待ち合わせ
俺が意識を取り戻すと、事前に公開されていた画像の通り、そこは人々が集まる、噴水のある広場だった……というか密過ぎないか!?
……あ、ここでの密は問題ないんだった。さて、『あいつら』との待ち合わせは確か噴水だったよな……
日が照らす中、人々の合間を縫うようにして、噴水へ向かう。途中何度かぶつかったが、なんとかそこにたどり着くことが出来た。さて、この辺りに……
──トントン──
何者かに後ろから右肩を叩かれた。その主に心当たりのある俺は、あえて右ではなく左を向……グニュ──俺の頬に何かがめり込んだ。
「はは、今回は僕の勝ちだね。ねぇ今どんな気持ち?」
「……『この野郎』」
陽気な声の主へ振り返ると、そこには白い法衣を身に纏った、黒髪と金色の瞳の丸顔のイケメンの少年がいた。俺の頬にめり込んだであろう、彼の人差し指を、その白い法衣でゴシゴシ拭いている。ハハハ……この野郎。
「それで、藤本……」
「ダメだよ? ここではフライと呼んでね」
「ああ、悪いなフライ。俺はクルハと呼んでくれ。篠木はもう来てるのか?」
「いや、まだ来てないよ。多分もうそろそろ来ると思うんだけどね……」
そう言って彼は群衆に視線を移した。まだ来てないのか……あいつの場合、チュートリアルをスキップしてでも早く来たっておかしくは無いのだが……
「ホイホイちょっと失礼~」
すると突然、人々の間から白髪碧眼の縦長の顔の少年がニュッと現れた。その腰には一振りの剣が見える……そのまま彼は俺達の方へ向かってくる。まさか……
「わりぃわりぃ。またしたな……俺だぜ俺、篠木だぜ? え、もしかして人違い?」
そう言って彼は頭を掻きながら俺達の前で止まった。右足をピンと伸ばし、左足を曲げて立つという、なんとも独特な姿勢が、彼を本物だと証明しているかのようだ。
「いや、あってるぞ、俺が寒鍋で、こっちが藤本だ……お前はこっちでの名前は何にしたんだ?」
彼は俺とフライを交互に数回見た後、胸に親指をビッと向けた。ダセェ……まあ、こいつは元からそんなやつだったな……
「俺はシンって名前にしたぜ。二人はどうしたんだ?」
「俺はクルハだ」
「僕はフライだよ」
「……さて、自己紹介……も終わった事だし、今のうちにフレンド登録と、パーティー作成をしとかないか?」
「おけ」
「うん、良いよ」
────
──「そういやよ、俺はジョブを『剣士』にしたんだが、二人はどうしたんだ? まあ、フライは『神官』だろうけどよ」
「察しの通り僕は神官さ。杖もって敵を叩き潰すってのは中々貴重な体験だからね」
そう笑顔でさらっと言うフライに若干恐怖を覚えるが、まあそんなヤツだったな……と自分に言い聞かせる。
「ああ、フライ、俺達中2勢はR15の制限が掛かってるから、多分お前が思い描いてるような光景は訪れないぞ?」
「え、そうなの!?」
「そりゃそうだろ。子供達に悪影響を与えると『大人達に』みなされた物は、規制を掛けられちまうのさ……」
「うそん……せっかく『撲殺神官』目指してジョブを決めたのに……垢つくり直そうかな……って出来ないんだった。オワタ……」
フライはガックリと項垂れた。まあ、こればっかりはどうしようも無いから、我慢しておくれ……てか『撲殺神官』て……
「それで、フライは放置しとくとして、クルハはジョブをどうしたんだ?」
彼は俺へと目線を戻した。
「いや放置するのかよ……まあいいか、俺はな……ちょっとかなりレアなヤツだから、メールで伝えるぞ。フレンド登録したから確か使えたはず……お、あったあった……送った当人と受け取り先しか見れないように設定したか?」
「あ、察し……設定したぜ。レアなヤツか。俺の仲間がラノベの主人公みてぇに無双するようになるのか? …………あ、はい乙ぅ」
「うん、したよ~……ブッ……マジでワロスなんだけど……名前からしてネタじゃん」
「そんな反応をすると思った……とまあ、
こんな感じだな。ついでにスキルについても送っといたぞ。で……これからどうする?」
「……まあ、とりあえずモンスターと戦おうぜ。ギルドに行って依頼を受けるのもアリっちゃアリだが、モンスターの強さを事前に知っておいてからでも損はねぇ。」
シンが腕を組んで言った。表情は至って真剣で、何か頼りになるオーラが出ているような気もしなくもない。
「賛成だな」
「僕も……で、どこに行くんだい? この町の上か下か左か右か……この町のマップは個人で見られるから迷う心配は無いよ?」
マップを見てみると、どうやらこの噴水が町の中心にあるようだ。かなり良心的だな。
「希望を取る。皆、この町の東西南北のどこに行きたい?」
「俺は東だぜ」
「僕も東だね。決してわざとシンに合わせたわけじゃないよ?」
「了解。じゃあ、東に行くか……ポーションとか武器とか鎧とかはどうする?」
「また後で買えば良いんじゃねぇか? どうせ今から行ったって売り切れは必至だぜ?」
その後、メールでそれぞれの所持スキルの情報を共有した結果、こうなった。
フライ……『ヒールLv1』『棍棒術Lv1』『体力自動回復Lv1』
シン……『剣術Lv1』『遠見Lv1』『体力自動回復Lv1』
どうやらランダム選択を行ったのは俺だけのようだ。まあ俺ユニーク当てたし?…… と考えるだけで悲しくなる俺の心は一体……
────
──町の東側の門を出ると、そこには草原が広がっていた。風が吹いて草が踊り心地よい音を奏で……
「あっちに出たぞ!」「走れお前ら!」「早く殺るぞ! 他の連中に横取りされるな!」「お前あっちのヤツを殺れ! これは俺の獲物だ!」「殺ったもん勝ちだぜ!」「食らいやがれ、俺の確殺コンボ!」「〇ねェェ!」
うるせぇ……見晴らしが良いのをいいことに片っ端からリポップしたモンスターを殺りまくっている……こんなの俺達入れないぞ。
「なあ、ここじゃなくてよ、右手に見える森に行こうぜ。多分、そっちの方がここよりは狩れると思うぜ? 人も少なそうだし……というか戻ってくる連中しか見えねぇし……」
確かに、戻ってくる連中しかいない。これ絶対何かあるやつだよな……まあいいか。
「そうだね。やっぱりモンスター争奪戦は、人々の欲望が存在する限り無くなりそうにないね……これが人って生き物なのかな……」
「なんかめっちゃ名言っぽいなそれ……まあ人間は欲の塊ってよく言うしな……」
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