すいません面白い話じゃなくて
「服のセンスと話し方がおかしい彼氏と別れようと思ったと。どんな感じですか」
「別に服がおかしいから別れようと思ってるわけじゃないですけど。例えば私がすごいオタクなことを熱を込めて語ってる時に一切相槌打ってくれないんですよ。全部喋り終わった後に私の一割のぐらいの熱量で『すごかった』しか言ってくれんっていうことがよくあって」
「あーそれはちょっとさみしいかも。その熱量の差はよく感じる?」
「向こうがめちゃくちゃ私のこと好きで構ってくれるんですけどなんか、私と同じものを見てくれないのでこのズレはなんなんやろうとモヤモヤしますね」
「まあ顔がいいからね。そういうこともあるでしょう」
顔が美しい。
「ありがとうございます」と愛想笑い。
水を飲む。
「セックスはします?」
「気分がそういう気分だったらしますよ。向こうはずっとやりたいみたいです」
「そういう視線で常に見られることは嫌じゃない?」
「別に真剣だったらいいかなと思います」
「真剣さか」
「うん」
「聞いてるとあなた、割と受動的でありつつ求めるものは求めるみたいなパーソナリティですね。まあ普通なのかな」
「普通ですよ」
「これまで積極的に自分からこの人と結ばれないと死ぬ! ぐらいの切実さで相手を求めた経験ってありますか? 片思いでも」
「えーどうやろ。もう忘れました」
「結構僕にとっては大事なポイントなんやけど」
「死ぬとはまでは考えてないかもしれないけど毎回付き合う前はかなり本気ですよ。で今気付いたんですけど私、付き合うまでがゴールというか、付き合ってからのゴールがないんですよね」
「あーゴールの位置。付き合えたら燃え尽きてしまう的な?」
「そうなんですよ」
「遭難ですか」
「あ、全然デザートとか食べたかったら」
「ドリンクでいいです。ダイエット中なんで」
「ああそうですか」
「……」
「セックスの話は興味深くて色々深入りして聞いてみたいんですがいいですか」
「サイゼでするのはどうかと思いますけど」
「まあ別に周りも聞いてないって」
音は一枚の絵になっている。
「これは普通に失礼な質問なんですけど浮気ってしたことあります?」
「あります」
「ほう!」
「二回だけ」
「おお! おお!」
「一回は大学の時にバイト先の先輩が卒業する時に送別会の後、二人で帰ることがあって先輩が最後に飲もうよって言ってきて教育係とかやってくれた人やったしまあ奢ってもらえるならいいかと思ってそれで行って二軒目の後に誘われてホテルに行ってました。それから連絡取ってないです」
「へえー。その時の心境とは」
「まあちょっとかっこいいかなと思ってた人やったし奢ってもらえたから別にいいかーと思って」
「なるほど」
「酔ってたからあんま覚えてないんですよね。すいません面白い話じゃなくて」
「いや! いや! 十分ですよもう。いやもっと聞きたいかもな。いやー楽しいな」
「楽しいならよかったです」
「後は高校の時に付き合ってた彼氏がいたんですけど、当時私が恋愛小説を書いてて」
「えっ」
「それで書いたものを見せたらボロクソに言われたんですよ。当時はそれで自分の才能のなさに絶望してめちゃくちゃ落ち込みました。たぶん今読んでもひどいんだと思うんですけどとにかく彼氏にもう会いたくなくて」
「おお……」
「その時期にすごい私のことを恋愛とか小説とかを応援してくれてる同級生の女の子がいて、めっちゃかわいかったんですけど、そのボロクソ言われたタイミングで家に行ったらなんか私の横に座ってきて足とか耳とか触り出して」
「ほ」
「『キスしていい?』って聞かれたから『いいよ』って答えて。その後服脱いで身体を舐め合って夕方まで一緒に寝ました」
「ふむー。それまでそういう気配はなかったわけ?」
「いや私のこと好きなんやろうなとは思ってましたけどキスしたいっていうのだとは思ってませんでした」
「はー。嫌じゃなかった?」
「嫌ではなかったですよ」
「はー。まあでもここでもある意味受動的だったというか」
「言われてみたらそうですね」
「恋愛小説はその後?」
「書いてないですよ。なんか書くほどのものは自分にないなと思って」
「いやあ話聞いてみたら一通り色々経験してて面白そうやから書いてくれたら読むけどなあ」
「ほんとですか」
「タイトルは『どないやねん』でどう?
なんですかそれ。
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