僕が全部書くよ

 バーでのインタビュー。25歳女性。観劇を趣味とするオタク。好きなものは不倫ものの恋愛ドラマ、ダンスミュージック。

 インタビューの中盤にこんなことを言い出した。

「そういえば面白いネタありますよ」

「なんそれ」

「性体験はないって言いましたけど襲われたことはあります」

「……聞いてもいい?」

「大丈夫です。高校の頃の同級生の男の子で大学に入ってからも連絡取り合ってた人なんですが、一度私の所に遊びに来ることがあって、飲むことになったんですよ。それで一軒目で飲んで二軒目に行って解散しようかと思った時に、向こうが帰りたくないから家に行っていい? って言ってきたんですよ。あ、違うな。寒いから家で暖まっていい? って聞いてきたんだ。寒いのかわいそうだなと思って家に上げて、床に寝床を用意してあげて電気を消して寝ました。そうすると床寒いから隣で寝ていい? って聞いてきたので、床寒いのかかわいそうだなと思ってうんって答えました。布団の中に入ってきてしばらくすると後ろから抱きついてこられて完全に身体が硬直しました。そんなつもりではなかったんですよ。こう、体を移動させてキスしてきて、私はめっちゃ色々考えたんですよ。向こうとの人間関係があるし、ここで断ってこれから連絡取れなくなるの嫌だなとか、逆に断ることで陰口叩かれたり嫌がらせされたりしたら嫌だなとか、今までの信頼関係だと思ってたのは全部このためだったのかと思うとなんだこいつと思って。そう一番はムカついたんですよ。まじでムカつきました。でも言えなくて。キス初めてだったので、これはこれで何かに経験になるかと思って、あの推しがドラマでキスしてる時の気持ちとかわかるようになるかなと思って。耐えてましたけど気持ち悪かったです。そのあとやめてって言いましたけど無理矢理されて最後までいきました。その日以降も普通に向こうから遊びの連絡くるんですよ。こいつ何考えてるんだろうと思ってもう返信できないです。ひどくないですか」

「…………まず、話してくれてありがとう。このことは誰かに言った?」

「言ってないです。なんか仲良い女友達にも言えなくて。なんでですかね」

「つまり家に上げた時点で男は性的合意が取れたものと勘違いしたけど、あなたは全然そうは思ってなかったと」

「はい、そうです。信頼してたし家で遊ぶぐらいなら全然すると思って。合意はしてないです」

「レイプだね」

「レイプです」

「この体験を聞かせてもらえたのは僕との信頼関係があってのものだと思う。ありがとう」

「こちらこそ人に言えてよかったです」

「……実は今まで十人の女性にインタビューして、内六人がレイプの被害があると告白してくれた。痴漢も含めると九人が性被害に遭っていた。いや残りの一人も僕に言えなかっただけで被害に遭ってるかもしれない。僕は知らなかった。その実態を」

「まあ男性は意識しなくても済むかもしれませんね」

「そう。その通り。被害者に共通するのが、知り合いにレイプされたという人が多くて、その後誰にも相談できないというパターンが多かった」

「まさに私はそうですね」

「本当にひどい。この話は、どう言ったらいいかな、僕の男友達だってどこかでレイプしてるかもしれないと思うと、まったく他人事ではない。もちろん女友達のことも」

「そうですよね。真面目ですね」

「大真面目ですよ。僕が全部書くよ。責任がある」

「ありがとうございます」

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