インタビューは続く

 音は一枚の絵になって聞こえる。絵の中で遠い近いは感じられるが、結局は同一の支持体の上に乗せられた表現であり、すべてを明晰に位置付けることは難しい。

 高い話し声、低い声、咳払い、鼻を啜る音、咀嚼音、食器同士がぶつかる音、いらっしゃいませー何名様でいらっしゃいますか、店外から響くパトカーのサイレン音、ご注文お決まりでしょうか。この店の音は一つの絵として掲げられている。天使の絵が目に入る。二つの絵に同時に吸い込まれていく。天国もこのぐらい騒がしいのだろうか。

 彼女の頼んだ料理にも自分の頼んだ料理にも興味が持てない。食に悦びを感じづらいタチなのだ。

 机の上に置かれた彼女のiPhoneを見る。古い機種だが画面は割れておらず綺麗に使用されている。

 彼女の顔を見る。綺麗に化粧されているということはわかるが、どのように美しいのか説明できない。料理とは違い、関心は持っているが、まさか天使の絵やiPhoneと比較するわけにもいかない。描かれた絵は一日ごとに見た目が変わるということは少ないが、化粧された顔は実際に変化し続ける。写真ではない顔について語るのは川の流れを一言で説明するようなものだ。気の利いた熟語の一つでも知っていれば言い表せるのだが。

 この十年間で美しい顔をたくさん見た。醜いと思う顔はほとんどなかったと思うが、数少ない体験も思い出すことはできない。美しい顔を見た、ということが私の誇るべき点かもしれない。

 十年間何をやっていたのだろう。定職に就いていないと、地面に繋がる根がないとしか思えず、いまだ空中を浮遊する気分だ。最近は空中を浮遊する都市、ということにしている。次の十年は空中から地上を襲うインテリが僕だ。開き直ればいいというものではない。

 音、絵、iPhone、顔、十年。他にサイゼリヤについて何を描写する必要がある?

 メニューの金額の適正性についてとか?

 インタビューは続く。

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