ふーんって感じ

「サイゼリヤの描写が薄いのではないか」とかつて出版社で編集を経験したこともある友人が言う。「音が一枚の絵になって聞こえる」というのも、どのような絵なのか具体的に説明しないと比喩として成立していないのではないかと。

「確かに」

「そもそも構想からして不明瞭だから、いっそ前半の独白パートはそのまま後ろに持ってきてサイゼリヤパートから始めた方が読みやすいのでは」

「いやそれは一応そうなる必然的な理由があって。というのも、えー、最初にひとりよがりの片思いについて分量を割いておけば、それを読んだ読者に『この程度自己開示できる人ならインタビュー受けてもいいかも』と思わせたいという戦略がある、あったんですよ」

「まあ連載時の戦略は理解するが編集し直した時には関係ないよね」

「まあ」

「実際私小説なの? これ」

「それは企業秘密なんですねえ」

「まあほぼ言ってるようなものか」

「いや徹頭徹尾フィクションとして作り込んでますよ。主人公も含めて存在しない人物だなーと」

「それならもっとこう濃いキャラクターというか設定ぐらいはあった方が」

「設定とか描写とかそもそも苦手なんですよね……なんで書いてるのかわかんないけど。とにかく文体とグルーヴがあればそれでいい」

「文体はなんかやってるなとは思う」

「描写とかキャラクターに関してはもう勝てないなっていう領域の人たちが見えてるんよね既に。卑屈になっても仕方がないから今自分の手元にあるものだけで勝負したい」

「そもそもどこを目指してるの?」

「そりゃもう……ビッグになりたい」

「ふーんって感じ」

「前半の独白パートはもう少しポップにした方がいいかもね一般ウケとか考え出すと」

「ポップというか、まあいいか。メタレベルで作り込むのもやられてるんじゃないの。筒井康隆とか」

「まあまんま朝のガスパールだなと思いながらやったり」

「影響を受けてるであろう現代詩とかはよくわかんない」

「現代詩はどうかな。最近読んだものに影響を受けやすくて高橋源一郎のさようなら、ギャングたちと笙野頼子。あとやっぱり村上春樹とエヴァ」

「そこらへんの領域もやっぱりわかりやすく仕上げてるじゃん」

「さようなら、ギャングたちはどうかな……風の歌を聴けも当時は読みづらかっただろうし。まあとにかく先達に勝ちたいし、同時代人にも勝ちたいんですよ。そのための武器がインタビューです」

「インタビューで人間関係が破壊されないことを祈ってるよ」

「ありがとうございます。祈ってください」

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