うひゃひゃひゃひゃ

 友人が登場する。男性、二十六歳、会社員。ポリさんと呼ばれている。名前の由来は彼がドイツに行った時に買ったTシャツに書かれたPOLIZEI(警察)という単語だ。

「俺はへぼさんの小説の読者をやってるよ」

「うへへ。ポリさん感想どうですか」

「いや……前半があまりにもへぼさん過ぎて」

「あー。それか。いやなんというかね、どこから説明しようかな。まず私小説とはなにかって話なんだけど、僕もあんま詳しくないしな。とりあえず言えることは、これはフィクションなんですよ。存在しない人物たちについて書かれた物語であって、実在するへぼたいようと、小説の『僕』ないし『私』は関係がないんです」

「そうか……へぼさんが喋ってるようにしか思えなかったから……」

「僕の取ってる戦略の一つが成功したということだよね。つまり、小説の主人公をへぼだと思わせたら僕の友達は興味持ってくれるやん? 読者を増やすことが僕の目標だからそれは正しい。小説の途中でインタビューの募集なんかを挿入したのも同じ理由で、リアリティとフィクションをごちゃごちゃにして読者の認知をバグらせたかった。あと語り口の問題というのは常にあって、僕は小説においても僕のようにしか語れないという、文体における選択肢の少なさがある」

「なるほど」

「サイゼリヤパートめっちゃ面白かったと思うんやけど、どうやった!?」

「最高でしたよ。あの喋ってる相手というのは──(知り合いの名前を挙げる)──にインタビューしたという?」

「いや、いや、サイゼリヤパートの執筆にあたっては誰にもインタビューしてない。百パーセント僕の妄想で作った会話。しかし、そうか(知り合いの名前)か」

「これも語り口の問題だと思うんだけど」

「もうネタはバラしていくか。語り口を生み出す時に(知り合いの名前)を大いに参考したよ。まったく。でも中身は僕の妄想だから。(知り合いの名前)がこれを読んだ時の反応がこわい」

「それはこわいですね」

「こういうのってどういう問題になるんですかね。やっぱりシンプルにモデルにされて怒るとかかな。やばいなー聞きたくねえなー」

「その、俺の立場としてへぼさんと(知り合いの名前)の共通の友達だから、小説を平静な気持ちで読めないというか。まったく第三者の立場から読んでれば世界が違った」

「悪いことしたね」

「俺は誰よりこの小説楽しんでるよ」

「じゃあ明日はポリさんは小説に出そうかな」

「あっははははははは」

「うひゃひゃひゃひゃ」

「小説に出んの俺」

「もうネタが全然なくて毎日大変なんですよ。書く時に昨日何あったかなーと思い返すところから始まってるから、使えるものはなんでも使うから」

「俺、存在しないキャラクターになるの」

「存在しなくなるねえ」

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