第22話(side:透)
期末テストも球技大会も終わり、あと数日で夏休みだ。
クラス中がもう休みモードになっている。
朝から友達と集まって話す内容は夏休みには何をするかどこに行くか、そればかりだ。
いつもは生きている世界が違うのかというくらいに話す内容が噛み合わないグループの違う奴ら。やんちゃな奴らとオタクっぽい大人しい奴らも、この時ばかりは話している内容にそう差はない。
勿論僕だって心はもう夏休みであり、例外ではなかったが、ある一つの決めなくてはならない問題が僕には残っていた。
夏休みの期間をマンションで過ごすか、家に戻るか。
昨日、母親から一体何日に帰ってくるのかという連絡があった。
決まったらこっちから連絡すると通話を切ってしまったが、僕はどうするつもりなんだろう。
どうしたいのかどうなりたいのか自分でもまだ整理出来ていない。
自分の気持ちが自分自身だというのに一番分からない。
今のままではまだ帰れないとも、思う。
僕の今の状況は、心情は、大人からすればしょうもない意地を張っているだけなのかもしれない。けれど思春期の意地というのは大事なものだ。
僕はそう思う。これは今の僕にとって大事なものだ。
まだアンバランスなんだ。人生の練習をしている最中なんだ。意地くらい張らせてほしい。
自分が決めたことに後悔せずに済むように、無意味に見えるかもしれない悩みでも、きちんと向き合う時間を与えてほしい。
まだ子どもなんだ。甘えたっていいじゃないか。
これは言い訳だろうか、甘えだろうか。許されないことだろうか。エゴだろうか。そう、悩む。でも僕は僕の考えを僕くらいは肯定したい。
意地を通したいし、向き合いたい。
暑い空気にぼんやりとしていると、気づかない内に朝のホームルームが始まっていた。もう担任が教室に来ていて出欠を取り出している。
自分が呼ばれる前に気づけて良かった。何度も名前を呼ばれるのは格好悪い。
「宮田。宮田。宮田紗智。いないのか? ……なんだ休みか? 休みの連絡は入っていないはずなんだが。宮田が無断欠席か……珍しいな。誰か何か聞いていたりしないか?」
「知りませーん」
ほんの少し嘲りを含んだ声で女子が言う。鼻にかかった甘ったるい声が悪意を助長させているように聞こえる。
「なんだよ誰も知らないのか? おいおい、ハブるとかそういうのは止めてくれよ? いじめとかするんじゃないぞ。よくないぞいじめは」
「先生、ハブとか死語だから死語」
無頓着さに苛立つ。大人の癖に、教師の癖に、口にする言葉の軽率さに呆れる。
無断欠席をしないタイプの彼女。金曜日に見た青い顔が妙に気になる。
クラスメイトから見下げる視線を向けられても、陰口をたたかれていても揺らがなかった彼女。
彼女がああまでして参考書を解く理由。
遅くに帰ってくる親。
家族の話になると泳ぐ目線。
すがるような目をした癖に「友達じゃないから答えられない」と言った頑固なやつ。
不器用だ、本当に。
どうしようもなく不器用だ。
君だって、子どもなんだ。誰かに甘えるくらいしたって良いじゃないか。
彼女が口にした友達の定義が頭をよぎる。
友達でもない、ただのお隣さんはどこまで踏み込めるだろうか。
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