いやもう最近別れようかな思ってて
「私紅茶淹れてきますね」
彼女が席を立ち、ドリンクバーのコーナーに行き、ティーカップにティーバッグを入れお湯を注ぐ。ソーサーの上にティーカップを載せて彼女が席に戻る。
「まず今日のテンションなんですが、自分のテンション最高マックスの日を百とするなら今日はどのぐらいですか?」
「えー、まあ、六十ぐらいですかね?」
「なるほど。ありがとうございます。じゃあ僕も六十ぐらいで調整していきます。では、最初におうかがいしたいのは、今の交際状況なんですが、今お付き合いしてる方っていらっしゃいますか」
「いますよ」
「それはいつ頃から?」
「今年の春です」
「あなたのセクシャリティとお付き合いされてる方のセクシャリティやなんかについて後ほどおうかがいしたいんですが、まあそれは後で、あとまあ話せる範囲でいいので。はい。お付き合いされてるのは職場の方?」
「そうです。同期で何回か食事行ったりして」
「いいですね。馴れ初めで進めていきますか。イメージを掴みたいので、大体どんな感じの人ですか。一言で」
「まあ、変わった人ですよ。なんか服のセンスとか話し方とかおかしいし」
「おー」
「……」
「変わった人だけど、なにか響くものが、いいところがあって付き合ってみようかなって?」
「いやもう最近別れようかな思ってて」
「あー……まあまあ、そういうこともあるだろうと思って、大丈夫、想定の範囲内ですよ! しかしそうかー……じゃあやっぱりあなたにとっては虚無いインタビューだったというか」
「別にそんなことないですよ。なんか他人の恋愛について噂で聞いた話しゃべるのと大して変わらないっていうか。もはや」
「なるほど。ちなみに別れようと思った理由についておうかがいしても?」
「元々向こうがこっちを一方的に好きみたいな感じやったんですけど、付き合いたいって言われてまあいいか、みたいな感じで、でもなんかこっちからなんか一緒にしたいなと思えなくて。別にいい人なんですけど」
「はいはい」
「自分の時間もなくなるし」
「うーん。どうですか実際別れようってなったらどういう手続き、手続き? っていうか、まあ具体的にどうするのか」
「話があるって言ってストレートに言った後は、引き留めみたいなのあると思うから、それを適当にいなしてって感じですかね。なんなら引き留められてもいいかなと思うし。なんでもトラウマになるのが嫌なんですよ。きれいに」
「なるほど。ここまでお話をおうかがいしていて、なんかこれまでの経歴を丹念に追って深く恋愛観を掘り下げていくという、自分でも気づいていなかった自分の一側面を発見していくというプロセスを辿れていないというか、結構浅めの最近あった出来事について話を聞くレベルになってしまってますね。うーんもうちょい深くやりたいんですが」
「そうですか」
「あんま興奮してしまうと、あ僕がね、六十を超えて百二十ぐらいいってしまうから、塩梅が」
「……」
「六十ぐらいで。僕の思い描いていた流れというのがね、現代から遡っていって生い立ち、幼少の頃、特に幼い頃の親子関係にまで話が行ってから、人間関係ってなんやろう、っていうのを、一つのナラティブとしてまとめあげたいってことで」
「ナラティブってなんですか?」
「物語ですかね」
「へー」
「いやー! でもどうしようかな、めっちゃ聞きたいなそれ、他人の噂って楽しいもんなあ!」
「別に全然、話せることなら話しますけど。小説になるんですか」
「どこをどのぐらい小説化するのかというのは基本的に僕の裁量に任せてもらおうと思ってて。それで発表する前に一回原稿チェックしてもらうんで、それで問題なければそれで」
「あーはい」
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