第2話
職員室は暑すぎるといつも思う。廊下と比べれば暖かいけど、頭がもやもやするので、だったら廊下の方がいい。もっとも今もやもやしてるのは温度のせいだけじゃない。
顧問は老眼らしく、顔を遠ざけて退部届けを見、すがめた目のまま私を見る。
「どうして辞めたいの?」
「バスケが、できないからです」
「どういう意味?」
「コートに行くと、体が動かないんです。パスとか、ドリブルとか、思うようにできないので」
そろそろ1ヶ月だった。
「それはスランプ?怪我?」
「怪我じゃないです。スランプかどうかは、わかりませんけど」
顧問はよくわからないという顔をした。正直私だってわかっていない。でも何もできないなら、部活に私がいる意味ないんじゃないかと思った。ボール出しとか手伝えばいいって思ったけど、それはマネージャーの仕事だった。それでも何かチームメイトの助けになるようなことをしろって、退部届けは受理されなかった。正論だ。失礼しましたと言って職員室を出た。
寒い。上履きの裏から駆け上がってくるような冷たさ。教室のざわめきが反射して反射して反射した、みたいなざわめきがそこいらに漂っている。クラスには戻りたくなかった。図書室。教室か体育館以外で逃げ込めるのなんて、図書室くらいだ。それかトイレ。
階段を上がって、図書室の扉を開ける。ここは暑くも寒くもない。
適当に本棚を通り抜けると、マネキンが座っている。またいる。
彼女はいつも分厚い本を読んでいる。正しい姿勢ときっちり編み込んだおさげ、白磁みたいな肌。なんか嘘くさい、陶器の人形みたいに見えて、最初見かけた時なんとなくマネキンとあだ名をつけた。
マネキンは毎日本を広げてはいるものの、読み進めているわけではないようだった。たまに少し顔を上げて、考え事をするような目をしている。
私はといえば、ベストセラー本のページを、ぱらぱら捲るばかりだった。
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