『コンテストには一か月早く、クリスマスには二か月早いショートストーリー』
蒼井 静
『コンテストには一か月早く、クリスマスには二か月早いショートストーリー』
やあ、やあごくろうさん。こんな場所によく来なすったね。
ほら、身体が冷えているだろう?部屋の奥に暖炉がある。そこで身体を温めて、今日はここで一泊していくといい。
しかし、どうしてあんなところを歩いていたんだい?そうか、
しかし、つつまれるか。つままれるという言葉の方が適切かもしれないね。ふふっ、なに、こっちの話さ。
もう少し待ってね。今、スープを温めているけれど、もう少し時間がかかりそうだ。時間つぶしにそうだな。クイズを出そう。
大人は「見た」と言い、子どもは「見てない」と言うものはな~んだ。
どうだろう、分かるかな?おばけ?う~ん、ちょっと違うな。現実?あはは、そんな妙にブラックジョークめいたことは言わないよ。
ヒント?そうだな、今日は何月何日かな?そう、12月24日だ。つまり…?
そう、正解はサンタクロース。ヒントが簡単すぎたかな、あはは、ごめんごめん。あ、スープが出来たみたいだ。はい。熱いから気を付けて飲んでね。
うん?この箱に入っているものが気になるかい?それは、私から孫たちにあげるプレゼントだよ。ほら、明日はクリスマスだろう?わたしは長生きだからね、渡さなければいけない相手がたくさんいるんだ。
ここの村は少々変わっていてね。サンタクロースは人間じゃなく、きつねだと信じられている。この村では、大人は皆、赤い服を着たおじいさんではなく、赤いきつねを「見た」というんだよ。
何で赤いきつねなのかって?う~ん、サンタクロースの使いだと思われているのかな。そこは、わたしも不思議なんだよね。なんで何だろうか。
目を覚ますと、目に入ってきたのはすすきのような黄金色の光景だった。それを抱くように自分は寝ていたようだ。そっと触れてみると、熱を発しているようでとても温かい。顔を押しつけて再び、瞼を閉じてみる。瞼の裏に、じんわりと赤い色が広がっていく。凍死してもおかしくない冬の夜を乗り切れたのは、自分の身体を温めるように寄り添っていたこの熱源のおかげだろう。
その行動で自分が起きたことに気づいたのか、視界をふさいでいた金色がそっと離れていく。
正体は、大きなきつねだった。
こちらの様子を確認するかのように一度振り返り、そのきつねは雪の中に消えていく。身を起こして、追いかけるときつねの姿は無かったが、200mくらい向こうに藁ぶき屋根がいくつか連なっているのが見えた。小さいながらも村であるようだ。下山する道を教えてもらうこと以上に、昨夜身に起こったことが気になる一心で、村への歩みを進めることにした。
「それは、恐らく赤いきつねさんじゃな。」
昨夜の出来事を詳細に話すたび、村人たちは口を揃えてこう話した。
「この村は昔から赤いきつねさんに守られとる。村の周辺で遭難していたお主を見かね、助けてくれたんじゃろう。」
「そうだったんですね。村の守り神ということでしょうか。」
「そうじゃ。この村には伝承があっての。飢饉のときは村人に食べ物を分け与え、村人に病があればそれを治してくれたという。村を激しい吹雪が襲ったときは…。お主なら分かるじゃろう?」
「その身を使って、温めてくれたってことですね。自分にやってくれたみたいに。」
もしかしたら、赤いきつねという一風変わった名前。それは、肌に触れたときの温かさに由来しているのかもしれない。
下山のルートを聞いて、村を後にしようとしているとき。村では子どもたちが外に出て、自分がもらったプレゼントを見せあっているところだった。
軽く挨拶をして、その子たちの隣を通り過ぎる。
赤いきつね様からのプレゼントへのお礼だろうか。背中から子どもたちの歌が聞こえてきた。
森の
山を越えるは二つ三つ
誰が言ったかキツネ村
寒さも病も飢饉ですらも
村人たちは怖くない
飢えぬ凍えぬキツネ村
昔からある不思議村
愛情深く温かい
赤いきつねがおわすとこ
『コンテストには一か月早く、クリスマスには二か月早いショートストーリー』 蒼井 静 @omkk
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