考え過ぎやろ

 まだ鳴り止まへん。iPhoneの通知ではなく今まで君に言われたこと全部が脳内で。君の人生、僕の墓、好きな建築、家族、どうでもいい居酒屋のジョッキ、ぶつかったりして、音っていうほどでもない微かなの鳴り続けとる。

自分にしては立派な自己開示を行なって「いや色々考えた結果、こうなんよ! 悲しない?」という概要の演説をね毎回飽きもせず。いやー。

 君が言う。

「考え過ぎやろ」

 いやー。


 店を出た後、別に捨ててもいいような夜景が広がっている。飯とか酒とかもう僕はどうでもいいし、会話しか残らへんし、会話もすぐに思い出せなくなって、ニュアンスだけが手元に残って。手は繋がれへんかった。セックスはなし。微妙なニュアンスをありがとう。


 色々なことが絡まっとるな。僕が完璧な作家になると信じてないこと、どうせ就職できないと嘆くのをたしなめること、出会ったころの淡い期待、裏切られたと思った頃の深い失望、セックスはしないけどたまに会って飲むぐらいなら別に構わないとかそういう地点。

 でも思うんやけど、いつも同じ夜景を見てるようでいて、実際は色々な光が少しずつ違うものに変わっていってて、ちょっとの時間で今まで見たことのないものが広がるって漠然とは信じられへんやろうか。いや基本ネガティブな人間やけど、どうしても君とか光とか変わっていくことを期待してもうてる。期待してもうてるのはどうしようもないことやから。

 もちろん見えなくなっていく領域はあると思う。僕はどっちかっていうと忘れられない方やけどいつまでも覚えていられるほどの容量はない。僕が忘れたことを君が覚えて、君が覚えていないことを僕が忘れないようにすればバランス取れるやん。


 センテンスっていう閃光、空中でひらりと翻る一瞬のことだった。僕は見たしずっと考えてるけど君はどうなんかな。気になる。

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