また別のお話
「ということは最近の君はある種の実験として小説を書いているということかい?」
「うまく言えない。でも読んでほしいんやと思う」
「誰に?」
「同じような色をした魂を持つ人が実在する。その人たちに」
「知り合いに向けて書いているという訳ではないのだね。君の人柄を考えると、それもそうかもしれない。しかし、これじゃ届かないよ」
「わかってる。頑張る」
「頑張れ。頑張れ」
「どう思った? 小説」
「実験を見せてもらえてとてもためになったよ。僕の計画にもある程度影響を与えるかもしれない」
「計画?」
「それは恋愛と関係ないから。また別のお話」
「なんだそれ」
「人類は危機に晒されている。僕は人類を救うために立つ」
「……相変わらずやね」
「君の次回作にすればいい。取材してくれよ」
「インタビューね。恋愛は?」
「僕は恋愛をしない」
元ノ宮愛との会合はつつがなく終わった。愛曰く、四十九回目の会合だったらしい。愛が言うからには本当なのだろう。
愛は僕が人生で出会った中で一番奇妙な人かもしれない。浮世離れしている。苦労を知らない。暗い情熱を持つ。走らず焦らない。宗教の教祖をしている。
そう、愛は宗教の教祖をしている。愛が高校で作ったサークルから始まった人間関係は、愛を崇拝する一種の教団となった。僕もかつてそこに所属していたことがある。
「君がへぼたいようだね。変わった名前だけど、僕は好きだ」
「ありがとう」
「元ノ宮愛。君の小説の主人公にしてよ」
「ええよ。面白そうや」
取材のためにサークル、教団に入った。僕の理想だった片想い相手ともそこで出会った。青春を活動に捧げた。世界を変革する、とても充実感のある日々だった。
でももう終わった話だ。ここでは語らない。次の話にするよ。だいじょうぶ。話す時間ならある。
恋愛小説は常に外部へと開かれている。どこへでも行ける。
そこから帰ってこれた。ホーム。ただいま。
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