だいじょぶそ?

 居酒屋でのインタビュー。27歳男性。会社員。趣味は競技プログラミング、ギター。好きなものはコーヒー、子供向けおもちゃ。

「おれはなー、あてのない旅に出てる感じやねん」

「なんそれ」

「いや大学の時にな、航空券のチケットとiPhoneだけ持って毎年一ヶ月ぐらい海外旅行に出かける友達おって、そいつのことうらやましいなー思ってたんやけど、考えてみたらいまおれは人間関係で旅に出てるなと思って。いやとりあえず口にしてみて思ったんやけどな」

(あっ、この話おもしろくないやつだ!)「なるほど」

「色んな人と美味しいもの食べたりすごい景色見たりしながら色々会話して仲良くなってっていうのを場所を替えつつやってるねん」

「そのー、誠実さ? 保ててる? だいじょぶそ?」

「おれは誠実やで。おれほど誠実なやつもなかなかおらんと思う。付き合いたい時は付き合いたいって言うし、別れたい時は別れたいってはっきり言うし」

「具体的なエピソード聞こか」

「あれは二年前かな、いやちゃうわ去年の正月に友達とガールズバー行ってな。そこにいた子が高卒でガールズバーで働きながら大学の学費貯めてた子やったねんけど、仲良くなってLINE交換して、付き合ってっていうのを三日でやってん。はやない?」

「それが旅人のスピード感やと」

「結局三ヶ月で別れたんやけどその三ヶ月がなかなか濃密でな。その子は全然男とか知らんかったからおれが一から丁寧に教えてあげたんよ。ほんまに丁寧やった」

「ははっ」

「ガールズバーって言っても普通にいい感じの雰囲気のとこで内装とかもよかったし接客もめっちゃよくてその子も人当たりものっそいよかってん。まああれはガールズバー関係なく元々性格よかったんやな。おれ大学の時カウンセリングとか齧ってたから人から秘密を聞き出すのは上手くて割と深入りしたんよ。トラウマとか。それで結果その子のメンタルとか色々よくなって、いいことしたわ」

(はー。あ、一応聞いとくか)「なんで別れたん?」

「あ、それは単純におれが忙しくなって向こうが病んで別れたいって言ってきたから」

「え、名残惜しくなかったん?」

「そら名残惜しかったけど、向こうもまだ若いし、こっちも結婚したり長く付き合ったりするつもりは元々なかったわけやから、他にも遊んでみたかったし」

「いまいち納得できんな」

「いやーなんていうかな。これはおれが悪いんやけど、仕事中にLINEが40件ぐらい溜まってるとこっちが病みそうになるっていうか。向こうにそういうのやめてって言ったんやけど全然あかんかったから」

「ま、そういうこともあるわな」

「でも、なんかインスタで近況見てると普通に元気そうやから今度暇な時に会ってみようかなと思ってる。『旅人は同じ場所を二度訪れる』と」

「そんな格言はない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る