狐と狸

水曜

第1話

 赤いキツネが好きだ。

 あのお揚げさんが愛おしい。

 もちもちしたうどんを噛み締めると幸せを感じる。

 だが、それは絶対に秘密だった。

 他言無用。

 私だけの誰にも知られてはいけない秘密。

 家族も仲間も、皆が緑のタヌキ派。

 緑のタヌキがあたりまえ。

 赤いキツネなど初めから選択肢にない。

 赤いキツネを選ぶなど誰も考えもしない。

 赤いキツネが好きだなんて口が裂けてもいえなかった。

 言えばたちまち奇異な目で見られるだろう。

 空は青い。 

 太陽は東から上り西へ落ちる。

 タヌキには天かす。

 そんな自明に背くがごとくの暴挙。

 仲間外れにあい疎外感を味わうくらいなら、私は自分の秘密を胸にしまって生きていくことを選ぶ。

 これで良い。

 これで良いんだ。

 何度自分に言い聞かせたことか。

 いっそ赤いキツネを嫌いになってしまえればどれだけ楽だったろう。

 だが、どうしてもそれはできなかった。

 どうしても我慢できなくなったときは、一人でこっそりと赤いキツネを食べた。

 食べるときはもちろん、買う時も誰かにばれやしないかと最新の注意を払ったものだ。

 ああ。

 もう我慢できない。

 誇り高き緑のタヌキ族たる私は、今日もこっそりと赤いキツネに湯を注ぐ。


 緑のタヌキが好きだ。

 あのかきあげが愛おしい。

 するっとしたそばを噛み締めると幸せを感じる。

 だが、それは絶対に秘密だった。

 他言無用。

 私だけの誰にも知られてはいけない秘密。

 家族も仲間も、皆が緑のタヌキ派。

 赤いキツネがあたりまえ。

 緑のタヌキなど初めから選択肢にない。

 緑のタヌキを選ぶなど誰も考えもしない。

 緑のタヌキが好きだなんて口が裂けてもいえなかった。

 言えばたちまち奇異な目で見られるだろう。

 空は青い。 

 太陽は東から上り西へ落ちる。

 キツネには油揚げ。

 そんな自明に背くがごとくの暴挙。

 仲間外れにあい疎外感を味わうくらいなら、私は自分の秘密を胸にしまって生きていくことを選ぶ。

 これで良い。

 これで良いんだ。

 何度自分に言い聞かせたことか。

 いっそ緑のタヌキを嫌いになってしまえればどれだけ楽だったろう。

 だが、どうしてもそれはできなかった。

 どうしても我慢できなくなったときは、一人でこっそりと緑のタヌキを食べた。

 食べるときはもちろん、買う時も誰かにばれやしないかと最新の注意を払ったものだ。

 ああ。

 もう我慢できない。

 誇り高き高いキツネ族たる私は、今日もこっそりと緑のタヌキに湯を注ぐ。




 

 

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狐と狸 水曜 @MARUDOKA

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