二十話~姉のことが嫌いだ。~
――――姉のことが嫌いだ。
姉は人見知りで、引っ込み思案で、いつも周りから助けてもらっていた。
ひまりの方が歳下なのに、妹なのに。いつもひまりより、姉の方が優先された。姉の方がひまりより情けないから、姉の方が優先された。
おかしいじゃん、といつも思っていた。どうして、しっかりしているひまりの方より、情けなくないひまりの方より、情けない姉の方が優先されるの?
全部、情けなくて弱い姉が悪いのに。
でも、そんな情けない姉は、ひまりの姉であろうとしていた。
ひまりが、周りの気を引きたくてワガママを言うと、姉が真っ先にそのワガママを叶えようとしてくれた。姉は、いつも妹であるひまりに、色んなものを譲ってくれた。姉はひまりに優しかった。情けないクセに、あの姉は、紛れもなくひまりの姉だったのだ。
だから、どうにも気に入らないことは沢山あったけど、姉のことは嫌いではなかった。決して好きでもなかったが。少なくとも、幼い頃は。
隣の家に住んでいる一人の男の子がいた。
ひまりより一つ歳上で、姉と同い年。バカな奴で、アホな事ばかり言っていて、何も考えてなさそうな男の子だった。
それでも、その男の子と一緒に遊ぶのは楽しくて、たくさん笑えた。その男の子と一緒にいるのは、居心地が良かった。
その男の子は、ひまりのワガママを嫌な顔せず聞いてくれたし、同学年の男子たちと違ってひまりにいじわるもしてこなかったし、ひまりより姉のことを優先するという事もなかった。
でもそれは、姉よりひまりのことを優先してくれるという訳じゃなくて、ただ単にその男の子がひまりと姉に分け隔てなく接してくれたというだけの話なのだが。
いつだったか、姉とその男の子が、二人で近所のお祭りに行った日があった。ひまりはその時、友達と一緒にお祭りを回る約束をしていたから、その二人と一緒には行かなかった。
そのお祭りがあった数日後、姉がその男の子から出店で当てた指輪を貰ったという事を知った。
モヤモヤした。
よく分からないけど、物凄く嫌な気分だった。
その男の子にそんなつもりがない事は分かっていたが、自分より姉の方を優先された気がした。それが酷く、本当に酷く気に入らなくて、姉からその指輪を奪おうとした。
いつもは、ひまりがこうやってワガママを言えば、姉はそれを聞き入れて、ひまりに優しくしてくれるのに、その時だけは、その時だけは、姉はどうしてもひまりに譲ってくれなかった。
そして気付いたことがあった。
姉はひまりに優しくて、色んなものを譲ってくれるけれど、ひまりが一番欲しいものだけは、絶対に譲ってくれないのだ、と。
ひまりが一番欲しいものだけは、姉が持ってしまっているのだ、と。
後にも先にも、あの時ほど悔しくて泣いた日はない気がする。
取られたくない、と思った。
その男の子を姉に、取られたくない。
その男の子は――ハルくんは、ひまりのものだから。絶対に渡さないから。
ちょっと前まで部屋に引きこもっていて、せっかく邪魔が無くなったと思っていたのに。
お姉ちゃんはそんな引きこもりで情けない自分を利用して、またひまりからハルくんを取ろうとしてくる。ハルくんはバカだから、そんなのでも簡単に騙されちゃうのに。卑怯だ。卑怯だ。
だからお姉ちゃんなんて嫌いだ。
…………絶対に、渡さないもん。
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