい。


 ひと通り食べ終わる。美味しかった。その後、「今日は遅いから」ということで案内された部屋で寝ることにした。服がボロボロになっていたので、借りた。ブレザーとか着ていたものとかは直してくれるとかなんとか。


 帰る場所ねーなーとか、アイツら大丈夫かなとか、寝る前になって色々と考えはじめてしまったので、さっさと寝ることにした。

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